交渉を始めよう
向こうからは程遠志と鄧茂と護衛が2人、こちらからは俺と管亥と護衛が2人の合計4人で、交渉を始めた。
程遠志「やれやれ。この俺が官吏と話し合いすることになるとは…」
良師「先程から官吏、官吏と言っているが。父はともかく俺は朝廷から正式に任命された役人ではない。父の子として、広宗に住む民のために政務に参加しているだけだ」
程遠志「どちらにせよ民を下に敷き、上でふんぞり返ってるなら官吏だ」
良師「なら、お前からみれば村の長も官吏ということで構わないのだな?」
程遠志「違う!それは、村という空間の中で皆んなから選ばれた相談役みたいなものだ」
良師「なら父も良く民から相談されてるが何処が違う?俺は広宗を歩けば民から坊ちゃんと親しまれているが…」
程遠志「それは、ただ良い官吏というだけだろう。だが民から搾取してないとは言わせない」
良師「それは認めよう。民から作物を税として徴収している。その代わり、こちらは全力を持ってその生活を保証している」
程遠志「どうだかな。官吏ってのはな。自分に被害が及ぶ時、簡単に民を切り捨てるんだ」
良師「父もそうだと言いたいのか?」
程遠志「あぁ、そうだ」
良師「なら、お前は狭いコミュニティの中で育ったのだな」
程遠志「こみゅにてぃ?」
張角『良師よ。この世界で横文字は伝わりにくい。共同体と言い直せ』
そうだった…。
現代日本だと普通に使われる言葉でも今よりもずっと古い世界だと通じないよな。
俺のイマジナリーフレンドの張角の言葉を受けて言い直そう。
良師「すまない。狭い共同体の中で生きてきたと言いたかったのだ」
程遠志「それは否定できないな。戦災孤児だった俺にとっては、村長様が親であり、村の人たちが家族だった。それを1夜で失った…野盗によってな」
良師「そうか…それは辛かったな。だが野盗に奪われたのならどうして野盗に身を窶す?」
程遠志「野盗によって連れて行かれた女たちを救うため早急に先立つ物が必要だった」
良師「最も手っ取り早い道を選んだと?」
程遠志「あぁ、官吏と癒着するクズどもから奪って何が悪い」
良師「その者たちからの物資が無ければ生きられない者もいる。この世はギブアンドテイクなのだ」
程遠志「ぎぶあんどていく?」
張角『良師!先程も言ったであろう気を付けよ!』
ギブアンドテイクもダメか。
イマジナリーフレンドの張角の言う通り、気を付けないとな。
えーっとこれは確か与えることと受け取ることだな。
言い直そう。
良師「つまり俺が言いたいのは、この世は需要と供給で成り立っていると言うことだ。お前も村長の側にいたのならわかるだろう?村長は農作物を集めてどうしていた?」
程遠志「はっ!商人に売って、商人から生活に必要なものを買っていた。でも、それは良い商人だ。朝廷と癒着しているようなクズでは…ない」
良師「今、言い淀んだのが答えではないか?何故、広宗に来る全ての商人が朝廷と癒着していると断定できる?」
程遠志「そ、それは…」
良師「もう一つ言わせてもらおう。野盗が女たちを連れ去ったのは己の性欲の捌け口に使うつもりだろう。今この時もそういった目に遭っているのは明らかだ。助けたいと逸るお前たちが今やってるのは、そいつらと同じように他者から搾取すること。それを仕方ないと言う。これを愚か者と言わずに何と言えば良い?」
程遠志「……。」
良師「都合が悪くなればダンマリか?」
鄧茂「だったら兄貴は?俺は?どうすりゃよかったんだよ!たった2人で玉砕覚悟で野盗に突撃すりゃよかったのか?死ねってことか?」
良師「それは違う。事情を話し助けてくれる人を探して、頼れば良かったのだ。今の朝廷がお前たちの言う通り腐っていようともそれは全ての人間ではない。我が冀州刺史の王宏殿は清廉潔白な人物だ。お前たちの訴えも無碍にはしなかったであろう。今となってはもう遅いが」
父から今の冀州刺史について聞いただけの話だが。
ちなみにこの王宏は、かの有名な王允の兄だそうだ。
程遠志「それは、俺たちも罪を犯したからだな?」
良師「あぁ。お前たちの行いを許すこともない…そこでだ。広宗の兵はまだまだ弱い」
鄧茂「弱い?よく言うぜ。こっちは40人も無力化されてるんだぞ!」
良師「それは、こちらの策にそちらがハマったからだ。真正面から打ち合えば人を殺したことのない我が兵らが勝つことはできなかっただろう」
程遠志「成程。お前の話が本当ならその点では確かにこちらは有利だ。積荷を奪う過程で、護衛を殺しもしている…」
良師「その者らにも帰りを待つ家族が居たやもしれぬ。その者は、父を亡くし母と共に生きてゆくしかない」
程遠志「そう…だな」
良師「だが、間違ったのなら償えば良い。今から更生すれば良いだけの話だ。そこで、提案だがお前たち全員、広宗の民になるつもりはないか?」
鄧茂「か、勧誘かよ!?」
程遠志「面白いことを言う。俺たちに何の利益がある?」
良師「引き受けてくれるなら、父に話してお前たちと共に連れ去られた人たちを助けることに協力するというのはどうだ?」
程遠志「な!?足下を見ようとするとは…これだから官吏は…」
良師「このままだとどっちみちお前たちは、後にも先にも進めないと思うが…どうだ?」
鄧茂「兄貴、まさか乗らないよな?今ここでコイツらを殺せば、何の問題もねぇ!」
程遠志「なら、次はもっと上が出てくるだけか…。」
良師「約束はできないが俺に協力してくれるならいつの日か腐った青州の地に黄巾の旗を立てることを誓おう」
程遠志「黄巾の旗?」
良師「腐った蒼天の奴らを許さないという覚悟を持った旗だ」
程遠志「フハハハハ。それは凄く良いな。俺の親代わりだった村長もきっと喜ぶ。村のみんなも安らかに眠れる。わかった。我ら程鄧賊徒100名とその家族200名は、広宗に帰順する!罪を裁くならこの首一つで勘弁してもらいたい!」
鄧茂「兄貴!馬鹿を言うな!それなら俺も!」
良師「馬鹿者どもが!お前たちが死んで、誰が連れ去られた人たちを助けた後の面倒を見るのだ?」
程遠志「良いのか?」
良師「問題ない。どうせ、商人どももお前たちの顔までは見てないのだろう?」
程遠志「深く頭巾をかぶっていた…」
良師「では、皆んなで再出発すれば良い」
程遠志「わかった」
こうして、言葉による説得で大賢良師は、後に黄巾の主力を担うこととなる程遠志と鄧茂を勧誘することに成功したのであった。
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