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ログアウト不能のバグで魔王になった俺、善意の行動が深読みされすぎていつの間にか世界統一してた件  作者: 黒崎隼人


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第2話「深遠なるご計画(ただの空腹)」

 玉座に座ったまま呆然としていると、先ほどの魔将軍リリアナが戻ってきた。

 その後ろには、いかつい鎧を着込んだ屈強な男たちや、禍々しいローブをまとった魔術師らしき者たちがずらりと控えている。

 全員、頭上には物々しい二つ名と名前が表示されている。


「魔王様、我が魔王軍四天王、ただいま馳せ参じました!」


 リリアナがそう言うと、最前列にいた三人が俺の前に進み出て、恭しく片膝をついた。

 一人は、身長3メートルはあろうかという巨漢。

 燃えるような赤い髪と鱗に覆われた肌は、彼が竜人族であることを示している。

 猛将ヴァルガス。

 もう一人は、干からびたミイラのような姿をしたアンデッド。

 その眼窩には知性の光が宿っている。

 軍師ベルドリス。

 そしてもう一人が、影でできているのかと思うほど黒い衣をまとった暗殺者風の男。

 影王フェンリル。

 リリアナを含めたこの四人が、どうやら魔王軍の最高幹部、四天王らしい。


『いや、そんな幹部とか言われても困るんですけど! 俺、係長ですらない平社員なのに!』


 内心で絶叫するが、もちろん口から出る言葉は違う。


「……うむ。久しいな、我が片腕たちよ」


 自然と威厳のある声が出てしまうこの身体、どうにかしてほしい。

 四天王たちは、俺の言葉に感極まったように顔を上げた。

 特にヴァルガスなんて、目を潤ませているようにすら見える。


「おお……! 我らが君主、アルノス様! この日をどれほど待ちわびたことか!」

「魔王様が復活された今、我らの悲願である世界征服は目前にございます」


 ベルドリスが冷静な声で言うが、その声もわずかに震えている。


『世界征服とか本気で言っているのか、この人たち……』


 俺の意思とは無関係に、物語はどんどん邪悪な方向へ進んでいく。

 なんとかして止めなければ。

 このままじゃ、俺はプレイヤーたちにとってただの討伐対象、最強のサンドバッグになってしまう。


「ま、待て。その、せいふく……というのは、まだ早い」


 慌てて制止しようとした俺の言葉は、またしても裏切りの自動変換を遂げた。


「待て。焦るでない、我が眷属どもよ。真の征服とは、力による蹂躙にあらず。世界の理そのものを、我が法で塗り替えることにこそある

『何言ってんの俺!? めちゃくちゃ大それたこと言ってるぞ!?』


 自分で言っておきながら、そのスケールの大きさにめまいがしそうだ。

 しかし、四天王たちの反応は、俺の絶望とは真逆だった。


「な、なんと……! ただ力で支配するのではなく、世界の法則そのものを書き換える……! 我々の考えなど、魔王様の深いお考えの前では赤子の戯言に等しい……!」


 ベルドリスがカシャカシャと顎の骨を鳴らしながら、感嘆の声を漏らす。

 リリアナはうっとりと頬を染め、ヴァルガスは感涙にむせんでいる。

 フェンリルだけは無言だが、その気配が歓喜に打ち震えているのがわかった。


『違う、違うんだ! 俺はただ、まだ心の準備ができていないって言いたかっただけで!』


 弁解しようとすればするほど、とんでもない誤解が生まれていく。

 この負のスパイラル、どうやったら断ち切れるんだ。

 そんな俺の葛藤を知る由もなく、リリアナがうやうやしく一歩前に進み出た。


「魔王様。先ほどお申し付けの供物、ご用意が整いました。祭壇の間へご案内いたします」

『供物……ああ、腹が減ったって言ったやつか』


 ようやく飯にありつける。

 そう思った瞬間、少しだけ気分が浮上した。

 どんなものが出てくるかは知らないが、空腹は限界だった。


「うむ。案内せよ」


 これも魔王らしく変換された。

 もう慣れてきた自分が怖い。

