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リロード  作者: 黒十二色
番外編 幕間集
100/125

名前のなかった男の手記

   【一冊目】


 母が死んだ。


(破かれている)


 修行した。厳しい修行だったが、身につけた。

 師匠が死んでしまった。


(破かれている)


 松島という男と会った。

 組織を作ろうともちかけた。


(破かれている)


 組織を創った。

 松島の指示で、まるで学校のようなものになった。

 真っ白い建物の中で、勉強と戦闘を教えた。


(破かれている)


 松島が、運ばれてくる〈器〉を見て、組織を抜けると言い出した。

 遠くの街で、隠れ住むようになった。


(破かれている)


「せめて一日だけでも、この私が、誰も殺さない日を作りたい」

 松島はそう私に告げたのだった。

 そこで私は、聖なる日とされるクリスマスと、その前日は一切の殺人を禁じた。

 器を壊すなとも命じた。

 これには、もう一つ目的があった。

 器を生む者たちがクリスマスに器を壊される心配が無いことを知れば、クリスマスに器を生む者の研究者が全員集まって、会議なり何なりを開くのではないか、と考えたからだ。

 今は未だ組織の力がついていないから、岩城と森岡だけを生け捕りにして器を生む者を壊滅させるなどということは不可能に近い。

 未だ早い。

 いずれ個人が力を付け、そして、大人数で作戦行動ができるようになった時、その時が踏み込む時だ。

 もう一度梅田美咲良に会って、相手の情報や、本拠地について詳しく訊こう。

 樹海としか聞いていない。

 器を生む者を潰さなくてはならない。

 できることなら、誰も殺さずに。

 それが、松島の望みなのだから。

 いくら資金が無いからと言えども、少年少女達に「殺し」をさせてしまっている以上、今さらこんなことをいくら言っても滑稽かもしれないが、それでも、松島の最後の希望まで無下にするほど私は話のわからぬ男ではないさ。


(破かれている)




