Chapter14 今、守るべき者-1
視点:加賀遊規→山田ヒロアキ
違和感、というものを感じたと思う。
どうして仲間を殺した人間を、あっさり受け入れたりするのか。いくら結託しなければいけないとは言え、仲間を殺した人間を、新しい仲間にするのか。そんなに簡単に仲間の死を受け入れてしまったのか。
――皆、気持ちに嘘をついている?
そうなのかも知れない。他人の気持ちなど、量りようがない。ただ皆がそうだとしても、俺は嘘の気持ちは抱いていなかった。純粋に、蔵野まちという人間を受け入れているつもりだ。
もっとも心の深層でどう思っているのかは知れないのだが。
こんなことを言うのは傲慢かもしれないけれど……蔵野まちは、俺が受け入れたから皆にも受け入れられたんじゃないかと思う。だって俺も、彼女と同じことを過去にしてしまっているから……。
言ってしまえば、俺は安心した。
最低なことに、これで罪が半分になるんじゃないかって、淡く、そんな気持ちを抱いてしまっていた。
そんなはず、ないのに。
「ねぇ、ヒロアキ。私、貴方に一度負けたことがあるの、知ってる?」
皆が帰ってしまった後に、コタツに二人きりで残された。
「俺が勝った? いつどこで何やって?」
「ずっと昔。剣術の訓練の時」
「……いや、憶えてないな」
あの頃、施設に居た頃の記憶は、忘れてしまいたい記憶になっていた。
誰に勝っただ負けただなんてことにも当時は興味がなかった。
「それが、私が最後に負けた記憶」
そして蔵野まちは俯いて、続けて言うのだ。
「……ねぇヒロアキ、私、絶対、器を生む研究をやめさせたい」
「その気持ちがあるならきっと……」
きっと、蔵野まちが皆と仲間に……なれるのかな……。
俺は仲間なんだろうか?
新渡戸は仲間なんだろうか?
特に加賀にとって、俺達は未だ親友と認めてもらえているのだろうか……?
孤独感を与えてしまっていないだろうか?
与えてしまっているだろう……。
その孤独を、高島で埋められるだろうか?
俺が無理矢理ねじ込んだ、この蔵野まちという存在を受け入れているんだろうか?
おかしな名前の、第七帰宅部という存在が、少しでも加賀の傷を癒すように、覆うように……霧野みやこはもう戻らないけど、それを思い出さないくらいに楽しい日々を……。
それが、俺にできる唯一のことのように思う。
新渡戸の気持ちはわからない。
父が消えて、加賀に吐いた嘘がのしかかって。そんなの、想像したってどれくらい辛いか量りようがない。結局残ったのは、妹を失って、母親も失って、そうか……父親も失って、残されたのが大金と一人で住むには巨大過ぎる家。
……ああそういえば、もう昼休みに新渡戸の家のパンを食べることも無いんだなぁ。
俺の勝手な予想だが、新渡戸はまた嘘を抱えるだろう。
蔵野まちに対しての嘘。
それはつまり俺達全員に対して嘘の対応をすることになる。
でも、それでしか皆で楽しくなれないのなら、俺はその嘘に気付かない振りをするね。
加賀に秘密を抱いていた時のように。
俺だけが全てを掌握していて、新渡戸も俺が知っているということを知らなくて、でもそれはきっと、新渡戸の嘘を半分背負っていることには、なってくれないんだろうな。
「まち」
「何?」
「お前、皆のこと、好きか?」
「皆?」
「加賀と新渡戸と高島と、俺とひろみも加えるか」
「……正直に言うと、よく、わからないわ」
