Chapter27 閉幕
視点:山田ヒロアキ→蔵野まち
二月になった。
戦いの幕は閉じて、訪れた新しい日常。
手を繋いで。ここから。広がっていけたらいいなと願う。
思う。幸せと、平和を。
★
「まち……今すぐ料理うまくなったりしないかなぁ?」
高島さきが、唐突にそんなことを言ってきた。はっきり言って無理だと思ったけれど、変に波風を立てる必要はない。私は、「何よ急に」と言った。
そうしたら、さきは、
「まち、今日が何日かわかってる?」
「二月九日よね。何か特別なことがあるのだろうか」
語呂合わせで肉の日、とかだろうか。たしかに、さきはお肉が好きだけども。
「そうよ。二月ももう九日よ……五日後にはアレじゃない」
そういうことか。
「なるほど……バレンタインデーね」
「そう、女の子が男の子にチョコレートを用意する日!」
「買っちゃえば?」
「まちは作るんでしょう?」
考えてもみなかった。けれど、作るというのも悪くない考えだ。
「まぁ……そうねぇ……すこしやってみたいかも」
「一緒に作らない?」
「いいわよ。問題はどこでやるかだけど……」
そこに、紅茶を楽しんでいた山田ひろみが会話に入ってきた。
「まっちー、何の話ー?」
「お菓子作りの話よ。ひろみも一緒にどう?」
「つくるー」
「ここで作る?」と私が言う。
「でも山田君がいるでしょ?」
「追い出せばいいのよ」
「それでいいんならいいけど……」
「いいわ。決まりね」
そういえば、この部屋ってヒロアキの部屋だった気がするけど、そんなことはどうでもいいか。
★
ひろみは、かなり会話をこなせるようになってきたし、もう〈器を追う者〉の脅威もなくなった今、以前より気軽に外出できるようになった。
さきとひろみが買い物に行って、私が台所で料理をしている時に、男性陣がコタツで内緒話をしていた。
私の地獄耳には、その下品な会話は筒抜けだった。
「新渡戸って、ひろみのことどう思ってるの?」
とヒロアキが言った。
「あぁ、僕もそれ気になるな」
がっくんも同調した。
私も気になるところだったが、新渡戸は最低の返しをした。
「どうって……いいおっぱいじゃないか」
「真面目にこたえなよ」と、がっくん。
「いや、正直よくわかんないな」
「そうなのか」
「ところでヒロアキ、ひろみのおっぱいを揉んだという話じゃないか」
新渡戸が話題をそらしにかかって、まんまとヒロアキがうろたえた。
「ぅぁ……あれは、事故だ」
というか、その話は初耳なのだけれど、あとで詳しく問い詰めねばならない。
「新渡戸……都合の悪そうな話をすぐ逸らすのやめなよ」
「ばれたか……」
結局新渡戸は、質問に答えないままのらりくらりではぐらかし続けた。
ひろみのこと、好きなら好きだと言えばいいのに。
★
いつものように、我が家で非公式部活動の会議が行われていた。
新渡戸の仕切りで、
「次の第七帰宅部の活動だけど、何か意見のある人は?」
この会議は、いつもこういう根本的なところから始まって、ノリと勢いですべてが決まっていく。
「うーん……加賀、何かあるか?」とヒロアキ。
「いやぁ……さきちゃん何かある?」と、がっくん。
「んー……ひろみちゃん何かない?」と、さき。
「ゆっきーは?」と、ひろみが言って、
「えーと俺は……そうだなぁ……ヒロアキ何かないか?」と、新渡戸。
「俺は特には無いなぁ……まちは?」と、ヒロアキが言って、
「私は、そうねぇ……さき……何かない?」私は、さきに振った。
「ゆーき……何か……」さきは、再びがっくんに言ったところで、
がっくんが、「ループしてるループしてる!」と叫んだ。
「ていうか、高島あれだな」ヒロアキがにやにやしながら、「加賀のことゆーきって呼ぶようになったな」
そしたら、さきはえへへと笑って、
「そんな改めて言われるとちょと恥ずかしいな」
「ひゅーひゅー」これは新渡戸。
沈黙。長い沈黙。
「…………さむいね……」
高島さきは、両腕をさすりながら言う。
がっくんも、さきに同調して、
「ああ、いまどきヒューヒューとか言うのヒロアキか酔っ払いのおっさんくらいだぞ」
新渡戸を貶めながら、私のヒロアキにもダメージを与えるあたり、最近の加賀遊規は以前よりちょっとだけトガっている。さきの影響を受けているのだろうか。
「よっぱらいのオッサンに言われたことあるのかよ!」と新渡戸。
「いーや、ないけど……」
「じゃあ言うなよ、加賀」
「わかった言い換える。酔っ払いのおっさんですら言わないぞ」
「ぉぉぅ……レベル下がった……」
「いいから! 何か意見だしなさい!」
一向に話が進まないのに苛立ち、私は叫んだ。
