リバースエッジ エピローグ1 蔵野まち
視点:山田ヒロアキ→蔵野まち
左手に残る色々な感触。
泣きたくなるものばかり、いっぱい残っている。
鏡に映った私であるはずの女の子は、私ではないみたいに私を見ていた。
「あ……」
声が、もれた。
涙も、こぼれていた。
ちょっと、かわいいポーズとかしてみる。
「にゃん……」
誰の反応もなかった。当たり前だ。
「……さきじゃないんだからっ」
鏡の向こうの顔は真っ赤。体が熱くなっているのを感じながら、宝物を扱うように、傷つけないように、桜色の服と、その他さくらから半ば無理矢理に着せられた服たちを脱いだ。
鏡で見た私自身の身体には、また傷が増えていた。
どんなに可愛い服を着ても、やっぱり中身の私は変わらないわよね……。
血のにおいがした。
嫌だった。
こんなに血のにおいを不快だと思ったことも、今までなかった。
「……山田君、どうしてまた服ボロボロなの? またまち怒らせたの?」
扉の向こうから、楽しそうな声。
さきの元気な声。帰ってきたことを実感した。
だけど……さき……人聞きの悪いこと言わないでよ。
「あのなぁ、いつ俺がまちを怒らせて服ボロボロになったよ。……まぁ、まちが戻ってきたら詳しく話すから、加賀とでも遊んでてくれ」
ヒロアキがそう言った。
そんな風に言ったら、さきは怒るわ。
私は引き戸を開け、お風呂場に入り、シャワーの栓をひねる。
「……っ!」
冷たかった。
でも、そのまま構わず浴びていると、水はお湯に変わってきた。
心地よかった。
しばらく浴びて、脱衣所に出る。
こびりついたように血のにおいは残ってしまっていたけれど、それが、まだ身体に残っているのか、鼻の奥に残っているのか、また記憶にこびりついて離れないでいるのか、わからないし、これ以上さきや皆を待たせるのも何だか悪いな、と思ったから、私は皆のところに帰ろうとした。
くるくると周囲を見渡して、自分の失態に気付いた。
ぐるぐるともう一度見回して、バスタオルすら無いことに気付いた。
お風呂お風呂、シャワーシャワーと急ぐあまり、着替えもタオルも、何も持ってきていなかったのだった。
ひどいミス。私らしくない。
「さき! 助けて!」
この言い方もいけなかったな。
この時の私はどうかしていた。
「まち! どうした!」
勢いよく扉を開けたのは、ヒロアキだった。
「ご、ごめん、まち、――」
「バカー!」
そう叫んで、反射的に、蹴り飛ばしてしまった。
「ぐはぁああっ!」
ドアの向こうに吹っ飛んでいった。
気付けば、私は皆が好きだった。この場所が帰るべき家なんじゃない。大好きな皆が集まる場所は、どこだって家なんだ。私は、あと何千回皆とこうして会えるだろう。あと何万回ここに帰って来れるだろう。
思えば、色々なことがあった。
その中で、一つ、わかったことがある。
私は、出会った全ての人々を愛している。愛していたいと思っている。だから私は、きっと皆が共有しているだろう空に向けて言うんだ。
最後にはきっと、皆同じ場所に帰る。
私は皆を置いて行きたくないから、最後の一人になるまで、生きてやろうと思った。そう決意した。
決意させてくれたのは……。
――ありがとう。ごめんなさい。
なんて、こんなことを考えるのは少し気が早いか。