「俺は好きだから、今度は絶対に守りたい」
「私は、罪を……赦してもらいたい……申し訳ないけれど、その為に、ここに来た」
「そのためには、皆で楽しまないといけないと、俺は思うぜ?」
「心から?」
「心から」
「でもその前に、研究を潰すわ」
「それで終わりじゃないぜ?」
「わかってるわよ」
俺は全力で蔵野まちを赦そうと思った。
それはきっと、俺も彼女に全力で赦してもらいたいから。
貴方は悪くないのよと、言って欲しいと思ったから。
その思考が、赦しがたいと思うね、全く。
「まち」
「何?」
「お前、自分のこと好きか?」
「自分? 考えたこともなかったけど……」
「俺は、自分のことが好きになれないな。山田ヒロアキが」
「私が私を嫌うなら、私は貴方が嫌いということになると思うけれど、残念ながら私は貴方のこと、結構好きよ」
「愛の告白か?」
「告白と言えば告白ね。愛ではないけど、罪の、ね」
「以前にもこんなこと言ったよな」
「ええ、言ったわね」
「あの時はもう、ねぇ。名前など無い! とか言うんだもんな」
「名前なんて無かったもの」
「お前の名前なんだっけ?」
聞くと、待ってましたとばかりに彼女は言う。
「蔵野まち!」
「普通に話す日が来るなんて、思わなかったけど……」
「私も。……私は、貴方にも感謝しなくてはならないわね。まだ言ってなかったわ」
なんだか有難う、とでも言いそうな雰囲気だった。
そんなもの、まだ言わせるわけにはいかない。
「全部終わったら聞くよ」
「それいつよ?」
「さぁな」
本当に、こんな日が来るなんて、思わなかった。
霧野みやこという犠牲が、加賀達を壊してしまわないように、俺には祈って、日常を盛り上げようとすることしかできないな……。
皆が孤独を感じてしまわないように……。
「まち」
「何?」
「一つ、頼みたいことがあるんだけど……」
「何よ」
★
次の日俺達三人は一緒に登校した。
途中で職員室に寄り、ひろみを担任の相馬先生に預けた。
朝、HR、担任の相馬が言う。
「あー、今日も一人転校生を紹介する」
また今日も教室がざわめく。
またかまたかという声が聴こえる。
「じゃあ、山田ひろみさん入ってきてー」
返事が無い。
「山田さん?」
ガラっと相馬が引き戸を開けて、背中を押してひろみを押し入れた。
「えー、山田ひろみさん、自己紹介を」
「……山田……ひろみです」
静まり返る教室。
「山田ひろみです」
二度言った。
何も言わずに、ぺこりと頭を下げた。
「あー、じゃあ、席は、あの一番後ろの空いてる席で」
そう言った後で、まばらな拍手。先生も大変だなぁ。
山田ひろみが席に座る。それを加賀が複雑な面持ちで見るのを、見ていた。
俺の左斜め後ろの席。加賀の隣の席。新渡戸の隣の席。
それはつまり…………霧野みやこの席。
「えー山田ひろみさんは、山田ヒロアキくんの従兄妹だそうで、まぁ、詳しい事情とか全部山田に聞け。以上」
丸投げして、相馬は早足で出て行った。
★
昼休みになった。
俺たちは以前霧野みやことそうしたように、ひろみの席の周囲に集まる。
少し違うのは人数が五人が六人になったところ。
席を囲んですぐに、高島が言った。
「ひろみちゃんも来るんだったら、もう一個作ってくるんだったな……」
まさか……。
「俺も、もう一個作ってくるんだったぜ」
と新渡戸まで言っている。
「私はちゃんと人数分作ってきたわよ?」
