朝廷のためじゃなくこの地に住む民のため
大賢良師は波翁から聞いた野盗の出没範囲から捜索範囲を広宗の森深くと定めた。
付き従うのは、管亥を始め広宗が抱えている常備兵100人である。
良師「この森は伏兵を配置するのに最適な地形だな…。」
管亥「張角様は、野盗にそこまでの知恵があると思われますか?」
良師「間違いなくある。そうでなければ、商人が雇う武芸者の連中がここまで手玉に取られるのはおかしいだろう」
管亥「そんな連中を相手に勝てるでしょうか?」
良師「管亥が不安になるのも無理はない。我らは人を殺したことのある武芸者たちよりもはるかに劣る治安部隊なのだからな。だが、案ずるな。お前たちにはこの俺が付いている」
管亥「流石は張角様です。ですが御身をあまり危険に晒しませぬように」
良師「わかっている」
大賢良師たちが見つめる森の中で息を潜め、朝廷の兵たちが攻め寄せるのを手ぐすね引いて待つのは、程遠志に先鋒を任された鄧茂である。
鄧茂「広宗の奴らには悪いと思ってる。でもな。母さんを取り戻すためには金も物資も全然足りねぇんだ。力がなきゃ奪われるしかねぇ。俺たちはそれを肌で感じてしまった」
賊徒A「鄧茂様。我らも同じ気持ちです。搾り取られ行き場を無くした我らを程遠志様は温かく迎えてくださり、鍛えてくださった。商人の護衛より強かろうと恐れはしませぬ」
鄧茂「よく言った。それでこそ、俺たち程鄧賊の仲間だ」
程鄧賊とは、程遠志と鄧茂の頭文字を取り、仲間内で呼ばれるようになった呼称である。
鄧茂「しかし、全く動きがないな」
賊徒B「はい。不気味なほどに」
その頃、大賢良師は。
良師「これより、兵を二手に分ける」
管亥「兵を二手にですか?」
良師「あぁ、1つは俺自らが囮となり敵を惹きつける。兵は80人ほど。半分もいなくなったら敵に動きを気付かれるゆえな」
管亥「張角様自らが囮など正気ですか!このまま全軍で森に入るべきではありませんか?」
良師「あぁ、正気だ。敵の数がわからぬ以上、管亥の言う通りにこのまま全軍で森に入れば、伏兵によってこちらが殲滅される。賊徒がいかに盛況と言えども頭を抑えれば、瓦解するものだ。管亥には残りの20人を率いて、森の側面から回り込み伏兵を撹乱せよ」
管亥「まるで伏兵が居ることが前提の作戦のようですが…」
良師「間違いなく伏兵は居る」
この時代、朝廷の兵が武芸者に劣ると認識されていることはないだろう。
我が広宗は、治安を守る部隊であり、人を殺したことのないものばかりである。
練度も武芸者よりも格段に劣ると言わざるを得ない。
そんな俺たちが策も無く飛び込めば、その命を悪戯に散らすだけだ。
なら、こちらも策を弄するまで。
伏兵が居そうな場所に管亥率いる20名で奇襲をかける。
向こうは待っているわけだから効果は抜群のはずだ。
管亥「分かりました。張角様がそこまで仰られるのでしたら、一つ約束してください。囮として決して無理をしないと」
良師「あぁ、勿論だ」
こうして管亥が率いる20名が本隊をこっそりと外れ、森の側面に回り込んでることなど知らず息を潜めたままの程鄧賊。
鄧茂「クソッ!まだ動かないのかよ!」
賊徒A「鄧茂様、お声を静かに。伏せていることが悟られますぞ」
鄧茂「そんなことは言われなくてもわかってる!だがな!朝廷の兵の中には特にヤバい将軍が3人いると聞く。アイツらがその誰かの配下って可能性は捨てきれねぇだろ!」
賊徒B「ですからお声を…何やらあちらが騒がしいようです」
鄧茂「向こうにも兵を伏せていたよな?」
賊徒B「はい」
鄧茂「別の連中でも引っかかったのか?いや、そんな報告は受けてない。兄貴も広宗の官吏が動いたとしか…」
その頃、鄧茂たちよりも少し後方の森の中に伏せていた程鄧賊の一団20名は混乱の最中にあった。
賊徒C「コイツら何処から!?おい、直ぐに立て直…ガッ」
賊徒D「直ぐに武器を構え…うっ」
賊徒E「直ぐに鄧茂様に知らせ…をふっ」
管亥は人を殺すことに長けているわけではない。
だが、この若さで広宗の治安を預かるだけあり、制圧に関しては一日の長があった。
みるみるうちに20名を無力化させ、縄で縛り付けたのである。
鄧茂「直ぐに確認の兵を向かわせろ!」
賊徒A「はっ!」
賊徒B「前も動きがありました!」
鄧茂「良し!ようやくか!そのまま、こっちに来い」
森の手前で止まり大声を出す大賢良師。
良師「我が広宗の民のための物資を奪い、我らを飢えさせるのがお前たちの目的か?」
鄧茂「チッ。これだから朝廷の兵は侮れないんだ。俺たちが伏せてることがよくわかったな!お前の質問に答えてやるよ。朝廷の奴らはいつも民のためと小気味良い言葉を使うけどな。己のことしか考えてねぇ奴らばっかりだ!お前もどうせそうだろうが!」
良師「だから、自分たちも好き勝手に他の奴らから奪っても良いと?それでは、お前たちと同じような苦しみを持つものが増えるだけだとわからぬのか大馬鹿者が!」
鄧茂「な!?言わせておけば、お前らだって、民から搾取ばかりだろうが!」
良師「広宗のことをよく知りもしない癖に民のために毎日身を粉にして働く我が父を侮辱するな!」
鄧茂「朝廷に仕えてるってだけでどいつも一緒なんだよバーカ!」
良師「賊徒に何を言っても無駄だな。さっさとかかってきやがれザーコ」
まるで子供の喧嘩であるが大賢良師は囮、鄧茂は伏兵である。
伏兵が話しかけられたからと受け答えして、挑発されていては、立つ瀬がないと言わざるを得ない。
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
少しでも楽しい・面白い・続きが見たいと思って頂けましたら、下にある⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎から評価してくださいますと執筆活動の励みとなります。
それでは、次回もお楽しみに〜




