↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リロード  作者: 黒十二色
番外編 幕間集
99/125

新渡戸とアキの出会い

視点:新渡戸夕貴(途中まで)→林田亜季(途中から)

「もう、二ヶ月以上経っちまったのか」


 部屋の窓から見える川沿いの桜並木。その桜が高速で散り始め、ようやく春が来たことを知る。


 春になったからと言って、きっと何が変わることもない。


 日常は流れていく。


 それで、いい。それでいいんだ。


 失ったものは多い。でも人間が生きるということは常に何かを失うこと。


 何度も誰かを失ったことを思い出せば、思い返せば、悲しみだって薄れてゆく。


 それもまた失うことだろうな。悲しいという心を失うことでそれがまた悲しい、で、それがまた悲しい、そう言っている間にきっと悲しくなくなるのが、もっと悲しい。


 終わらない渦だった。


 灰色の塀を背に、霧野みやこの墓は建っている。


「字、曲がってら……。下手っくそだな……」


 ひろみの名前は刻まなかった。


 自宅から伸びる下り坂を歩く。尋常じゃない急斜面。


 入り組んだ住宅街を歩いて、公園に着いた。


 桜並木を歩く。


 歩く。


 たまに走ってみる。


 桜がアスファルトに落ち、踏まれて、路面が汚れたように見える。


 ――悲しげ。


 橋を渡って、駅に向かう。


 何の感情もなく、歩く。


 早朝。春とはいえ、まだ肌寒い。


 駅ビルの二階と、街道の反対側の歩道を繋ぐ歩道橋。


 細い鉄柵に上って踊り歩く。


 落ちそうになる。


 落ちなかった。


「こころーまずしきーうそつーきのー♪」


 鉄柵を渡りながら、自作にして即興の歌を歌う。


 すぐに鉄柵の終点。降りる。


 女の人と目が合った。


「……こんにちは」


「おはよう」


 いきなり噛み合わなかった。


「この辺の人?」


「そうだ、地元の人間だ。君は見ない顔だな」


 何を言ってるんだか。しかも妙な紳士口調だし。


「こんな都会で、そんな毎日顔合わせる人なんて、そういないでしょう?」


「…………」


「頭、すごい桜ついてるよ。花びら」


 言って、俺に近づいた女は俺の頭の桜を払った。


 超高速で地に落ちた桜。


「……あーあ」


 俺が呟くと、怪訝な顔をしていた。俺は気にせず続ける。


「頭に乗ったまんまでよかったんだけどな」


「でもキミの頭から落ちた瞬間の花びらは、キレイだったよ」


 変な女だった。



 もしも、鉄柵を渡りきれなかったら。散歩に出かけなかったら。桜が舞ってなかったら。


 もしも、ひろみがいなかったら。俺が死んでいたら。歌わなかったら。


 きっと、この人には出会えなかった。


 このひとは、きっと俺を包んでくれる。


 予感があった。


 俺の予感は、よく当たるんだ。


   ★ ☆


 あたしは孤独だった。


 春になれば、何かが変わると思った。


 今何も変わっていない。


 歩道橋から続く道、駅ビルの二階のまだ開いていないシャッターの前に座り込んで、星空を見ていた。


 自分の知っている誰かが、同じ空を見ていてくれたらいいなとか、詩人みたいなことを思った。


 一人になってしまった。最後の砦だった親友である猫と、恋人である猫にも逃げられて、ここで、ただだらしなく座り込んでいる。


「ホームレスみたい」


 空から見る目線で、自分の姿を想像して、そんなことを呟いた。


 学校にもいかず、働きもせず、一体何をしているんだろう。


 色々なことがあった。楽しかった高校時代。でもその時に出会った人達は今、私の近くにはいない。いろんな人と、お互いに裏切りの連続で、これでもかってくらいにすべてがぶち壊れて、最近誰とも会っていない。弟とさえ連絡がとれなくなった。


「なつかしい……」


 鮮明に思い出せるほど、その後の人生は……ねぇ……。


 閉口閉口。孤独孤独。


 何が招いたんだっけ、そんな事態。


 私が悪いのだけは、わかっているんだけど。


 一人だけ心配して時々メールをくれる子がいるけれど、それだって……。


 嘘ばかり吐いたから、そりゃあ信用されなくなって、置いていかれてしまうのも仕方なかったな。


 溜息。目を閉じた。


 春になれば、何かが動き出すと思った。


 春になった。


「こころーまずしきーうそつーきのー♪」


 歌がきこえた。


 その声のした方を向くと、高校生くらいの男の子が一人、歩道橋の鉄製の手すりを綱渡りみたいにして渡っていた。


 よい子は真似してはいけない危険行為。


「よっと」


 言いながら、歩道橋を渡りきって飛び降りた。


 男の子は安全な着地をした。


 私は彼をじっと見た。綺麗な顔をしていた。


 頭の上には桜の花びらを乗せて、彼も私をじっと見つめていた。


「こんにちは」


 私が言うと、


「おはよう」


 と返ってきた。そりゃないな、そりゃないよ。


 ……頭に桜を乗せたひと、私と遊んでくれないか。


 返事がなくても構わない、あなたの後ろをついて行くから。


 走ってでも、空を飛んでも、時間を遥かに越えてでも。


 いつか別れるその日が来ても、悲しくないよと強がるよ。


 寂しくないよと強がるよ。


 怒られたってそうするよ。


 こころまずしき嘘つきの……。


 いつかこの手は繋がれる。予感がした。


 春になった春になった。


 何かが変わったような、気がした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。