幕間_その20_日常
高 → 高島さき
加 → 加賀遊規
新 → 新渡戸夕貴
蔵 → 蔵野まち
山 → 山田ヒロアキ
ひ → 山田ひろみ
ひ 「ゆっきー、紅茶……」
新 「今お湯沸かしてるからちょっと待って」
ひ 「ゆっきー、あのね、あたしがいつも使ってる白いのあるでしょ?」
新 「カップか?」
ひ 「ううん」
新 「ポットの方か」
こくんと頷く。
新 「それがどうかしたか?」
ひ 「しんじゃった……」
新 「……そうか。カップは無事だったか?」
ひ 「うん。アッキーが助けてくれた。でも……下半身不随……」
新 「難しい単語覚えたなぁ」
ひ 「まっちーがよく言ってるの。下半身不随にするわよって」
新 「……そ、そうか……ヒロアキも大変だな……」
ひ 「…………」
新 「…………」
ひ 「…………」
新 「お、お湯沸いたみたいだぞ」
ひ 「紅茶あたしがいれるー」
新 「あぁ、頼む」
ひ 「…………」
新 「…………」
ひ 「…………」
新 「…………」
ひ 「はい、ゆっきー」
新 「あぁ、ありがと」
ひ 「ゆっきー、さきちゃんとがっくんは?」
新 「あー、呼びたい?」
ひ 「よびたくないの?」
新 「えーと……別にいいが……」
ひ 「よんでよんで」
新 「わかった」
電話する。
コール音がきりの良いところで途切れ、眠そうな声がする。
加 《もひもし?》
新 「あぁ、加賀か?」
加 《何だ新渡戸か》
新 「さきちゃんじゃなくて悪かったな」
加 《あぁ、全くだよ。ていうか、新渡戸がさきちゃんとか言うな》
新 「はいはい」
加 《で、何か用?》
新 「ひろみ様がお待ちだ。貢物を持って参れ。甘いものなんかが良いと思う」
加 《えー?まだ朝じゃん……》
新 「高島も来てるぞ」
加 《――わかった。行く》
新 「おー待ってるよ」
電話が終了した。
ひ 「うそついたよ? さきちゃんいないのにいいの?」
新 「いいのいいの」
ひ 「ゆっきー最低ー」
新 「あー俺って最低なのさー」
また電話する。
コール音が途中で途切れ、覇気のない声がする。
高 《はろー……》
新 「高島?」
高 《だれ》
新 「新渡戸」
高 《むぃー、何?》
新 「寝起きか?」
高 《うんにゃ……寝起きじゃ……寝起き》
新 「今からうちに来れるか?」
高 《なんで》
新 「ひろみ様がお待ちだ。貢物を持って参れ。甘いものとかがよろこばれる」
高 《あー……今何時よ……七時!? 早朝じゃん……》
新 「普段登校しているような時間だろう……」
高 《おやすみ……》
新 「加賀も来るぞ?」
高 《む! 行く》
新 「おう、来い来い」
高 《本当に加賀君いるんでしょうね!?》
新 「間もなく来る予定だ」
高 《行くわ、行く。待ってて!》
新 「あぁ。待っ――」
電話が切れた。
新 「……もう切りおった」
ひ 「さきちゃんくるー?」
新 「ああ、二人とも来るよ」
ひ 「わーい」
新 「…………」
ひ 「…………」
こくんと紅茶をのみ込んだ。
新 「おいしいか?」
ひ 「うん」
新 「そうか」
ひ 「でも、あの子で作ったやつのほうが美味しい……」
新 「…………そっか」
★
ピンポーンとインターホンが鳴り響く。
新 「お、加賀が来たな」
ひ 「がっくん?」
新 「いってくる」
ひ 「…………」
新 「…………」
加 「おっす」
新 「おっす」
バタンと玄関の扉が閉じた。
歩きながら話す。
新 「いやーよく来たよく来た」
加 「さきちゃんは?」
新 「まだ来てないよ」
加 「おまえなぁ……そういうことばっかしてると友達失くすぞ……?」
新 「俺もそう思う」
加 「じゃやめろよ」
リビングに足を踏み入れ、椅子に座った。
