Chapter7 はるかとさくら1
視点:蔵野まち→梅田咲良
「まちちゃん……」
あたしはぽつりと呟いた。
電柱の一番上に座って、あたしのお腹の中で育った娘、蔵野まちちゃんを見つめていたのだ。
高級そうな車に向かって手を振り続けるまちちゃん。
その表情が晴れやかではなかったので、彼女に会うのは後回しにして彼女が手を振る先にある車を追いかけることにした。
夏になって、暑いので、黒い外套は隠れ家に隠した。
年甲斐もなく桜色のヒラヒラフラフラな姫系ファッションに身を包む。見た目年齢は二十歳くらいなので、そんなに不自然じゃないと思う。なんて、これはうぬぼれだろうか。
電柱から電柱へ。空を飛んだ。
二丁の銃は、スカートの中、太ももに装備したホルスターにしまってある。
高級車は、少し走って急停車した。
その中から、さっきまでまちちゃんと一緒にいた少女が飛び出し駆け出した、すぐに黒い暑苦しそうな服を着た男が運転席と助手席から飛び出し、もう一度車の中に押し込めた。
一人の男は運転席へ。
もう一人の男は、後部座席に乗り込み少女を押し込んだ後扉を閉めた。
「まちお姉ちゃん! ヒロ兄ちゃん! 助けて!」
あたしの異常な聴覚は、車の中から発せられたその声を聞き取った。
助けて、と言っていた。
だから、あたしは、その車の後を追った。
まちちゃんもヒロアキ君も、もう戦わないって誓ったんだ。
だから、巻き込むわけにはいかない。
あたし一人であの娘を助け出す。
車を止めて、少女を助け出すことも考えた。
でも、それじゃあ根本的な解決にならない。
少女はずっと追っ手に追われて闇の中を彷徨う生活を強いられることになるだろう。
そんなの、ダメだ。
車は、松井田という表札のある広大な敷地の家、その門を通り抜けていった。
セキュリティが強固だった。
ぱっと見た感じでも、大量のセンサーが張り巡らされていて、中には訓練されたドーベルマンが放し飼い。かなり遠いのに、あたしに向かって吠えていた。
地上から入るのは至難。
これほどのセキュリティならば、地下からの侵入にも備えているに違いない。
空から入るのは悪くないかもしれないが、どの道侵入にはリスクを伴う。
今何時だろう、そう思って、手に持った時計のようなものを見た。
それは時計じゃないので、ただ一定方向を指し示すだけだった。
偶然にも、赤い針が屋敷を指していた。
どうしよう。
とにかく、あたし一人で動くにしても、誰かに援護を求めるにしても、今日はもう、何もできることがない。
二丁の銃だけでは、心許ない。
空を見上げれば、星の少ない都会の夜空。
目を凝らしてプラネタリウムみたいに満天の星空。
あたしは、豪邸に背を向けて歩き出す。この場所への道を焼き付けながら。