 玉座から立ち上がると、視界の高さに改めて驚く。

 四天王たちですら、俺より頭一つ分は低い。

 この巨体、少し動くだけで妙な威圧感が出てしまう。

 リリアナに案内され、広間を抜けて隣の部屋へと向かう。

 そこは祭壇の間というだけあって、中央に巨大な石の祭壇が鎮座していた。

 そして、その上には。


『……え?』


 俺は自分の目を疑った。

 祭壇の上に横たえられていたのは、料理でもなければ、家畜でもない。

 長い耳、美しい金髪。

 気品のある顔立ちをした、どう見てもエルフ族の女性だった。

 しかも、手足を縄で縛られている。


『いやいやいやいや! なんで人間!? 俺が頼んだの飯だぞ!?』


 これが供物だというのか。

 まさか、これを食えとでも言うつもりか。

 人食趣味はないぞ。

 俺が絶句していると、リリアナが得意げに胸を張った。


「ご覧ください、魔王様。この地で最も気高いと言われるエルフの巫女でございます。魔王様の復活を祝う最初の贄として、これ以上のものはありますまい」

『ないよ! あるわけないだろ! むしろ最悪だよ!』


 このままでは、俺はただの猟奇的な怪物だ。

 そんなの絶対に嫌だ。

 なんとかしてこのエルフの女性を助けなければ。

 俺は祭壇に近づき、震える手でエルフの女性を縛る縄に触れた。


「こ、これは……その、いかん。こんなことをしては……」


 俺の良心が叫んだ。

 人として、こんな非道な行いは許されない。

 その言葉は、魔王の口を通して、絶対的な神託となって響き渡った。


「――我が復活の儀に、穢れた血は不要。このような不浄な供物を捧げるとは、愚の骨頂よ」

『え、ちょっと待って。穢れたとか不浄とか言ってない! むしろ逆! 尊い命だからダメだって言ってるんだ!』


 しかし、四天王たちは俺の言葉をまたしても超絶ポジティブに解釈していた。


「はっ! 申し訳ございません! 魔王様は、復活の儀式に相応しい、より純粋で強力な魂を求めておられるのだ! 我々の配慮が足りませんでした!」


 リリアナが慌ててひざまずく。


「なんと浅はかなことを……! 魔王様のお考えを、我々は全く理解できていなかった……!」


 ベルドリスまでが悔恨の声を上げる。


『話が通じない……!』


 このまだと、次はもっとすごい供物が用意されてしまうかもしれない。

 ドラゴンとか。

 それはそれで見てみたい気もするが、今はそれどころじゃない。

 俺は一刻も早くこのエルフを解放しようと、縄を掴んで引きちぎった。

 バグなのか魔王のステータスなのか、分厚い縄は紙のように簡単に破れた。

 そして、怯える彼女に向かって、できるだけ優しく声をかけた。


「だ、大丈夫か? もう行ってもいいぞ」


 魔王アルノス・ヴォルティスの口から紡がれた言葉は、こうだった。


「――消えよ、矮小なる者。我が慈悲があるうちに、我が視界から失せるがいい。二度と我の前に立つな」


 エルフの巫女は、一瞬きょとんとした後、その目に涙を浮かべ、何度も頭を下げながら脱兎のごとく逃げていった。

 それを見送る四天王たちは、またもや感動に打ち震えていた。


「おお……! あれほど気高いエルフの魂ですら、魔王様の儀式には値しないと……! なんという気高さ! 弱き者には無用な殺生をなさらない……! これぞ真の覇王の器!」

『だから違うんだって! ただ助けただけだってば!』


 俺の心の叫びは、忠誠心に燃える彼らには届かない。

 結局、俺は飯にありつくこともできず、ただ誤解を深めただけだった。

 空腹を抱えたまま玉座に戻り、ぐったりと背もたれに身体を預ける。


『もうだめだ……お腹すいた……お母さんの作った生姜焼きが食べたい……』


 そんな俺の情けない独り言すら、部下たちの耳にはこう聞こえていたらしい。


「――我が覇道は、まだ始まったばかり。この世界、全てを我が手にするその日まで、我に休息はない」


 その言葉を聞いた四天王たちが、決意を新たにしたのは言うまでもない。

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