ひ 「がっくん何持ってきたー?」
加 「ん、えーと……コンビニで適当な菓子を……」
ひ 「おー……」
新 「一番高い菓子で三十円……つまりひろみの価値はそれくらいしかないと?」
加 「十円菓子だって立派な菓子だろ」
新 「加賀……一応聞くが、そっちのもう一つの袋は何だ?」
加 「これ? これはえーと……その……」
新 「高島の分だな?」
加 「えーと、そうですね、はい。そんなような気もします」
新 「中身は?」
加 「大福が二個」
新 「良い性格してるじゃねえか……友達失くすぞ……?」
加 「僕もそう思う」
新 「じゃあやめろ」
加 「いや、でも……」
ひ 「大福ー大福ー」
新 「よこせ!」
加 「あっ!」
新 「…………」
加 「…………」
ひ 「はい、がっくんのお茶」
加 「サンキュ」
新 「おいしいなぁひろみ」
ひ 「おいしいねぇゆっきー」
加 「…………喜んでもらえてうれしいね……」
ひ 「…………」
加 「ていうか、たいやきあるんならそっち食べてればいいのに……」
新 「大福が食べたい気分だった」
ひ 「あんこばんざーい」
加 「たいやきも餡子なんじゃ?」
新 「まぁ餡子だな。だが! 餡子じゃない種類のたいやきいっぱいあるぞ?」
加 「でもそこにあるそれは餡子なんだろ?」
新 「あぁ餡子だな」
ピンポーンと、またインターホンが鳴り響く。
新 「お、高島がきたかな」
加 「あ、さきちゃん来るのは本当だったんだ」
新 「そこは信用してくれよ……」
加 「無理言うな」
新 「お前高島と一緒にいてちょっと性格悪くなったな」
加 「素直になったと言ってくれ」
新 「オブラートに包むことも覚えないと社会でやっていけんぞ」
加 「大きなお世話」
新 「まぁそうか……」
玄関の扉が開いた。
加賀遊規のときとは違い、今回は山田ひろみも玄関で出迎えた。
「おっす」「おっす」「おっす」「おっす」
新 「素晴らしいハーモニーだな」
加 「ひろみちゃんいつの間にそんなスキルを……」
高 「あ、ゆーき、おはよう」
新 「おはよう」
高 「あなたじゃないわよ新渡戸くん」
新 「満面の笑みで言わないでくれ。怖い」
加 「さきちゃんおはよ」
高島さきが玄関を抜けて、ひろみの手で扉が閉められた。
ひ 「バターン」
高 「やだひろみちゃん可愛い」
新 「当り前だ、ひろみは可愛いんだ」
高 「新渡戸君にそんな風に言われると可哀想」
新 「失礼だな」
高 「あ、そうだ、これ、お父さんの楽しみにしていた長崎のカステラ」
ひ 「おー!」
新 「長崎、つまり、『加賀さき』ってことか? ダジャレか?」
高 「やだもー! 新渡戸君たら何言ってんのよ!」
加 「そのリアクションすげぇおばさんっぽいよさきちゃん……」
高 「ひぃぃ。ごめんなさい!」
加 「いや……いいんだけど……」
高島さきがリビングの椅子に座った。
ひろみがいつの間にか先に戻っていて、紅茶を準備していた。
ひ 「はい、さきちゃんお茶ー」
高 「あ、ひろみちゃんありがとー」
加 「ていうかさきちゃん、お父さんの楽しみにしてたって情報いらなんじゃ……」
新 「それはつまり、父よりも加賀のほうが大事という……」
高 「まぁそれはそう」
新 「わぁお」
加 「さきちゃん……うれしいな」
新 「そうだ、これ加賀が高島に買ってきたお菓子だそうだ」
高 「………………は?」
加 「いや、違うんださきちゃん」
高 「何が? これっていうのはつまりあれよね、あたしなんか十円から三十円の菓子程度の価値しかありませんってそういうこと!?」
加 「話を聞いてくれ」
高 「やっぱりあたしのこと好きじゃないんだ!」
加 「好きじゃないわけないじゃないか!」
