殺さない戦い方
「……他の魔法を練習しましょうか」
私は、殺さない魔法を練習することになった。
「まずは、攻撃魔法ね」
「攻撃……? 殺さない魔法じゃ――」
「対象は――魔剣よ。魔剣が壊れたら人間は撤退するしかない」
武器を壊して勝つ……。それなら私にも……?
「やり方は人によって違うのだけどね。花を矢のように標的に向かって射るの」
そう言って、リリアさんはお手本を見せてくれた。
藤の花が現れて、それが物体に素早く刺さる。花は実体がないはずなのに、攻撃された物体は花が刺さった点からガラスのように砕けていった。
私も、カルミアの花をイメージする。出現した花は、真っ直ぐで矢のよう。
――幻花穿
頭の中で狙いを定めると、幻の花は標的に命中した。花の矢が、物体を壊す。不思議な光景だ。
「良いじゃない。その精度なら実戦でも使えるわ」
「ありがとうございます」
これで勝てるなら――私は人を殺さなくていい。武器を攻撃するのは勝つため。私はまだ人間でいられる。
「さあ、他の魔法も練習するわよ!!」
「……はい!」
リリアさんは、こんな私でも戦えるように教えてくれる。魔族だからって、悪い人たちだけじゃない――いつの間にかそう思っていた。
***
――花膜
白い花が空中に浮かび、ゆっくりと重なり合う。気づけば、それはしゃぼん玉のように私を包み込んでいた……これは防御魔法。リリアさんの毒のような花びらを受けても、盾のようにそれを遮断する。
――――――
――花弁惑
カルミアの花が、一面に広がって舞う。これは、意識を狂わせる魔法らしい。花は人間には見えないはずなんだけど……。
「良いわね。そろそろ止めてちょうだい」
リリアさんにそう言われて止めようとすると、花びらがふっと消えた。イメージだけで魔法を操れるなんて便利。
「人間に花びらは見えないけど、敵には認識阻害がかかるのよ。視界が狂って判断も鈍くなるの」
あ……!! 受けたことあるよ、その魔法!! あれは本当に死にそうになる。まるで酔った時みたいに、平衡感覚が無くなって意識もおぼろげになる。
「言葉だけじゃ分かりづらいかしらね。少しだけかけるわよ。気分悪くなったら言ってちょうだい」
……え? 今からかけるの?
その瞬間、藤の花が舞った。綺麗で可憐な花びらたち。いつの間にか私は足を崩して倒れていた。起き上がろうにも足に力が入らない。
……なんで起き上がろうとしたんだろう。忘れちゃった。
目の前にいたはずのリリアさんの姿も、少しぼやけて見える。ちょっと遠ざかった? ……あれ、距離感が上手くつかめない。
「……そろそろね」
その一言で、私の意識はここに戻ってきた。いや、さっきまでも意識はあった。でも、あのときは何かが欠けていた。
……闇精霊との戦闘でかけられたのと同じだ。あの時はルーカスに解いてもらったんだっけ。錯乱系の魔法は、精神力が高いとかかりにくいから。
――――――
「最後の魔法よ。擬態魔法――他の生き物の姿を借りる魔法よ」
あぁ、見たことある……。蚊とかに擬態されると見つけられなくて厄介なんだよね。
リリアさんの身体が、藤の花に包まれた。そして花が消えて中から現れたのは1匹の蝶。美しくて、どこか儚げだけどちゃんと芯があって。
美しくて見とれてしまう。敵だったらそんなことは思わないのだろうけど。
私も練習しないと。
――借姿花
花がたくさん現れて、私にまとわりついてく。なりたい姿を想像して……。
リリアさんは目を見開いて驚いていた。そう、だって私がなったのは――