そうしたら、さきが言うのだ。
「なんか文化祭の出し物決める時思い出すねぇ」
「あぁ、加賀が眠りこけていた時な」と新渡戸。
そんな思い出話より先に、話を進めたい。私自身、何をそんなに焦っているのかと思わなくもないが、早く次に何をやるのかを決めたいのだ。
「いいから! さっさと何か意見をだしなさい! ヒロアキ! 何か無いの?」
しかし、そう簡単に話を進めさせてくれない。
「まちとヒロアキもずいぶん仲良くなったよな」新渡戸が言う。
「夫婦みたいよね」さきも同調した。
「…………別になんとも思ってないわよ」
私は急にそんなことを言われて、恥ずかしくて嘘をついた。
「素直じゃないな」
新渡戸が私を攻撃してきたので、「うるさいわね!」と本気で怒ってみせた。
「はい!」高島さきが挙手した。
「はい、さき! 意見?」
「まちはもっと素直になったほうがいいと思いマース」
「…………素直よ」
「はい」今度はヒロアキが挙手した。
「はいヒロアキ! 何かあるの?」
何か変なことを言ったら蹴飛ばしてやろうと思った。
「帰宅部である以上やはり帰宅スキルを磨かなくてはならないと思いマース」
変なことではあったけれど、蹴飛ばすほどでもないなと思う。
話の流れをみてから判断してもいいなと思った。
「帰宅スキル?」
と高島さき。
「つまり競技としての帰宅」
ヒロアキは人差し指を立てて言うけれど、そんな競技きいたことない。
「帰宅競技を作ると?」と新渡戸。
「それでもいいな」とヒロアキ。
やはり深い考えはなかったらしい。
「要は何でも良いのよね」と私は言った。
ヒロアキは、自分の提案を守るために、具体的な案をひねり出す。
「例えば、改札を華麗に通るテクニック!」
「テクニック?」と私がききかえす。
「スピードと芸術的姿勢で加点だな」
新渡戸が乗ってきた。
「新渡戸……さすがわかってるな!」
「他は?」と私。
「やはり競歩のようにして駅までのスピードを競うべきだろう」
「走っちゃダメなの?」
と高島さきがきいたとき、新渡戸は机をたたいて、
「当り前だ!」
「むー……怒られた……」
「さきちゃん、この人たち変だから関わっちゃダメだよ」
がっくんが慰める。しかし、さきは、すぐに思いついた顏、
「あ、白線わたる技術を競うのはどう?」
「さきちゃん……」
「いいねぇ。加賀、ちゃんと書いとけよ?」と新渡戸。
「新渡戸、こんなのを本気で書くの?」
「いいから書けば良いんだよ」
もっと建設的なことをやりたい私の望みとは裏腹に、どうでもいい話がどんどん膨らんでいくようだった。
だけど、これはこれでいいかもとも思う。私も、みんなと付き合って、ずいぶん心が広くなったものだ。
級長の頃だったら、間違いなく眉間にしわを寄せっぱなしだっただろう。
「帰宅部としては、掃除当番のときのゴミ捨てジャンケンで負けるのは論外だよな」
ヒロアキが言って、新渡戸が答える。
「ああ、団体戦だと高島と加賀がいるから不利だな……」
「団体戦とかあるんだ……」
がっくんは、ちょっとついていけていないみたいだった。
「ランドセル何個持てるかとかね」さきちゃんが言って、
「何学生だよ!」がっくんがツッコミをいれた。
「石蹴りのファンタジスタ度による加点とかはないの?」
ヒロアキが言って、新渡戸が珍しく真面目に、
「お前それ近所迷惑だから控えろよ?」
「そ、その通りだな、すまん。いや、それにしても、新渡戸がまともなこと言うと戸惑うな」
「失礼だな」
私は、私の手を離れ、勝手に進んでいく話を傍観しながら、ひろみに話しかけた。
「ひろみ、暇じゃない?」
「大丈夫、たのしー」
そう言って、こくん、と紅茶を飲み込んだ。
「電車のドアが開く方向を予想するのはどうだ?」
と新渡戸。
「大体の駅で開く方向決まってるじゃん」
と、がっくんが反論するが、新渡戸も譲らない。
「いや、終点の駅だけはどっちかはわからないようになってるでしょ?」
「……あぁ、ほんとだ」
「なるほど」
さき、ほんとだ、じゃない。
がっくん、なるほど、でもない。
ふつうは、時刻表が頭に入ってるもんでしょう。予想なんてそもそも成り立たない。
「あとは、そうだな……やっぱり、帰宅部らしく不良部門も作って更生させないとダメだな」
よくもまあ、次々と思いつくものね。
「新渡戸、それ、どういう理屈だよ?」
「細かいことは気にするなよ」
「まぁ……そうだなぁ…………まず、掃除をさぼる勇気、教師の呼び出しをすっぽかす勇気、ピンポンダッシュや仮病による精神強化。盗んだバイクで走りだすのは一発逆転最高点だな!」