高 「否定語並べた。すんなり好きだと出てこなかった!」
加 「二重否定は強調だよ!」
高 「ゆーきになんかカステラの茶色いところしかあげないんだから!」
加 「っく……」
高 「しかも紙ついたまま口の中に入れてやるもん!」
加 「なんと陰湿な……」
新 「ちなみに俺達には大福をくれました」
高 「そして何でひろみちゃんと新渡戸君には大福をあげ……あー……」
気付いたようだ。もともと自分を特別扱いして買ってきた大福が新渡戸に奪われたという事実に。
加 「さきちゃん?」
高 「新渡戸君……友達失くすわよ?」
新 「よく言われる」
高 「ゆーきもゆーきよ。何でそういうことすぐに言ってくれないの?」
加 「さきちゃんが聞かないから……」
高 「むー……あたしのせいか……」
新 「さて、四人揃ったことだし、遊ぶか」
高 「そうね」
ひ 「あそぶー」
高 「何するの?」
ひ 「でも……ゆっきー……眠い……」
新 「眠い? んー……そっか、昨日寝てないもんな」
加 「んな!? さきちゃん……どういうことだと思う?」
高 「一晩中寝ずに二人きりだった……? まちがいが起こってしまった!?」
加 「新渡戸……友達……失くすぞ…………」
新 「何言ってんだ」
ひ 「きのう、いっぱい戦った」
二人「「……っ!」」
ひ 「飛んで、吐いた」
新 「……えーとつまりだな」
ひ 「おっぱい揉まれた」
加 「新渡戸! 最低な奴め! そこまでだとは思わなかった!」
高 「ひろみちゃんよく言ったわ。無理矢理乱暴されたことを告白するなんて生半可な勇気じゃないわ!」
新 「誤解だって誤解。つまりヒロアキがだな」
高 「山田君のせいにするの?」
加 「何でそこでヒロアキが出てくるんだよ」
ひ 「おっぱい揉んだのはアッキー」
高 「…………」
加 「…………」
新 「じとっとした目をむけないでくれ」
高 「…………」
加 「…………」
新 「まぁ聞け、実はな、昨夜ヒロアキとまちがひろみをめぐって組織とやらと戦ったんだよ」
高 「…………」
新 「そして朝になってヒロアキに呼ばれた俺は、ひろみを預かって来たわけだ」
加 「端折りすぎててわからん」
高 「嘘は言っていないみたいよ?」
新 「詳しくは俺もわからないので、ヒロアキかまちに後で聞くといい」
高 「つまり、ひろみちゃんは山田君たちと一緒にいたということね?」
新 「そうだな」
紅茶をこくんと飲み込んで、こくんと首を縦に振った。
高 「あはは、ごめんね、変な疑いかけて」
新 「高島って割とすぐそういう方面に話飛ばすよな」
高 「そういうって?」
新 「そういう、性的なさ……」
ひ 「ゆっきー、セクハラー?」
新 「ここらへんは微妙なラインだな」
高 「新渡戸君だからアウトね。ゆーきだったらセーフだった」
新 「基準がわからんぞ……」
ひ 「セクハリストー」
新 「わはは、セクハリストだぞー!」
加 「新渡戸……」
高 「可哀想な子……変顔なんかして、なんか吹っ切れてるわね」
ひ 「あはははは」
高 「まぁひろみちゃんがよろこんでるから良いか」
加 「そうだな」
高 「…………」
加 「…………」
二人は、こくんと紅茶をのみ込んで、カチャンと同時にカップを置いた。
高 「あははー」
加 「どうしたのさきちゃん」
高 「ううん、何でもない」
加 「変なの」
★
新 「俺はひろみ寝かしてくる」
加 「悪戯すんなよ?」
新 「信用してくれ」
加 「無理言うな」
高 「あたしたちも見張らないと!」
加 「ん、監視しないとな!」
新 「お前らなぁ…………」
バタバタバタバタ……。
足音を残して、リビングからは誰もいなくなった。