   【二冊目】


 山田ヒロアキと蔵野まち。

 彼ら二人は抜きん出た力の持ち主だった。

 だから、いずれ組織の中心人物となるはずだった。

 山田に関しては、頭の回転が速く、私の後継者に育て上げようと考えていた。

 器を生む者達の数はそれほど多すぎるというほどではなかったのだが、他の組織構成員が軟弱すぎたために、山田と蔵野は、通常の数十倍の数の仕事をこなした。

 そうさせてしまった。

 それに見合うだけの金銭は与えてはいたが、そんなものは、私の気を晴らすための気休めでしかなかった。

 子供のうちから、器壊しに従事させれば、人殺しにもすんなり入っていけるのではないか、そう考えて、器を壊させてしまった。

 しかし……子供たちは私が思っているよりも何十倍も人間だった。

 器を壊させ過ぎたのかもしれない。


 まず田山が〈器〉を愛し、根を上げ、脱走しようとしたところを私が捕らえて、田山が愛した器を目の前で壊した。「お前が脱走した所為で、この器は死んだ」と言った。

 そして、田山には……人殺しをさせるようにした。

 生きながらにして死んでいるようだった。

 そして田山は、ただ、強さだけを追い求めるようになった。


 山田に関しては、私がミスをした。

 末端から、器リストが届き、それを鵜呑みにして、「新渡戸夕実を殺せ」と松島に指令を出させた。

 山田はそれを首尾よく破壊し、持ち帰った。

 それが、人間だったという情報が入ったときにはもう、新渡戸夕実は死んでいた。

 私は迷ってしまった。

 このまま山田に真実を伝えずに、「器を壊してくれてごくろう」と言うのか、「人を殺してくれてごくろう」と、言うのか…。

 ――後者を選択した。

 器以外受け取るわけにはいかなかったから、私達の組織の同胞が埋められる墓に埋葬するように命じさせた。

 それから、彼は戻ってこなかった。

 新渡戸夕実の遺体も埋めなかったようだった。

 山田の行方はすぐにわかり、その近くに器が生まれたこともわかった。

 そしてそれを守っているんだろうということも……。

 私は、しばらく手を出すなと命じた。

 ……やはり私は甘いのかもしれない。

 蔵野と共に、ジョージの城へ乗り込んだ日に、私と彼は再会し、山田は私を殴ることもなく、ただただ、森野や、新渡戸夕実のために建てた墓の前で、泣いた。


 蔵野まち。

 彼女は、私が初めて拾った子だった。

 身寄りの無い子供を預かる施設の敷地の前で杖を倒して、その方向へ真っ直ぐ進み、行き着いたのが、彼女だった。

 彼女はすぐに頭角を現し、そして、私を超えてしまった。

 だから私は、彼女にリグレットを与えた。

 山田のことは諦め、蔵野と田山の二人に組織を引き継ごうと思っていた。

 そのために、蔵野に山田の守っている器を壊せと命じた。

 しかし……山田のことを諦め切れなかった甘い私は、山田を殺さず器だけを壊すように命じた。

 やはり私は、指導者には向かない。

 ……結局、蔵野はミイラとりがミイラになるようにして組織を裏切った。

 本来裏切り者には死を与えるのだが、蔵野と山田が組んでいるとわかり、そうなった以上、手の出しようがなかった。

 蔵野と山田の能力を知らない組織の連中や、田山は、殺そう殺そうと喚いていたが、行っても追い払われるだけだろうと思い、しばらく放置しておくことにした。

 それが、器を生む者たちを壊滅させる結果になるとは、思ってもみなかったが……。


 蔵野と山田は、たった二人で、器を生む者の拠点を、ほぼ全ての研究者ごと、地の底に葬り去った。

 その後私は……山田と戦いたがっていた田山を彼らの元に向かわせた。

 負けて戻ってきた田山は、生まれかわったように、生きた瞳を取り戻していた。





 しばらくして梅田美咲良が来た。

 ついにジョージの城を見つけたという。

 私は、何の役にも立てず、何の計画も達成することもなく、彼女の前に立っていた。

 悔しかった。

 せめて、美咲良のためにできることは全てしてやろうと思った。

 協力してほしいという彼女の要請に、全力で応えることにした。

 組織の全てを使ってでも。

 組織のいくつの命を失ってでも。





 敗北によって生まれかわった田山になら、組織を任せられると思った。

 私は田山に武器を与えようと思い、洋館の武器保管部屋で何が良いか探した。彼に似合うものは見つからなかった。

 私は、長い刀を、ある一人の構成員に与えていたのを思い出した。

 その男は、私の命令を無視して、器を生む者達の拠点、盛命城に乗り込んでいた。

 ならばそこにあの長い刀が残っているのではないかと思い、田山を向かわせた。  そしてそこで偶然、蔵野と山田に出会い、ジョージの城を攻める作戦に参加してもらうことになったとのことだ。

 …………たしかに、ジョージは〈器〉に関わる最後の人間である可能性が高い。

 その他の人間はほとんど殺したはずだ。

 蔵野と山田がいれば、確かに戦力は大幅に上がる。

 しかし……もう戦わないと決めた人間がまた戦う気になったのだろうか。

 それを田山に訊いたところ、「山田ひろみが死んだらしい」と言った。

 おそらく蔵野がかくまっていた器のことだろう。



 全てが終わった。

 松島との約束も果たせそうだ。

 ただ、最後にこのジョージの残したリストに載った者達を殺せば、器という存在自体無かったことになるだろう。

 美咲良との約束も何とか果たせた。

 彼女は私に付いて来てはくれなかった。

 しかし、それで良いんだ。

 私が、彼女を縛ってはいけないさ。




 手元に残ったのは、二つの凶器だけ。

 リグレット、全ての罪を照らす大人らしさ。

 イノセンス、全てを黒に沈めてしまう大人らしさ。

 ついでではあるが、梅田さくらの持つ銃は、母の命を奪った真っ赤な銃なのだ。

 ブラッディブルーム、全ての者を血に染めてしまう悲しき呪い花。

 イノセンスはもう一度田山に。そしてリグレットは私が持つことにしよう。

 これから、どういう組織に育て上げるのか、田山と相談しなくてはな。


(以降白紙)




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