と蔵野まち。
加賀は学食に行こうと思っていたらしいが、何はともあれ、食料が足りないなどということはなかった。
つまり、高島が五人分の弁当を作ってきてくれて、何故か新渡戸も五人分の弁当を作っていて、そして俺が蔵野まちに作らせた弁当が六人分。
合わせて十六人分の弁当が机の上に広げられた。
日本人の飽食を嘆きたい。
「どうするのこれ……」
広がった弁当畑を目にして新渡戸が言った。
「私はヒロアキに頼まれて作っただけよ」
「あたしは、皆学食派って加賀君に聞いたから内緒で……」
「俺は親父のパンが無くなっちまったから代わりにと思って……」
新渡戸が頑張って手作り弁当に挑戦している場面を想像したら、少し笑えた。
「僕、頑張って食べるよ!」
張り切る加賀。
高島の弁当は、彩り鮮やかで、黄金の玉子焼きと、ケチャップの乗ったハンバーグと、ピーマンと茄子の炒め物といった具合に、信号機みたいに並べられていた。ご飯には胡麻の化粧が施され、高島にしては質素な感じであった。きっと金銭的な面で妥協したんだろうな……とか思ってしまった。
「おかず少ないけど、逆にちょうどよかったかな」
えへへと笑う高島。
いやいや、実に美味しそうで素晴らしいじゃないか。
蔵野まちの弁当は、俺プレゼンツで、玉子焼きと、ミートボールと、カニクリームコロッケとエビフライと、ポテトサラダ、そしてみかん。ご飯には、梅干を埋め込ませてみた。
「ヒロアキのせいだからね」
まだ言っていた。
たしかに俺のせいなんだけど。
「美味しそうだからいいじゃない」
加賀がそう言った。
「ありがとう……」
「食べ物には罪、ないからね……」
加賀、そいつは一言余計だよ。場が凍り付いてしまったじゃないか。
さて、最後に新渡戸の弁当は、といえば……。
お好み焼きだった。
大阪風のお好み焼き。二段重ねの弁当箱、その上段に詰められたお好み焼き。
下段は浅めにご飯が詰められていた。冷えたお好み焼きってどうなんだろう。
「ソースとマヨネーズと青海苔と鰹節、そして紅生姜も持参したのでお好みで」
そう言って机にそれらを置いていく。
「ちなみに、大当たりが一個あってだな、家に残っていたあらゆる薬味を投入してみた」
「お前……親父さんと発想が一緒だな……」と俺は言ってやる。
「いや、一番不評だった試作パンの記憶を搾り出して作ってみた」
「性質悪いな、お前……」
「まぁ、級長に当たる、というのが俺の予想」と新渡戸。
「級長と呼ぶな馬鹿」また、蔵野まちは応戦する。
「ふ、俺に馬鹿と言ったからには、大当たりのお好み焼きを食べて頂こうか!」
「ふ、良いだろう。食ってやる」
あっさり挑発に乗る蔵野まちだったが、「で、新渡戸、見た目全部同じなんだが、それどれだ?」と俺が言ったとき、
「…………さぁ?」
馬鹿。
「馬鹿ね」
「じゃあこうだ、俺の弁当、当たり出るまで全部お前が食え」
「お断りよ、不味そうだもの」
「大阪県民に謝れぇ!」
「大阪は府よ、大阪府。貴方が一番謝りなさい」
こんな常識的なこともわからないのか、とばかりに呆れてみせた。
「っく……! なかなかやるじゃねえか……」
「まぁまぁ、お前ら、喧嘩してる間に弁当が冷めちまうだろ?」
俺がそう言ったとき、
「最初から冷めてるよ!」「最初から冷めてるわよ!」
またしても新渡戸とまちが、同時に言った。
仲がよろしくていいことだ。
★
