幕間_その13_パーティの準備!
高 → 高島さき
加 → 加賀遊規
新 → 新渡戸夕貴
ひ → 山田ひろみ
高 「新渡戸君新渡戸君」
新 「何だよ高島。加賀じゃなくて俺を呼ぶとは、浮気か?」
高 「ううん。寒い中加賀君に買い物行かせて風邪引いちゃったら大変でしょう?」
新 「いや、全然大変じゃないね。むしろもう引いちゃえば良いよ」
高 「……………………それもアリか」
新 「何妄想した?」
高 「え? 別に……」
新 「ところでお前の料理って大丈夫なのか?」
高 「五時間以内には何とか形にしてみせるわ!」
新 「中身にもこだわってくれ……たのむから……」
加 「ねぇ、さきちゃん、やっぱり僕が手伝って……」
高 「だめ! 加賀君は座っているべき! だってあたしが作るんだから!」
加 「つまり問答無用ってことだね……」
高 「ってことで新渡戸君。失敗した分の食料買出しよろしく」
新 「ぁ……ああ…………帰りにケーキとか買ってきたら怒るか?」
高 「えー? 何だってー? 聞こえなかったー」
新 「帰りにー、ケーキ」
高 「全く聞こえないなー」
加 「ケーキも作る気なんだ……」
新 「聞こえてるだろ?」
高 「ううん。全然聞こえてないよー」
ひ 「さきちゃん」
高 「ひろみちゃん? どうしたの?」
ひ 「あたし手伝う?」
高 「え、えーと……ひろみちゃんはほら、加賀君にお勉強見てもらうとかどうよ?」
加 「えー? 勉強ー? クリスマスにー?」
高 「何よ加賀君、文句ある?」
加 「無いと言えば嘘だ最低と言われるし、あると言えば怒られるんだよね」
高 「もうワンスペクタクルいっとく?」
加 「ノースペクタクルでお願いします」
新 「おい、お前ら、そのスペクタクルって何だ?」
加 「そうだな……例えて言うなら、新渡戸の親父の失敗パンだ」
新 「あぁ、理解した」
高 「っていうか新渡戸君、まだ行ってなかったんだね」
ひ 「さきちゃん暇ー」
高 「あー……じゃあひろみちゃんは…………これよ! この本見て試しにケーキを作ってみなさい。そして失敗して難しさを味わうと良いんだわ! そう! これも教育!」
加 「さきちゃん!? 何か焦げ臭くない?」
高 「え…………あ……あああああ! 加賀君、スペクタクル!!」
新 「高島……お前、全ての食材と生産者にあやまれ」
高 「うう……さすがにそこは新渡戸君のが正論よね……」
ひ 「セイロン……紅茶の産地ー?」
新 「うんうんひろみは物知りだなー」
ひ 「うー!」
新 「うお、威嚇された」
高 「ひろみちゃんは新渡戸君が嫌いなんだねー」
新 「いや……高島の教育が……」
高 「教育?」
新 「いわゆる、反新渡戸教育と言われる……」
高 「八割がたあんたが悪いでしょうが」
加 「まぁ確かに」
新 「加賀まで…………そうだ、加賀、じゃあお前ちょっとひろみの頭撫でてみろ」
加 「そういうこと言うのが嫌われる要素だとおもうんだけどね……撫で撫で」
ひ 「うにゃー」
新 「おお、猫のように……では俺も」
ひ 「ぎにゃー!」
新 「オオゥ……猫のように…………まるで好きで触りたいのにペットに嫌われる飼い主のようだ」
高 「その発想が失礼よね。ペットだって」
加 「心が貧しいんだよね」
高 「大貧民が板についちゃって」
新 「そんなに俺をいじめて楽しいかー」
加 「ところで新渡戸、買い物は?」
新 「まぁ慌てるな。よく見てみろ。高島が何を作りたいのか知らんが…………ほら、こんなに食材が溢れている。これは俺が今出て行ってもケンタッチーフライドキッチンというチキン専門店に並んで国産鶏がカラッと揚がったやつをテイクアウトしてくるとか、少々高いケーキを買ってくる……とかくらいしか……」
加 「――さきちゃん! 今だ! 火を止めて!」
高 「え? もう? でもまだ……」
加 「いいからストップだ」
高 「え、でも何か黄色いよ?」
加 「卵は黄色くて当然でしょ? スペクタクルな炭を食べるとか日本じゃないよ!」
高 「おお、ではこれが真の玉子焼きなのですね?」
加 「いや、スクランブルエッグだね……どうみても」
ひ 「さきちゃん、ばかー?」
高 「ばかじゃない! ばかじゃない! ばかはあれ! 新渡戸くん。あれがばか!」
新 「ほら、それが反新渡戸教育だ!」
高 「何よばか」
新 「ふ、俺も大人だ……馬鹿と言われて馬鹿と返すのはただの馬鹿だ!」
高 「あ、ねぇねぇ加賀君、このさ、こっちのケーキとこっちのケーキだったらどっちがいい?」
新 「ちょっと……放置やめてよ」
加 「あー……僕個人としては……こっち?」