「それ更生してないから! むしろ転がってってるから!」
ついに私は我慢できず、思わずツッコミを入れてしまった。
このままだと、この人たちのペースに巻き込まれて、私までアホな発言をしてしまいかねない。それに、ひろみの教育にもよくない。ひろみと一緒に台所に避難してしまおう。
私はひろみに新しい紅茶についての話があるからと声をかけ、台所に誘導した。
コタツでは、引き続き帰宅競技についての話し合いが続いている。
「はいはーい」
「何だ高島」
「迷子部門が欲しいです!」
「魅力的だな……だがそれは今現在、国際帰宅競技連盟に正式種目として加えてもらえるよう申請中なんだ」
「なんだそれ、余計な連盟作らなくていいよ!」
私が抜けたことで、がっくんくらいしかツッコミが入れる人がいなくなった。がんばってもらいたい。
「途中で出会った猫の数とかで加点よ!」
さきがそんなことを言ったとき、ヒロアキが余計なことを言った。
「野良猫か。野良猫って、保健所で捕まえて殺すんだよな」
急にヒロアキが暗い話に持って行った。空気よめないやつ。
「そう聞くよね……」とがっくん。
「何か……似てるね。〈器〉壊すって話に……」さき。
「さきちゃん、それは言わなくてよかったと思うなぁ」
「うぅ、ごめぇん」
さきは別に謝らなくていい。土下座が必要なのは、こんな話にさせた山田ヒロアキだ。
ヒロアキも、それをわかってか、きょろきょろと周囲を見回して助けを求めようとした。たぶん、私を探しているんだ。だけど、私はもうしばらく台所から戻ってやる気はない。自業自得を味わって苦しむといい。
「あれ? ひろみとまちは?」ヒロアキ。
「あぁ、紅茶のティーバッグがどうのこうのって言って台所に行ったよ?」がっくん。
「ていうか帰宅競技って何だよ!」
この叫びは新渡戸。身も蓋もないように思えるが、これはヒロアキを助けるための自己犠牲の助け船である。新渡戸がそういうことをするやつだってことを私は知っている。
こういう不器用だけど優しいところがあるから、私は新渡戸のことをなんだか憎めないのだ。
「まったくだな!」と言ってるヒロアキは、きっと内心ほっとしているはずだ。
「お前ら……僕にノート書かせといて……」
「まぁまぁ加賀よ、細かいこと気にするなよな」
「新渡戸が言う台詞じゃないだろ」
「気にしないで」と、さきが言う。
「うん、気にしない」あっさりと、がっくんは全てを許した。
「高島には甘いんだもんな……」
ひどいバカップルぶりだった。
★
ある日、コタツでぬくぬくしながら、高島さきは新渡戸にきいた。私は、いつものように台所で料理しながら盗み聞きだ。
「新渡戸君新渡戸君」
「うん? どうした、高島」
「全く唐突な話なんだけどさ……」
「何だよ」
「セバスチャンの劇の王子さまって結局どうなったの? 魔女に眠らされた後」
「あー……」
「あれって、セバスチャンでしか解けない呪いなのよねぇ?」
「そうだったなぁ……」
「やっぱり、そのまま死んじゃったの?」
「いや、魔女が燃えても死ななかったからな、そう半端な呪いじゃないはずだ。ずっとそこに倒れていたに違いはないんだが……」
「あぁ、そっか」
ここで、さきが話題にしているのは、あの劇の重要な矛盾点だ。
私が簡単に内容をまとめると、以下のようになる。
まず、『眠り魔女』について。
この『眠り魔女』というタイトル。姫が眠るのではなくて、魔女が眠るというところが新渡戸のこだわりポイントだった。
ロミオとジュリエットみたいな話が基礎になっていて、庶民の少年と姫の恋物語に異国の王子と漆黒の魔女が絡んでくるという展開。
少年セバスチャンは姫の幼馴染だった。ということは、下男かなにかの家系だったのだろう。セバスチャンというくらいだから、執事か何かだろうか。ともかく、身分違いの恋。
姫はすでに政略結婚の道具として横暴で怠け者のゴミみたいな新渡戸みたいな王子に嫁ぐことが決まっていて、駆け落ちをしようとした二人を部下に命じて追わせる。部下は、姫だけを捕え、セバスチャンはその場に残された。
抵抗むなしく捕まってしまった姫が王子のもとへ連れていかれたとき、セバスチャンのもとに漆黒の魔女があらわれる。
魔女は、セバスチャンにしか解けない呪いをかけて、姫を眠らせようとした。だが、姫の持っていた魔術アイテム「呪い返しの鏡」の力によって、魔女自身がその身に眠りの呪いを受けてしまう。
王子も含め城全体が呪いによって眠りにつく中で、少年セバスチャンと姫だけが無事だった。
再び魔女のもとへ姫を連れて行ったセバスチャンが見たのは、呪いを受けて眠っている魔女の姿。二人は、魔女を連れて、姫がもともと暮らしていた城に戻った。
