幕間_その12_冬の屋上
視点;新渡戸夕貴→加賀遊規
バタン、と、鉄扉が閉じて、信じられないほど冷たい風が、僕らの頬を撫でた。
「寒いっ」
体を震わせた目の前の女の子の体を、抱きしめることができたらなって思った。
今の僕に、そんな資格があるはずないと思って、伸ばしかけた手で頭を掻く。
「やっぱりさ、冬にここはないんじゃないの?」
「むー……」
頬を膨らませて、まるで動物的威嚇。
「さむいね」
「さむいなぁ」
くっつけばもっと温かいよ、なんて言えない。
「新渡戸君、どんなストーリー書いてくるかなぁ」
「どんな役でもさきちゃんなら平気でしょ?」
「……まぁ……」
しばらく二人とも、黙り込んだ。
そして、
「ねぇ」「なぁ」
同時に声が出た。
「何? 加賀君」
「さきちゃん先に言ってよ」
「えー」
「僕のは大したことじゃないから」
「大したことじゃないんなら先に言っちゃってよ。あたしのは大したことあるから」
「ん、じゃあ言うよ」
「どうぞ」
「…………何だっけ?」
いや、本当に何だっけ?
寒くて話忘れてしまった。
「……え?」
「何話すか忘れちゃった」
「……ばか」
呆れられた。
「ねぇ加賀君」
「何?」
「もう一度あの質問していい?」
何だろう?
この屋上でした質問をもう一回かな?
だとしたら……
「好きって言ったこと?」
「…………た、ぬ、き、さん」
たぬき……?
あ、そうか……。
あの時、狸寝入り決め込んでたんだった……ミスった……。
「あ……」
「やっぱ起きてたんだね。嘘つき」
「ごめん」
「返事は……いらないからね……」
「…………」
「加賀君が、したいときに返事して。あたしの気持ちは、変わらないから」
そう言って、目の前の小さな女の子は大きく笑う。
「加賀君加賀君」
「何だい、さきちゃん」
そして彼女は口にした。いつぞやと同じ空の下。同じ質問を。
「世界って、綺麗だと思う?」
僕は。僕は、
「……綺麗だと思う」
「あたしも」
「…………」
「本当に綺麗だと思ってる?」
「……うん」
「嘘つき」
「うん」
信じたいじゃないか。
綺麗だって……。
だから、声に出して、綺麗だって言ったら、綺麗だって思えるんじゃないかって、そう思っただけだ。そういう嘘を吐き通すことも、彼女は許してくれないらしい。
ただ、人は変わることができるんだ。
今は綺麗だとは思えなくても、きっといつか――。
冷たい風が、彼女の髪を撫でてから、僕の横を通り過ぎた。