結局、新渡戸の弁当は、ひろみ以外の五人が一人ずつ食べることになった。
「ところで新渡戸。何でお好み焼きにご飯なんだよ?」と加賀。
「え? 常識だろ?」
そんな常識は、きっと新渡戸の中にしかない。
「いや、だって炭水化物に炭水化物だろ? なんか太りそうだし」
「ふ……何をおっしゃる加賀遊規。やきそばパンを食べたことが無いか? ラーメンと一緒にご飯たべたこと無いか? 餃子食ってご飯食べたこと無いか? じゃがいもの何かと一緒にご飯たべたこと無いか? それと同じなわけだよ! お好み焼きと一緒にご飯を食べる……それはもはやコモンセンス!」
「いやぁ、確かにいくつかはあるけどさぁ……」
「それはともかく、まぁ、不味くはないな」
加賀の口には合ったようだ。
その感想を聞いてから俺も口に運んでみた。思ったより美味かった。意外だ。欲を言うなら冷めてなかったらもっと良かった。しかしそんなことを言い出すと、ホットプレートを持参して目の前で作り出したりしそうなので絶対に言わない。
「だろう? 俺が今朝頑張って作ったんだ」
「それで……結局誰が外れに?」
「当たりと言えよ!」
「俺は普通だ」
と俺。
「僕も平気」
と加賀。
「俺も普通のだ」
と新渡戸。
女性陣は、まだ箸を付けていない……。
確率が二分の一になってしまっていた。
「まち、覚悟はいい? せーのでいくよ」
「ええ」
「せーのっ……」
同時に口に運ばれるお好み焼きの欠片。
沈黙。長い長い沈黙。
やがて、片方のもぐもぐが止まった。
「ぅぁ…………」
ガタンと、椅子が跳ねて、高島さきが床に倒れる。
「高島ぁ!」俺が叫び、
「さきちゃん!?」加賀が駆け寄る。
「あはは、高島か」新渡戸。
「私の勝ちね」蔵野まち。
加賀がお茶を与えて介抱しながら、新渡戸とまちを睨みつけていた。
「ぅ……加賀……くん」
「さきちゃん!」
「……さきちゃんって……呼んでくれたね……」
「え……あぁ……」
加賀の顔が赤くなる。
お前ら…毎度言わせて欲しいんだが、時と場所を選んでラブシーンしてくれ……。
俺がいるところでのラブシーン禁止。
「あたし……もう駄目みたい……」
「駄目って…さきちゃん、そんな……」
「最後に、キスして」
「………あの、さきちゃん。ここ、教室……」
「冗談よ」
そう言って演技をやめ、加賀の手を掴んで素早く立ち上がると、机にぽつんとあった食べかけのお好み焼きが入った弁当箱を手に取った。それを新渡戸に差し出して、
「食え」
と言った。
「やだね」
そっぽを向いた。
「やだじゃない。食え」
「絶対まずいもん」
「自分で作ったんだから責任とりなさいよ」
「加賀に食べてもらえよ」
「いいから、食べなさいっよっ!」
そう言って高島は新渡戸の口にその殺人的お好み焼きを入れようとする。
「拒否! ん……ぅ?」
右に避けたその頭を、蔵野まちが両手でジリジリと掴んで戻した。
「んんんんんんーー」
口は開けない。新渡戸は泣きそうな目でやめてと訴えかけているが、俺にできるのは、鼻をつまんでやるくらいだった……。
むぐむぐ、ごくん……。
食べた。
「はぁー! なんじゃこりゃー! はぁー!」
のたうつ新渡戸。自業自得である。
「高島さん高島さん、どんな味がするの?」加賀が言ったところ、
「ん、さきちゃんって呼んだら教えてあげる」高島はへらへら笑いながら言った。
「さ……さきちゃん……」
あぁもう、ラヴシーン禁止!
「なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああ」
「うるさい!」
ドカ。
「おごぉ!」
新渡戸は、あまりにうるさかったからか、まちに蹴られて黙らされてしまった。
これで新渡戸の昼休み中の復帰は絶望的。となると、
「さて、残った弁当をどうする……か?」
ひろみの机に、空の弁当箱が五つ転がっているのが見えた……。
ぉぅ……フードファイター……。
「ひろみ、美味しい?」
俺がそう訊ねると、こくん、と口の中の物を飲み込んでから、こくん、と大きく頷いた。
「よかった。さて、それじゃ気を失ってる馬鹿は放っておいて食べようか」
俺が言うと、各自弁当箱を手元に寄せて、
「いただきます」
と言った。
「これ、高島が作ったの?」
「ん、んーと、そうだよ?」
「何で一瞬考え込んだ?」
「……ごめん実はほとんどお母さん……あたし料理は苦手で…」
「このハンバーグにケチャップかけたのさきちゃんでしょ?」
「何でわかるの!?」
「えーと……なんとなく」
「すごいすごい! 加賀君すごい! エスパー!」
ばかか……。バカップルか……。
「ところで、さきちゃん。あの新渡戸のお好み焼きどんな味だったの?」
「……形容し難いわね。辛いようで、苦く、抜ける香りが……スペクタクル。例えて言うなら……サバンナの過酷さと日本海の荒波を併せ持つような……」
よくわからん。
「火山の噴火に近い感じ?」
「そう! 近い! けどちょっと違うわ」
近いのか。その感覚が全くわからん。
まぁ後で新渡戸にも聞くか。
俺もちょっと興味あるからな。
薬味パンは人間の食べ物じゃなかったから、それと似ているとは思うが……。
「食と世界中で飢えている人に対する冒涜よね」
「まったくだな」
皆でうーうー唸っている意識のない新渡戸の顔を見ながら何とか十六個の弁当を完食できた。
ひろみが七個片付けてくれたのが大きかったな。うん。
★
放課後になった。
俺達は加賀や俺の席がある廊下側の後列に集まっていた。
現在は書記である第七帰宅部初代部長の加賀がノートを開いてペンを構えている。
「新渡戸、大丈夫?」
「……大丈夫じゃない……」
どうやら先ほどのお好み焼きが効いているらしい。
放課後になってまで苦しみ続けるとは、何とも恐ろしい。
しかしまぁ、大阪府民と飢える民と食材として命を奪われた者たちに贖罪すべきなので、仕方ないな。
「どうやら私の出番のようね」
と、まちが言う。
「待て! 俺が仕切る……」
新渡戸……こんな体になってまで……。
「俺が部長だから……な……」
「無理はよくないわ」
「お前に司会の座は……わた……さん……」
そして、沈黙。
何も言わなくなってしまった。
「保健室とか、連れて行かなくて大丈夫か?」と俺。
「大丈夫、たぶん眠っているだけだわ」まち。
「たぶんって……食べ合わせで死ぬこともあるって聞くけど……」加賀。
「よく考えてみればあたしもこうなってた可能性があったってことよね……」
高島が言ったら、加賀は容赦なく、
「じゃあ別に平気かな。目覚めるまで放っとこう」
「そうだな」俺。
「そうね」まち。
非情だった。
★
「さて、第二回第七帰宅部の話し合いを始めます! 書記の加賀君! 準備オーケイ?」
「イエース、オーケイ!」
高島さきの、カタコト英語。英語と言うよりもむしろ日本語であった。
「今回の議題は……」
「議題は……?」
俺は言う。
「えーと、議題何?」
「さぁ……」
まちには、何の考えもなかったようだ。いきなり暗礁に乗り上げていた。
「前回の続きで良いんじゃない? 六人で何やるかって……」
そう言ったのは加賀だった。
前回……っていうのは昨日のことだが、あの後結局、新渡戸とまちが喧嘩しっ放しで、加賀と俺も疲れて二人を放置。高島とひろみと四人でコタツに入って平和にみかんとか食って終わったのだった。
「六人で何か、ね」
と俺がつぶやくと、
「六人……六人といえば、バレーボール!」
高島がそんなことを言っていた。
「バレーボールか……さきちゃん、ごめん。ルールよくわかんないな」
「俺もだ」
「相手をふっ飛ばせばいいんでしょう?」
「まち、それ何か違う……」
高島は困惑した。
まちなら三枚ブロックも突き破るだろうが……相手の壁の腕があらぬ方向に曲がったりしそうだし、ボールも可哀相なのでできれば、「バレーボールはなしで」却下の方向で。
「むー」
高島が声を出してむくれるのが可愛い。
「じゃあ、バスケ?」
何故スポーツばかりを……。
「バスケは五人だろ?」と俺。
「新渡戸君補欠で」
「さきちゃん、新渡戸に恨みでもあるの?」
「いやぁ、さっきのお好み焼きがねぇ」
「もう許してあげたら?」
「加賀君がそう言うなら……」
「次の意見は?」まちが仕切って言う。
「野球は?」加賀の提案は、「人数が足りないぞ?」と言って俺が却下。
「あと三人でしょう?」
なぜか、高島さきが乗り気だった。
たしかに、あと三人いれば人数は揃うんだが、こんな放課後に暗躍する謎の集団に関わりたいという酔狂な輩は逆に怪しいので願い下げだよ。
「まちピッチャーやるって言うだろ? 新渡戸も俺がエースだとか言うぜ?」
「ピッチャーって何?」
まちが言った。
「……ルール教えるのも大変だしさ……」
「実はあたしもルールさっぱりなんだよね」
高島さきは相変わらずである。乗り気だったはずだが。
「加賀君、何かない?」
と、まちが加賀に意見を求める。
「この流れでいくと……サッカー?」
「オフサイドって、何?」
まちが言った。
その発言は、知っているという判断でいいのかな?