五年の月日が流れるうちに、姫の両親、つまり王と王女が帰らぬ人となった。この両親の死は偶然が重なっての不幸だったのだが、城内で眠る黒衣の魔女だという噂になってしまう。しかし、それより問題だったのは、なんと、五年のうちにセバスチャンは姫ではなく、眠り続ける魔女に心を奪われてしまっていた。
本来は、魔女も歳をとるものだが、眠り続けている限り不死身であり、その美しさも永遠なのだった。セバスチャンは、口づけをすれば魔女が目覚めるということを知っていたにもかかわらず、永遠の美しさをキープして眠り続ける魔女を愛してしまう。
さて、姫が女王となる直前の夜のこと、セバスチャンが魔女に届かない思いを伝えているところを、姫は目撃してしまった。その結果、姫は、自国の城ごと魔女を焼き払おうとする。嫉妬の炎に包まれて、燃え落ちる城。
決断を迫られたセバスチャンは魔女を捨てて、野に下った姫と生きる道を選んで、劇は終わる。
ただし、城を焼いても魔女は不死身なので死ねなかった。
以上が、文化祭で披露した『眠り魔女』なのだが、この話には続きがある。皆で体育館をジャックして撮影した『続・眠り魔女』というのがそれだ。
この続編は、まずセバスチャンにしか解けない呪いすらも無効化できる宝剣を持った謎の女が、魔女を殺そうとする場面から始まる。眠りの呪いというのは、裏を返せば眠り続けるかわりに死ねない呪いでもあったのだった。
謎の女は、魔女が死ぬことを望んでいた。謎の女は魔女に何らかの重大な秘密を握られており、魔女を殺さねば解けない呪いがあったのだ。
だが、この眠り続けている魔女は、いわば厄災の箱そのもの。殺したが最後、世界を崩壊させるほどの呪いが解き放たれるのだという。そこで、謎の女が振り下ろした不死身を殺せる剣を、謎の男が防いだ。
魔女を守る謎の男と魔女を殺そうとする謎の女が争っていたところに、姫を放置して戻ってきたセバスチャンが鉢合わせる。セバスチャンは口づけによって魔女を目覚めさせるが、魔女は「自分が生きているだけで罪なのだから、死に等しい眠りから起こしてほしくなかった」みたいな言葉を浴びせ、姫のもとに戻るように言い聞かせる。
罪を犯した挙句に、セバスチャンに置き去りにされていた姫は森の中、国を燃やした罪の意識にさいなまれ自殺を試みる。自責の念というのだって、死の呪いみたいなものなのだ。だが、ぎりぎりのタイミングで間に合ったセバスチャン。流血して姫の自殺を阻止した。
セバスチャンは姫を許そうとするが、姫自身が自分を許そうとしなかった。そこで魔女は、問題を根本的に解決するために、最上級魔法を実行する。
時間を巻き戻す魔法。
リセット。
物語の始まりあたりの、駆け落ちをする前の状態に戻すかわりに、セバスチャンに呪いをかける。魔女が死ぬか、姫の口づけによってしか解けない呪いだ。姫に魔女を殺せる力はないので、当然、口づけを選ぶことになる。こうすることによって、善意の魔女は、すべてを無かったことにするどころか、姫に大切な人の命を救わせるという展開になった。
乱暴に言い換えれば、殺した記憶をただの夢にして、生かした記憶を現実にさせたということだ。
姫は眠る不死身の呪いを身に受けたセバスチャンに口づけをして助け出したが、姫が罪を含めて全てを記憶しているのとは対照的に、セバスチャンは魔女に出会ってからの記憶を失ってしまっているようだった。
これは、要するに、セバスチャンと魔女のとの出会いを無かったことにするというエンディングなのだが、これに関して新渡戸が一つ、面白いことを言っていた。それは、ラストのシーンで魔女の記憶を失ったようだったセバスチャンだが、本当に忘れていたのかどうかわからない、というものだ。
もし、この劇の登場人物全員が、忘れたという嘘をついているとしたら……。このことを本気で考え出すと、私自身が恐怖で立っていられなくなるだろう。〈器を追う者〉の一員として、また級長として、罪深いことをたくさんしてきたのは、ほかならぬ私なのだから。魔女である霧野みやこは、もう戻ってこないのだから。
そういう設定の裏側みたいなものを改めて考えると、この新渡戸の劇っていうのは、まるで私のために書かれたもののように思えてくる。
この劇については、これ以上考えても仕方ない。今は、新渡戸とさきの会話に集中しよう。
さきが指摘したのは、次の二点だ。
一つは、時間を巻き戻したのなら、城や両親がもとに戻ったのだとしてもカスみたいな王子との婚約が破棄されていないはずだってこと。