高 「加賀君……それはこういうこと? どっちでもいいけど、あたしが料理がうまくないからどうせ失敗するだろうから一応こっちの方が難しいけど失敗した時のリスクが少ないほうという意味でこっち選んだわね!」
加 「寸分の違いもないよ……」
新 「高島」
高 「何よ」
新 「俺と料理役交代しないか?」
高 「何で?」
新 「ひたすら地球に優しくない」
高 「う……地球引き合いに出すなんて卑怯! 新渡戸くんが料理なんて宇宙にやさしくないんだから! ね!」
加 「いや、『ね!』って言われても……」
ひ 「さきちゃーん。『電子レンジでできる簡易カップケーキ』できたー。味見ー」
高 「あ……れぇ? 見た目普通にできてる……」
加 「ひろみちゃんの方が既に料理うまいんだ……」
高 「何よ! 料理うまいから何だって言うのよ!」
加 「スペクタクルよりマシでしょ」
新 「夫婦喧嘩は犬も食わないぞ」
高 「ひろみちゃんは犬じゃない!」
新 「いや……そういうことじゃなくてだな……」
ひ 「さきちゃん味見はー……」
高 「え、あぁうん……どれどれ?……ぱく」
ひ 「……どう?」
高 「普通ね」
ひ 「…………」
高 「ロマンが足りないわ!」
ひ 「くり?」
高 「それはマロン!」
加 「スペクタクルが苦味だとしたらロマンは渋味とかか? 強烈な酸味とか?」
高 「加賀君加賀君、どぅゆぅうぉんとスペクタクル? おあロマネスク?」
加 「ロマネスクが気になる」
新 「うんうん、とりあえず全世界のロマネスク様式建築に謝ろうな」
ひ 「加賀君とセクハリストも味見ー」
新 「セクハリスト定着してんの?」
ひ 「冗談ー」
新 「あはは、可愛いなひろみは」
ひ 「うー!」
新 「加賀……ひろみが心を開いてくれないよ……」
加 「まず、まちと仲良くなることから始めたら?」
新 「それは絶対に嫌だ」
加 「まぁとりあえずひろみちゃんのケーキの味見だ……」
ぱく。
ひ 「どう?」
新 「普通だな」
加 「うーん……だがスペクタクルより確実に上だ」
高 「そう…………加賀君はあたしの愛よりスペクタクルでもロマネスクでもない、おっぱいで言ったら貧乳な料理を支持するんだね!」
加 「え? えーと」
高 「もういい! 聞きたくない!」
ダッ!
加 「ちょっとさきちゃん何処行くの!」
高 「追って来ないでー! あたしやっぱり愛されてなんかなかったのよー!」
加 「まってぇー!」
新 「バカップル…………」
ひ 「バカップル……おいしそう」
新 「高島みたいなこと言うなよ、ひろみ」
ひ 「新渡戸君、紅茶のむー?」
新 「え? あ、ああ……飲む飲む」
ひ 「…………紅茶ー紅茶ーだぁじりんー♪」
新 「しかし、ひろみのケーキを貧乳だとするなら、高島のそれは陥没してしまうな」
ひ 「今のセクハラー?」
新 「あぁ、今のは小さいセクハラだな」
ひ 「あたしもだんだんセクハラのこと分かってきたー」
新 「ひろみ、それは分からなくていいことだぞ?」
ひ 「おっぱいぼよーん」
ぼよーん。
新 「…………」
高 「…………」
加 「…………」
高 「ちょっとちょっとちょっとちょっと新渡戸君新渡戸君! ひろみちゃんに何やらせてんのよ!」
ひ 「おっぱいぼよーん」
ぼよーん
加 「新渡戸……お前そこまで堕ちて…………」
新 「違う違います! 何だよお前ら! 帰ってこなくていいのに!」
高 「だって寒いもの……っていうか! 帰ってこなかったら何してたの!? 二人きりなのをいいことにあの妬ましい胸を用いて一体何を!」
ひ 「だっちゅーの」
高 「何教えてんのよ! そして古いわ!」
ばしっ
新 「いてっ、俺じゃねえよ!!」
高 「あんた以外に誰がいるのよ!」
加 「新渡戸……見損なったよ」
高 「あーあたしもね、まさかこんな破綻した変態がこんな身近にいるとは思わなかったわ」
新 「違うんだって」
二人「「問答無用デース」」
ひ 「おぉ、ハモったー」
高 「ひろみちゃんも早く皆とハモれるようにならないとねー」
ひ 「うん。がんばるー」
新 「待て、とりあえず誤解を解きたいんだが」
高 「無理ね。聞く耳持たないわ」
ひ 「新渡戸くん……これセクハラじゃないのー? ぼよーん」
新 「あ、あーそれは攻撃的且つ刺激的ではあるが、男性の尊厳を貶める行為ではないと思うから、俺としてはセクハラではない。しかし、いいか? セクハラというものは送信側が意図しなくとも、受信側で認知されたら、それはセクハラなんだ。たとえば何の気なしに水着ギャルの……」
高 「何語ってんのよ!」
ぼかっ!