まぁどちらにせよ人数が足りていないだろう。
「フットサルならオフサイドないんじゃない?」
と加賀が言ってきたが、俺はやっぱりスポーツは無理だと思う。
「ていうか、たぶんスポーツ系は無理だよね」
加賀も同じ意見だった。
中心の活動にするにはこの六人では向かないと思った。
「うーん……たしかに」
と、そんなところで、不意に高島が席を立った。
「あ、まちとひろみも一緒に来て」
「どこ行くんだよ」
「……そういうの聞くの、デリカシーないと思う」
「なんだ、トイレか」
と、新渡戸が目覚めて言った。瞬間まちに黙らされていたが……。
「こんな時ばっか起きるなよ……」
引き戸が開いて閉じて、教室内には加賀と俺と、気を失った新渡戸が残された。
要するに、俺と加賀が残された。
「なぁヒロアキ……」加賀が悲痛な声で言っていた。「僕さ、今でも時々思うんだ。たとえばそこの掃除用具入れから霧野みやこが現れて、はいウソでした、ドッキリカメラでした。と言ってくれる、とか、そんな、妄想」
「加賀、それは、ないよ」
「わかってるよ……わかってるけど……」
「その席に誰が座っても、霧野みやこの代わりにはならないよな。やっぱ」
「当り前だろ、そんなの」
それきり、二人とも黙ったままだった。
数分後。
引き戸が開いて閉じて、教室内に六人が戻る。
「ただいま」という高島を、「おかえり」と加賀が迎えていた。
「ところで……寒くない?」加賀が言った。
「寒いね」
「寒い」
もう十一月なので、コートを着込む人も増えている。
高島なんかはスカートの下にジャージを穿きこむという可愛くない行為に及んだりしているが、加賀にとってはそれもまたグッとくるらしい。
まぁ、何でも楽しめる人って、羨ましいよね。
で、まあ寒すぎるという意見には賛成なので、俺は提案する。
「ときに、俺は思うんだが、放課後の教室って人目に付きすぎると思わんか?」
「たしかにそうね、部活が終われば、運動部の方々が戻ってきたりすることもあるだろうし」
まちは俺の考えがわかっているらしい。
「そこで、だ、誰かの家で会議しないか? 帰宅部らしく!」
俺は言い放った。
「またヒロアキの家?……うちは無理だよ? 足の踏み場ないし」
と加賀が慌てている。
「いずれ皆の家に行くとして、だ。俺は、とりあえず新渡戸の家がいい」
広いからな。一人で住むには広すぎるくらいだろう。
「俺はやだ」
いつの間にか起きた新渡戸が反論してきた。
何のつもりだ?
「何で?」
「級長に敷居を跨がせたくない」
まーた火種になりそうなことを言う……。
「級長と呼ぶな」
「しばらくはヒロアキの家でやろうぜ」
新渡戸の提案に、俺は必死に反論しようとする。
「待て、俺の家はコタツしかないぞ? 四人しか暖まれない! ここは冷暖房完備のにと――」
「さぁ、とりあえずヒロアキの家行くぞ」新渡戸の声に、
「おー」皆がこたえた。
俺の話なんか聞いちゃいねえ……。




