Chapter7 はるかとさくら3
視点:松井田はるか→梅田咲良
松井田というあの巨大な家の近くで、花火大会があるようだった。
あたしは、それに便乗して赤い銃、ブラッディブルームで派手な轟音をぶちまきながら、セキュリティ装置を片っ端から撃ち抜き、壊した。
正面から侵入。リスクは高くて成功の保証はほとんどなかった。
レンガ造りの屋敷の中に入る。
シンとしていた。あまりに歯ごたえがないので、あたしは戸惑った。
遠くの花火の音が耳に入ってきた。
腐臭が鼻を突く。
思わず顔をしかめた。
半開きになった応接室のような扉を開いた。
死体があった。
八体はあった。
重ねられていた。
その横には、掃除ロボットらしきものがあった。円筒のボディに、ブラシがついているので、たぶんこれは掃除用だろう。
一体何があったのだろうか。
外からの侵入者というよりも、内部での反乱が起きたようだった。
とにかく、この屋敷には、生きた人間の気配がほとんどなかった。
床には、「MSK」という謎の血文字が遺されていた。「まじ、すげー、これ」とかの略だろうか。「もう、す、こし生きたかった」とか、「もう、死ぬ、こわい」とかだろうか。
ダイイングメッセージというやつだろうか。
――そんなことはどうだってよかった。
あの娘を捜さなくてはならない。
二階に上がる。
どこにもいない。
三階。
いない。
屋根裏。
ここにもいなかった。
じゃあ地下かと思って捜したが、見たこともない機械がズラリと並んでいるだけで、人は見当たらない。
「誰かー! いませんかー!」
返事はなかった。
コン――。
代わりにそんな音がした。
その音がどこから発せられたのか、分析してみる。
一階にあって、聴こえた。
それも真上。
階段の方……。
階段の途中に、カベの色が少し違う場所があった。
中二階があるようだ。
あたしは、二階に上がり、持ってきた刃物で、床を切り開けた。
ひどい臭い。腐臭とはまた違う臭い。
動物園の獣の檻の臭いに似ていた。
視界の先には、全裸で横たわる少女。
引き裂かれた人形。カベには謎の絵が描かれていた。
「ぁ…………」
微かな声。
「おばちゃん、誰?」
「おば……」
まぁ、いいわ、それよりも……、
「あたしは、梅田咲良っていうの。何でこんな所に閉じ込められてるの?」
「え? ここは、だって、わたしの家」
「どうして自分の家に閉じ込められてるの?」
「……わすれちゃった」
「名前は?」
「はるか」
「そう……はるかちゃん」
「あとこれがマチ」
「え?」
少女はカベの絵を指差して、そう言った。
血で描かれたひどい絵だった。
ああ、こういう時、どうすればいいんだろう?
「お水飲む?」
あたしが訊くと、こくんと頷いた。
水の入ったペットボトルを与えると、ごくごくとそれを飲み、げほげほと咳き込んだ。
「慌てないで、外、出ましょうか」
よく見ると、鉄の格子のような場所に、彼女の髪の毛が幾重にも結ばれていた。
解いてもいられないので、躊躇いつつも、ナイフでそれを切った。
あたしは、少女を連れてその中二階の外に出た。
少女がいきなり転びそうになる。
自分で歩けないようだった。
動く気力もなく、ただ、だらりと腕を垂れ下げ、あたしのなすがままになっていた。
抱きかかえてやる。
シャワーを浴びさせてやった。
身体と頭を洗ってあげた。
綺麗な少女だった。
ただ、虚ろな瞳でさえなければ。
「おなかすいた」
「チョコレート食べる?」
こくん、と勢いよく頷いた。
差し出すと、むさぼるようにボリボリと食べた。
きっと何も食べていなかったんだろう。
まちちゃんへのハワイのお土産だったけど、まぁいいや。
また行って買ってくればいいもんね。
「おばちゃん、ありがとう」
確かに実年齢はおばちゃんと呼ばれる年齢ではあるけど、実際に呼ばれるのは、何だか嫌だ。
「お姉ちゃんと一緒に行かない?」
私はそう言った。
「ゆーかい?」
「えっと……」
「ゆーかいされないように、あの部屋に入っててって言われたのっ。だから……」
「でも、このままじゃはるかちゃん死んじゃうよ?」
「死ぬって何?」
「えっと……」
「ゆーかいされたら、はるかは死ぬって言われたの。だからずっとここにいたの。ここにいなきゃダメなの。はるかの意思なの」
「……えい!」
手荒な方法を選択した。
あたしは彼女を気絶させて、屋敷にあったはるかの服と思われる服を着せて、また、その服を何着か持って、屋敷を後にした。
★
数時間後、あたしの隠れ家で目覚めた少女は言った。
「おばちゃん、誰?」
「あたしは、梅田咲良」
彼女の時間は、止まってしまっているようだった。




