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12.十五年前 後編

「とにかく、プシマフを探さなきゃ。それと、カンタリジンと南方葛を禁止薬物に指定して、市場から取り締まらないと」

「分かった!すぐ手配する」

 そう言ってルスランはすぐに部屋を出た。

「私たちは、解毒薬を作りましょう。王女様に出さないといけないし、たぶん、探せば被害者が既に何人かいるはずよ」

 ザリーナの提案にファティマとべルスランも頷き、それぞれが作業に移った。


 ルスランの手配のお陰で市場に出回っていたカンタリジンと南方葛は速やかに回収されたが、既に広範囲に被害が広がっていることが分かった。しかし、いずれも軽症なので、魔塔が用意した薬で何とか収まりそうだった。プシマフの行方だけは依然として不明で、それがザリーナの機嫌を悪くさせた。


「一体どこにいったのかしら?彼が行きそうなところって誰も心当たりないの?」

「プシマフは元々この国の人間じゃない。だから身内と呼べる人間はいないはずだ。もしかしたら姿を変えているのかもしれないな」

 べルスランがお手上げというように投げやりに言った。

「姿?目にマスクをしてるって言ってたわ」

「普段はマスクを外しているのかもな」

「でも、プシマフは額に目立つ傷があるから、マスク無しで出歩けば、すぐに誰かに気付かれるはずよ」

「じゃあ、きっと協力者がいて、出歩いてないんだよ。プシマフの協力者と言えば、奴と取引のあった商人かパールサ人だろう」

「商人……。多すぎて分からないわね。ねえ、カンタリジンや南方葛のルートから絞り込めないかしら?」

 ザリーナはルスランの方を向いて尋ねた。しかしルスランも首を振るしかなかった。

「それが、半年ぐらい前から定期的に取引所に卸されていたらしい。持ち込んだ奴の姿を聞くとやはり目元をマスクで隠していたらしいから、プシマフが直接持ってきた可能性もあるな」

「半年前?じゃあ、やっぱり地竜騒ぎの時に入り込んで、今も潜伏してるってことじゃない?」

「その可能性が高いな」

 背もたれに勢いよく倒れ込み、ザリーナは悔しそうに唇を噛んだ。

「……どこに消えたのかしら?今、捜索が始まって隠れているとして食料とか調達してるはずよね」

「結構くまなく探したからな。魔塔でも、隠し部屋や地下室なども調べつくしたんだろう?」

 ファティマとべルスランが頷き、ザリーナは頭を抱えた。しかし、しばらくするとハッと顔を上げた。

「ねえ、一か所だけ調べてないことに気が付いたんだけど」

「奇遇だね。私もだよ」

 ザリーナとファティマが頷き合う中、べルスランとルスランは全く思い至らないようだった。

「えっ!一体どこだよ」

 べルスランの問いにザリーナは自信ありげに言った。

「それは、神殿よ」

 

 魔塔と神殿は仲が良くない。

 それは魔法使いの成り立ちによるものだった。

 この国は一神教で、神以外に万物を統べる者はいないとされている。

 そして、神と対立するものとして「悪魔」や「魔神」という概念がある。

 元々、神に反して人間に智を与えた者が、「悪魔」だと聖典にあり、智を探求する魔塔は悪魔の信奉者だと常々神殿の批判の対象となっているし、何より魔力を持つ魔法使い達は、悪魔や魔神の末裔という伝説があるのだ。

 それはパールサ帝国で始まった錬金術の歴史書にも記載があった。

 昔、パールサの賢者がその知識欲から悪魔を呼び出した。悪魔は今までになかった概念を人間に与えた。

 それは万物が一つの物質の集合に過ぎず、錬金術により、物質そのものを変化させることができるというものだった。これにより、鉛を金に変えようと錬金術が研究され始めた。

 蒸留、ろ過、昇華といった技術から始まり、蒸留器、フラスコなどの機材もどんどん進化していった。そして、知識を得るために、錬金術師たちはしばしば悪魔と交わり、魔力を持つ魔法使いが生まれていったのだ。

 パールサは今でこそアディーグと同じ一神教だが、元々は多神教で、錬金術の研究が始まった頃には悪魔はまだ神の類とされていた。それも相まって、歴史上多くの錬金術師が悪魔と交わり、子をなした。

 そんな背景もあり、神殿は魔塔を快く思っていない。

 

「プシマフは魔力持ちの魔法使いだろう?神殿が滞在を許可するとは思えないが」

 ルスランが素朴な疑問を投げかけた。

「表向き、神殿は魔法使いだろうと信者を受け入れない訳にはいかないもの。私達だって、祭日には神殿に行くし、寄進もしてるわ。結婚式だって、神殿でしたじゃない。」

 ザリーナがそう言うと、ルスランは結婚式での失態を思い出し、胸に痛みを感じた。

「……そうだったな」

「プシマフはかなり敬虔な信者で、しょっちゅう神殿に行ってたし、知り合いも多かったの。絶対神殿に潜んでいるに違いないわ。この騒動だって、神殿が絡んでるんじゃないかしら?最近神殿は権力が落ちてるから、きっと近いうちに何か言い出すわよ」

 そのザリーナの言葉は、翌日にはすぐに的中することになった。



本日3回更新予定です。

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