もう一つは、もしも王子がセバスチャンにしか解けない呪にかかって倒れたままだったら、魔女にも解けないはず。時間を巻き戻して解けてしまったら、王子との政略結婚が有効のままで、眠らない王子が強引に話を進め、結局ロミジュリ悲劇が待っているんじゃないか、ということ。
確かに言われれば、そこは本当に気になるところだ。一応、時間を戻すのは最上級の魔法だという話になっていたから、リセットによって王子の状態も戻ってしまうのが自然ではあるとは思うけれど……。
結末において、「セバスチャンが姫と一緒になるんだぜ」ってことばかりに執心して、こう、ちゃんとした道筋もなしに観た人の想像に任せます、みたいな終わらせ方をするのは、なんだか許しがたい。受け取り手をすっきりさせるために肝心なところを描いてないっていうのは、私から見ても怠慢だとは思う。
けれど、私からこの劇に口出しをしていったら、たぶん、弱い私は新渡戸ほど自虐的になれないから、私がやりたくない場面や、見たくない場面を、とことん省いていってしまうだろう。そうなれば、絶対にまとまったストーリーにはならない。だから、根幹の内容については口を出さないことに決めているのだった。
新渡戸は、高島さきの問いに、テキトーな感じで答えた。冗談ぽく。
「セバスチャンがキスしに行ったということでいいか?」
「っ!? つまり、新渡戸君がゆーきにキスされるという……?」
「ああああ! 無しだ! それは無し!」
「ええ、あたしもそれは嫌だわ……」
「まぁ、その、じゃあ、どういうわけか、王子は呪いが自然に解けたということで……」
「……うーん、それってつまり、魔女さんが死んじゃったってこと?」
なるほど、そういう考え方もあるのか。
「……さあ」
新渡戸は、やっぱり煮え切らない返事。これは絶対に答えない気だ。
たぶん、新渡戸の中に一つの答えはあるのだろう。だけど、傲慢なことに、新渡戸は、多様な解釈の押し付けをしているのだと思う。そこだけは自分で考えてほしい、といったところか。だから、これ以上の追及をしても、新渡戸は絶対に最後まではぐらかし続けるに違いない。
「セバスチャンの呪いを姫が解いたんじゃなくて、魔女さんが死んだから解けたっていう……」
「完全に謎だな」
「あんたの作った話でしょうが」
「あっはっは」
ほらね。
★
最近は、新渡戸の家でも部活が開催されるようになった。そのたび、がっくんは手作りの霧野みやこの墓の前で、何か心の中で唱えるようにしゃがみこむ。
今日も、その儀式を終えた彼は、みんなが集まったタイミングで、こんなことを言った。
「ちょっと昨日カメラ買ってきたんだけど皆で写真撮らない?」
「加賀? 何で急にそんなこと……」と新渡戸。
「何となく」
「加賀が何となくって言うの珍しいな」
「そう?」
がっくんは、かくんと首を傾げて見せた。
「そうだろ? 何かと言い訳がましい理由をつけてるような印象だぞ。あのノートを見られた時なんか、慌てて変な言い訳しようとしてたもんな」
無神経な新渡戸は、霧野みやこを思い出させるようなことを言った。
がっくんは、平気そうに、「たしかにそうかもね」とか言っていた。乗り越えていた。私は安心すると同時に、すごいと思った。
「カメラだと……見せてくれ」
とヒロアキが手を伸ばしたが、
「駄目。ヒロアキは壊すから」
私ほどじゃないけど機械音痴のヒロアキは信用されていないようだ。
「ひどいな……」
「いいだろーどうせ保証がきくんだからー」
と新渡戸が言うと、がっくんは、
「そういう精神で扱っちゃダメだと思う」
私もそれに同調して、
「そうね、ものは大事にしないと」
と言ったのだが、瞬間、パシャーとシャッター音がして、そのカメラが私に向けられていたことに気付く。
「今撮ったわね?」と言いながら、がっくんに鋭い目線をくれてやった。
「撮った」
平然としていた。にらみつけても効かないようだ。ヒロアキなら絶対にびびって言うこときくくらいの視線を送ったのに。
だけど、とにかく私は、今のがっくんの行動を許すわけにはいかない。無許可で女の子を撮影するというのは、どう考えたって犯罪的だ。
「盗撮ね」
と私は言った。
「いや、えーと……まぁ、そうなるのかな」
「これ以上私を撮ったら壊すわよ」
私は、心にもないことを言ってやった。そしたらヒロアキが、
「つまり、『私のポーズとってなくて顔つくってない姿を撮らないで』という意味だな」
私でもうまく表せないことを言語化してくれた。
余計なことをするなと思った。
「おお、ヒロアキ、さすがナイスな訳だ」