新 「いってぇ……辞書で殴るなよ……そして、これからが良いところだろうが!」
高 「このセクハリストが!」
新 「あぁ! セクハリストだとも。セクハリストユーキだとも!」
高 「待ちなさい! ユーキは駄目よユーキは」
新 「いいや、セクハリストという単語とユーキという単語は合体セットで俺の中に商標登録された」
高 「いやぁー! 加賀君を巻き込まないでー!」
加 「あのねぇ……君達……早く準備しないと、ヒロアキとまち帰ってきちゃうよ?」
高 「そ、そうね、遅いわねー……二人とも」
加 「…………」
ひ 「…………」
新 「…………」
加 「はぁ……平和だなー」
高 「平和ねー」
新 「平和だなぁ」
ひ 「平和ー」
「…………」
ひ 「平和ってどういう意味ー?」
新 「平和とはつまり! 信じる心だ!」
加 「何か無駄に格好いいこと言い出した人がいるよ」
高 「言わせておきなさい。頭の中花畑なのよ」
ひ 「ねぇさきちゃん平和って何ー?」
新 「無視ですか! 俺無視ですか!」
高 「平和っていうのはつまり、音で表すと」
ひ 「表すと?」
高 「へぃわぁ……って感じね」
ひ 「なるほど」
新 「それに納得するか!」
ひ 「へぃわぁ」
高 「そう、それよ! 飲み込みが速いわね! 素晴らしいわ!」
ひ 「あはは」
高 「加賀君はどう思う?」
加 「え?」
高 「平和って何かなって」
加 「楽しいって笑えることかな」
新 「じゃあ平和だな、ここは」
高 「そう! こたつ王国はいつも平和なのよ!」
加 「ところで……しつこいようだけど、準備しなくて大丈夫なの? 二人が帰ってきて、何も用意されてなかったらスペクタクルだよ?」
高 「加賀君、スペクタクルって単語気に入っちゃったの?」
加 「残念ながら気に入ってしまいました」
高 「加賀君なら使いこなすって信じてるわ!」
加 「失望はさせないよ!」
新 「はいはいバカップルバカップル」
高 「前から思ってたんだけどさ、バカップルっておいしそうな単語よね」
加 「結構甘いと思うよ」
高 「そうねぇ、関係から言っても甘くないとねぇ」
新 「おい、炬燵王国の姫よ。準備しなくていいのか? 料理」
高 「え、あれ新渡戸君が代わるって言ったじゃない」
新 「あれ受理されてたんだ!」
高 「したわよーがんばってねー…………あたしは加賀君に料理をボロクソに言われたからもう心が折れたわ」
加 「いや、さきちゃんもまだまだこれからだって」
高 「もうひろみちゃんに抜かれているのに?」
加 「助走が無ければ遠くに飛べないし、序奏が無ければ成り立たない音楽もあるよっ!」
高 「……でもさでもさ、ひろみちゃんにはジョソウがなかったじゃん」
加 「それは……きっとひろみちゃんには非凡な才能があるに違いない。さきちゃんはまだ走りだしたばかりだよ!」
高 「そう……そうよね……助走……じゃあ今度あたし、加賀君のお弁当作っていい?」
加 「………………………………」
高 「何で黙るのよ?」
加 「まちの弁当美味しいんで……」
高 「あたしの愛と……」
加 「さきちゃんのこと好きだよ? とても」
高 「じゃあ」
加 「まだ弁当の段階じゃないということで……」
高 「えー…………」
新 「……よし、料理つくるぞ、加賀手伝えー」
加 「え、僕? まぁ……いいけど」
高 「むー……」
ひ 「…………」
高 「…………はぁ……」
ひ 「……さきちゃん? どうしたの?」
高 「いやー、あたしって何もできないなーって……」
ひ 「さきちゃんは、きっと、いてくれるだけで皆うれしい……」
新 「高島ぁー!」
高 「何よー?」
新 「生きている鍋はどこだー!」
高 「そこに無いんなら無いんじゃなーい?」
新 「この鍋の殺戮者めー!」
加 「さきちゃん! 大丈夫! 生きてるのあった!」
高 「…………ね? 迷惑ばっか掛けちゃう」
ひ 「でもあたし、さきちゃんのことすきだよ」
