初めての戦闘
「まだ練習よ。大体は私が片付けるから最後だけやってみなさい」
「……はい」
遠くから、人間達がやってくる。先頭の人は魔剣を持っていて、その近くには聖女らしき人もいる。
リリアさんは人間がこちらに近づく前に藤の花を出現させた。……綺麗。
そしてその花が散ったかと思うと、風がふわりと吹いた。ここは戦場なはずなのに、どこか優しくて心地よい風。
花びらは風に揺られて人間の方に舞う。……そして溶かす。さっきまで動いていたはずの人間が跡形もなく消えていく――ただ1人を残して。
リリアさんの魔法はルシエルさんよりもグロいかもしれない。……でも、目を背けたらだめだ。
悲しい。辛い。苦しい。胸が痛い。……人間が溶けているのを見て、誰が冷静でいられる? 怖い。リリアさんが怖い。優しくても、リリアさんは闇精霊。人間に容赦しないし、冷酷だ。
ただ1人生き残った人――さっきまで先頭にいた騎士は、私達を睨みつけていた。
……そうだよね、うん、わかってた。
でも、そんな殺意を向けられるのは初めてで。
闇精霊とか魔族は、人間に殺意を向けてはいない。殺意というより、娯楽だ。楽しいから殺す、ただ命令されたから、そんな視線を私は何度も見てきた。
……でも、目の前の人間は違う。本気で、怒ってる。慈悲も優しさも何もない、殺意だけがこもった鋭い視線。
彼の仲間を殺したリリアさんはもちろん、私にも突き刺さっている。
「……カルミア、やりなさい」
……リリアさんは私に練習させるために彼を残してくれたんだよね。
考えている間にも彼は私に近づいてくる。私の方が弱そうだから先に狙ってるのね。
練習と同じことをするだけよ、アウラ。
……こわい。
早く殺さないと自分が殺されちゃうよ。自衛の為でしょ、私。
……こわい、たすけて。
相手は敵よ。何にそんなに怯えているの?
……やだ、しにたくない。
魔剣が、近づいてくる。彼は、私を生命として見てない。――ただの標的。当たり前だ。人間にとって闇精霊は悪でしかない。私も、ルーカスでさえそうしてきた。私に彼のことをとやかく言う資格はない。
……ごめんなさい、リリアさん。せっかく教えてもらったのに。
……私にはできない。
もう無理。
そう、これはきっと私への報い。
私は、目を瞑った。
避けることすらできない。
……私は、仲間がいないと何も出来ない。
役に立たないんだよ。
……でも、いくら待っても苦しみはやって来なかった。
……なん、で。
恐る恐る目を開けると、そこに人間はいなかった。
代わりに、リリアさんがこちらを見つめている。
リリアさんが助けてくれた? ……私は、闇精霊に助けられたんだ。
「……何をしているの」
リリアさんの声は少し震えていた。私は何も答えれない。
「敵に同情した? 殺すのが怖い?」
「同情なんて――」
「嘘をつかないでちょうだいっ!! ……あなたが躊躇っても、相手は躊躇しないのよ」
……それは、そうなのかもしれない。現に、人間は攻撃しない私を殺そうとした。
「……相手に同情した時点で負けよ」
……分かってる。
分かってるけど。
……それは酷だよ。私は結局人間。
目の前の人間を殺せるわけがない。自分に闇精霊は向いてなかったんだろうな。
……あのまま、殺されていれば良かったのかな。闇精霊は所詮魔王の捨て駒でしかないし。
「……殺せなくてもいいのよ。でも、死ぬことだけは許さない。あなたの命は、あなたが思っている以上に大切なのよ。私も、ご主人様もあなたに死んでほしくないの」
……殺せなくても、いい。
ただの慰めかもしれないけど、もし本当にそうなら。
こんな私でも強くなれる?
――そんなことを、思ってしまった。