新渡戸は親指を立てて私のツンデレ的な思考を喜んだが、そんな扱いを受けるのがシャクで、私はヒロアキの足を思い切り蹴飛ばしてやった。
「ったぁ……」
「下半身不随にするわよ」
「ヒロアキ……」
足を抱えて丸まった彼は、男性陣からの気の毒そうな視線を集めている。
そして、彼が「気にするな……」と強がっていたところに、パシャーとシャッター音。
ヒロアキの醜態が記録された。あとで焼き増しをしてもらおうか。
「……加賀ぁ! お前なんでこんな姿を撮るんだよ!?」とヒロアキが悲痛に叫ぶ。
「えー……何か何でも撮りたくなっちゃうんだよ、買ったばっかりだと」
「あー、わかるわかる。デジカメだとフィルム消費したりしないしな」と新渡戸。
「そうそう」と、がっくんが頷く。
「高島でも撮っていればいいものを……」
「さきちゃんは昨日いっぱい撮ったもんねー」
「ねー」
「はいはいバカップルバカップル」
新渡戸は言って、「呆れちまうぜ」とでも言いだしそうなジェスチャーをした。
「とにかく、撮ろうよ、皆で撮った写真、一枚くらい欲しいでしょ?」
がっくんは、以前に比べて、ずいぶん積極的になった。
だが、忘れてはいけない。この部には、仕切りたがりがいるのだ。
決して私のことじゃない。私はいつもおとなしくしてる。
仕切るのが誰より好きなのは、部長の新渡戸だ。
「よし、霧野の墓の前で撮ろう」
その新渡戸の号令に、がっくんは不満そう。
「それは僕が言おうと……」
「細かいことはいいだろ」
そして、写真撮影が始まる。
「よーし、並べー」
「……あたしはゆーきの隣」と、さき。
「じゃあひろみは俺の隣な」と、対抗するように新渡戸が言う。
「えー、セクハリストー?」ひろみは難色を示すふりをする。
「ひどいな……」
「でも結局は隣に行くんだよな、ひろみは」ヒロアキは完全にひろみの保護者目線だ。
そういった感じで、全員が並んだ。
「ところで……これシャッター誰押すの……?」
ヒロアキが、無人のカメラマン席をにらみながら、そんなことを言った。
「……さあ?」
私は首をかしげるしかない。
「まちなら素早く動けるから、シャッター押してから写真に入れるんじゃない?」
「そうだな」
なるほど、どうやら私の出番らしい。
私にしかできないことなら、よろこんで協力したい。
「まち、ちょっと、これ優しく押してみて」
がっくんからカメラを受け取り、シャッターボタンを押した。パシャーと音が鳴った。撮影できたということだろうか。
「そうそう」
「あまり強く押しすぎると壊れるわけね」
「そういうこと、タイミングをみて、こっちに走ってきて」
「わかったわ」
がっくんが列に戻り、私がカメラマン、被写体の二足の草鞋となる。
「それじゃ撮るわよ? いちにのさん、えい」
私は三脚にあったカメラのシャッターを押し込んですぐに、素早く移動し、みんなの列に加わった。
パシャーと音が鳴ったので、みんなで撮れた映像を確認する。
「どうかな?」
と私が言った。けっこう自身があったのだけれど、どうやらカメラが私に追いついていないようだ。
「これは、なんかすごい画が撮れた。心霊写真みたいだ……」と、がっくん。
「まちがトイレットペーパーみたいになっとる」ヒロアキ。
「何その喩え? 全く可愛くないわね。喧嘩売ってるのかしら?」私はちょっとだけ怒ってみせた。
「いえ、決して……」ヒロアキはがっくんと違って、私相手だとすぐにびびる。
「伸びたお餅とか言えないわけ?」私は毅然として言ってやった。
「それがまちの中の可愛い喩えなんだ……」
何か文句あるのか、という視線を送ってから、気を取り直して再びカメラを手に取る。
「撮り直しね、次は本気を出すわ」
カメラを受け取り、三脚に置いて、私は再び構える。
「それじゃ撮るわ、せーのっ」
今度はシャッターを押し込んでから、ほとんど全力で走り、みんなの横に立った。
今度こそ成功だと確信した。
ずいぶん遅れてパシャー、という音が聞こえた。
かと思ったのだけれど……。
「うぉあ!」と新渡戸。
「何この風……」と、さきが言った。
「今度は……」
がっくんが確認に走ったので、私も見に行く。
見ると、私はきちんと映っている。何の残像もない。それなりによくできたキメ顏だ。
ただ……、
「まち以外がひどいことになってるぞ」がっくんが呟くように言う。「風で髪の毛が……」
よくよく写真を見てみたら、私以外のみんなが、髪の毛を絶壁みたいに逆立てていた。
「……ぷっ……っあははっは……は」
私は笑いをこらえきれない。
「まち……髪の毛が逆立ってるのがそんなに面白いのか?」とヒロアキ。
「面白くなんか……っない……わよ……くくッ」