高 「あたしもひろみちゃんのことすきー」
ひ 「あははー」
高 「えへへー」
新 「高島ぁー! 塩どこ行ったぁー!」
高 「全部スペクタクルになったー!」
新 「海にあやまれぇー!」
高 「むー」
ひ 「…………」
高 「…………うぁ……っはぁ……眠い……」
ひ 「…………」
高 「…………」
ひ 「…………さきちゃん?」
高 「…………」
ひ 「さきちゃん………………寝てる……」
高 「…………」
ひ 「…………」
加 「あれ? さきちゃん寝ちゃったの?」
こくん
加 「可愛いなぁ」
ひ 「それセクハラー?」
加 「ん、机に伏して眠っている異性に上着を掛けるのをセクハラと言われたら何千人が風邪を引いてしまうだろうか」
ひ 「ふーん……」
加 「ひろみちゃんも寝てていいよ、あとは僕らがやっとくから」
ひ 「ううん。ここで待ってる」
加 「そっか」
新 「加賀ぁー! 醤油どこだぁ!」
加 「新渡戸っ、今さきちゃん寝てるからちょっと静かに」
新 「なんだ、眠り姫のつもりか? 今から役作りかこんちくしょう!」
加 「何で新渡戸って料理作るとき微妙にキャラ変わるの?」
新 「え? 雰囲気って大事じゃないか? いかにも固そうな城なら攻め込む気も起きなくなるってもんよぉ!」
加 「一体何と戦っているんだ?」
新 「え? 戦いか? いやぁ……考えたこともなかったなぁ」
加 「新渡戸、ごめんな」
新 「何がだよ」
加 「僕ばっかり幸せでさ」
新 「気遣ったら怒るぞ? あと、きつかったらいつでも言えよ?」
加 「この話にダジャレ混ぜるのナシだと思うなぁ」
新 「いいの、俺のささやかな楽しみなんだから」
加 「新渡戸」
新 「何だよ」
加 「お前の幸せって何だ?」
新 「……皆が傍にいることだよ」
加 「僕もそうだな」
新 「高島はいいのかよ」
加 「さきちゃんとは……まだ先には進まないよ……」
新 「おい、今ダジャレ……」
加 「意図しない事故。たまにはそういうこともある」
新 「ところで、話は変わるけど、たまに思うんだよな。加賀って苗字は誰がつけたんだろうな……何を考えてさ」
加 「じゃあ新渡戸って苗字はどうなんだよ?」
新 「俺達はさ、お互い名前でなかなか呼べないじゃんか」
加 「ああ……そうだな」
新 「なんかそういうの、不思議だよな……近いようで遠いようで……」
加 「近いんだよ」
新 「そうか?」
加 「そう思え」
新 「お前前向きになったなー」
加 「さきちゃんのおかげかな。なんか細かいことで悩んでもしょうがないっていうか……全部吹っ飛ばしてくれるというか……」
新 「そっか…………」
加 「なぁ新渡戸」
新 「んー?」
加 「世界って、綺麗だと思うか?」
新 「そんなの知らねぇよ」
加 「そっか」
新 「…………」
加 「ヒロアキとまち、間に合うかなぁ」
新 「間に合うさ。時間にはうるさいからな、蔵野まちは」
加 「……そうだな」
新 「あ……」
加 「何? どうかした?」
新 「おい、加賀……この菓子の残骸見てどう思う?」
加 「どうもこうも……」
新 「お前の姫、天真爛漫だな」
加 「褒め言葉だよな?」
新 「もちろんだ」
加 「で、彼女の宇宙に収まった菓子を買いに行けって?」
新 「そうだ」
加 「さっきより外寒いじゃん」
新 「だがこれは、お前の姫の罪……」
加 「あーもうわかったよ! 行ってくる! 行って適当に買ってくるよ」
新 「ああ」
加 「…………」
高 「…………」
ひ 「…………」
加 「……ひろみもか…………」
ひ 「…………」
加 「……よし、と」
高 「…………」
加 「行ってきます」
高 「…………」
ひ 「…………」
バタン
新 「…………」
高 「…………」
ひ 「…………」
新 「……うおおお、いくぜぇ、俺が、俺こそが! 真のスペクタクル! 見せてやる!」
静かな部屋に、鍋振る音がよく響いた。