「そんな精一杯笑い我慢しながら言われてもなぁ……」
「ていうかヒロアキすごい顔してるよこれ」
がっくんがそう言って、指さしたヒロアキの顔は、白目むいて顔の皮が上に引っ張られた感じになって、変顔選手権とかがあれば出せそうな表情だった。
「……消してくれ……是非消してくれ」
がっくんは、その画像を消してしまった。少し残念。
「しかし……どうしたものかな……誰か一人にシャッター押してもらうのは何だかなぁ……」
がっくんは考え込み、さらに続ける。
「卒業写真の休んだ人みたいにして右上に配置されるのとか、よくないし」
すかさず私が、「新渡戸ならいいわね」と言ってやった。
「俺皆からイジメられてないか?」
「まぁ、そうだな……時々可哀想に見える。色んな意味で」とヒロアキ。
がっくんが、うーん、うーん、としばらく唸ったところで、新渡戸が新たな案を出した。
「ところで、タイマー機能というか、そういうの付いてるんじゃないのか?」
がっくんは、「あ」と声をこぼし、閃いた顏。
さきが、「それよ!」と言って新渡戸を指さした。
「新渡戸もたまには使えるわね」私。
「ゆっきーかっこいー」ひろみ。
「でも……最初から気付いてたよね……新渡戸……」
ヒロアキがそう言ったら、静寂が訪れた。
数秒前の「でかした!」みたいな空気が嘘のよう。なんで早く言わないんだと責める空気になった。新渡戸の自業自得だが、さすがこの部長は慣れたもの。
逆に、「さあ、撮ろうぜ」とか言って仕切りだした。
「……そういうことするからイジメられるのにね」
さきちゃんが、みんなに同意を求めるように言うと、
「ゆっきーさいてー」
ひろみが指をさして同調した。
「ごめん」
新渡戸の形だけの謝罪。絶対これから先も、同じことをやるだろう。
がっくんは、ここで「素直だな」とか言ったけれど、騙されてはいけない。
私は言ってやる。
「でもこの男反省はしてないわよ」
「そうだな」
ヒロアキは私の言葉に頷いた。
「おい! イジメかっこわるいぞ!」
新渡戸が言ったので、私は親しい人にしか使わないと決めている言葉をあびせてやる。
「――鍛錬不足よ」
ビシリと新渡戸を指さしてやった。
そうしたら、ひろみも真似して、指さして、
「鍛錬不足ー」
新渡戸はショックを受けながらも、ツッコミと教育を怠らなかった。
「何のだ……というか、ひろみ、人に向かって指差すなよ……お行儀悪いぞ……」
そういったところで、がっくんがフゥと溜息。仕切り直しでカメラを設置する。どうやらタイマー機能のボタンを発見したらしい。
「はいはい、撮るよ? 並んで並んで」
がっくんの言葉に、率先して「はーい」と返事をしたのは高島さき。
「えっと……これで…………」
がっくんは皆がちゃんと並んだのを確認して、カメラを置いて、タイマーを設置した。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
六人分の沈黙。のち、「…………あれ?」とがっくんが声を出す。
「どうした?」と新渡戸が彼の方を向いた。
その瞬間に、パシャーとシャッター音が鳴る。
「あ、おい、俺だけ右向いちまったじゃねーか」
「まぁ、新渡戸は横顔もいけてるじゃん。これくらいなら良いじゃん」
「いやいや俺だけ右向いてるのが良いって?」
「だって、新渡戸一人のためにまた撮るなんてねぇ?」
「ねぇ」とさきが頷く。それを真似して、ひろみも同じように言った。
「くそぉ、加賀が声出したのも俺を陥れるための罠か!」
「偶然だよ」
「くそぉ……」
しゃがみ込む新渡戸。そこに、ひろみが元気づけようと頭に手を置いた。
「ゆっきー……どんまい!」
「あぁ、ひろみは可愛いなぁ……」
「ひろみは嫁にはやらんぞ!」
すかさずヒロアキが言った。
結局、このあと、もう一回、ちゃんと撮りなおした。
「いい写真いい写真」
新渡戸も満足そうだった。
★
ある日、みんなが帰った後の静かな部屋で、ヒロアキが愚痴を言っていた。
何のことかと思ったら、バカップルに腹を立てていたようだ。
公園に散歩に出かけた帰り道の会話をヒロアキの口からきかされた。
「ゆーきゆーき」
さきが言って、がっくんが、
「なんだいさきちゃんさきちゃん」
そう答える。ここまでは、いつもの挨拶みたいなものだ。
その次に、ヒロアキの話では、さきは、不安そうに俯きながら、こんなことを言ったらしいのだ。
「ちょっと気が早いけど、来年も同じクラスになれたらいいね」
そのとき、すかさずヒロアキが、こう言った。
「高島……二年から三年はクラス変動しないぞ?」
さきは、「え? あ、うそ?」と喜びに満ちた声を上げ、がっくんも、「やったね! さきちゃん!」と言ったのだそう。
「うん!」
と頷いた高島さきの顏が、すごくまぶしく見えた、とヒロアキは悔しがっていた。
ヒロアキは、思い出して頭にきたようで、
「親切に教えてやったのに、ありがとうの一言もナシだぜ、あのバカップル……」
「その二人のやりとりを、一言一句もらさず記憶している貴方が、とても気持ち悪いのだけど」
「まちに報告したくてさ」
そんなものを報告して、何のつもりなのだろう。
「じゃあ、私たちもやってみる?」
「は?」
「バカップル」
「なっ、どういうことだ?」
私はコホン、と咳ばらいをして、恥ずかしさを押し殺して言ってやる。
「ヒロアキヒロアキッ! ちょっと気が早いけど、来年も、一緒のクラスになれたらいいねッ」
「……まち、俺が悪かった」目をそらして、ヒロアキは言った。
どういうことよ。
★
駅ビルのショッピングセンターに来たら、偶然、男性陣三人組の姿を発見した。
三人は食器コーナーを物色していたが、私もそのエリアに用があるのだ。今、我が家ではチョコレートづくりをしている最中なのだが、なにかこう、可愛らしい型とかを用意し忘れたので、買い出しに来たというわけだ。
私は聞き耳を立てて、会話を盗み聞きする。
「新渡戸? こんなところで何してんの?」
「お、加賀か、ヒロアキも。お前ら二人でいるの案外珍しいな」
「んー? そうかなぁ……。そうかも」
「なんかよくわからんが、まちに追い出されて今加賀の家に泊まってるんだが……」
鈍感なヒロアキは、そんなことを言ったが、敏感な新渡戸はすぐに気付いたようで、
「なるほどね」
とか言っていた。その「ははぁん、そういうことか」みたいな顏がうざったいので、殴りに行きたい衝動に駆られる。我慢する。
「お、ティーポット?」とヒロアキが言った。
新渡戸が頷く。
「そうそう、ひろみのが割れたって言ってたろ? プレゼントしようと思ってな」
「へぇ……」
「おいヒロアキ、何ニヤニヤしてんだよ?」
「別にー」
「あのな、深い意味はないぞ? 単純に無いと困るだろうなーって思って……っ」
「ひろみならやっぱ白だよな、加賀」
「ヒロアキ、これ白いよ?」
「だが小さすぎるな。やっぱり大きいのがいいだろ」と新渡戸。
新渡戸は、こういうのには異常なほどこだわる気がする。
「これは?」
がっくんが候補を出すが、新渡戸の心には響かなかったようだ。がっくんに渡されたのを手に取って、すぐに元の場所に置いた。
「うーん、俺はこっちを推すけどな」ヒロアキ。
「僕は個人的にはこれがいいなぁ」がっくん。
「お前ら、それ、ひろみの好みじゃなくてお前らの好みじゃねえか」
「そうだね……でも僕としては、コレとかも……」
そんなタイミングで、新渡戸がキレた。
「――だぁあああ! 俺が選ぶの! 俺がひろみに買ってあげるんだよ!」
「何で?」とヒロアキ。
「何でって……だって、ほら、俺紅茶好きだし?」
「急須で紅茶淹れてた奴が言う言葉か……?」
がっくんは、ここぞとばかりに新渡戸を追い詰めにいく。
「急須だって立派な茶器だろうが! 全世界の急須にあやまれぇ!」
「まぁしかし! ひろみは嫁にはやらんぞ!」
ヒロアキが腕組をして言い、
「そういえば婿舅戦争ってあんまり聞かないよね」
がっくんはそう言って、ヒロアキのほうを見た。
「そりゃあそうだろう……主夫自体少ないからなぁ」
「新渡戸、がんばれよ」
と、がっくんが、拳を握りながら言った。
「うるせえよ……俺を誰だと思ってる? 第七帰宅部部長だぞ?」
「それ、あんまり関係ない気がするよ」
「ああ、言ってる俺もそう思った」
そのとき、ヒロアキと目が合った。どうやらこっちに気付いたようだ。ヒロアキのことだから、盗み聞きしてるのをチクったりなんかしないと思うけど、そろそろ退散しておこうか。
私はショッピングセンターを後にした。
新渡戸がどんなティーポットを持ってくるのか、楽しみにしながら。
そして、私が家に帰った時、あんな風にチョコレートが地獄ゆきしているなんて、思いもよらなかったな。
さらに言えば、私はショッピングセンターにチョコの型を買いに行ったはずなのに、手ぶらで帰ってきたから、そのチョコレートが大量に堕天していることについて、とやかく言える立場じゃなかったのも誤算だった。
これが盗み聞きをした罪への罰なのだろうか。
結局、三人でまた買い物に行って、楽しくチョコ作りができたので、最終的にはよかった。
だけど、ものすごくドタバタして疲れたので、しばらく、さきと一緒に料理はしたくないと思った。




