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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第8話 帝国の美容と、独占欲の猛火

「……やはり、夢ではないのですね」


 翌朝。

 目覚めた私が目にしたのは、天井に描かれた緻密な天使のフレスコ画と、窓から差し込む黄金色の朝日だった。

 昨日、凱旋の馬車の中で陛下に抱きしめられた熱が、まだ肌に残っているような気がする。


 けれど、感傷に浸る時間は与えられなかった。


「エルゼ様! 朝の御挨拶に伺いましたわ! さあ、今日は『お披露目』の前日。貴女様を世界で一番、残酷なまでに美しく磨き上げる日です!」


 バァン! と豪快に扉を開けて入ってきたのは、女騎士団長のシモーヌ様だった。

 彼女の後ろには、銀のトレイを掲げた十数人の侍女たちが、軍隊のような一糸乱れぬ動きで控えている。


「シモーヌ様……お早うございます。あの、昨日仰っていた『宝石を食べる』というのは……?」


「ふふ、これのことですわ」


 シモーヌ様が指し示したのは、トレイの上に乗った小さなクリスタルグラス。

 中には、鮮やかなエメラルド色をした、とろりとした液体が満たされていた。


「これは帝国領の最深部、魔力の源泉でしか採れない『星の雫』です。これを召し上がることで、内側から魔力の循環を整え、肌に真珠のような光沢を、髪に星屑の煌めきを与えます」


 おずおずと差し出されたグラスを手に取る。

 一口含んだ瞬間、驚きで目を見開いた。


(……美味しい。それも、頭の芯が震えるほどに)


 アステリアでは、どんな高級料理も泥の味がした。

 けれどこの液体は、目が覚めるような爽やかな森の香りと、熟した果実のような濃密な甘みがした。

 喉を通るたびに、体中の血が温かくなり、指先まで力が満ちていくのがわかる。


「あら……エルゼ様、見てください。爪が、桜色に……」


 シモーヌ様が私の手を取り、うっとりとため息をついた。

 白く、不健康に透けていた爪が、内側から淡いピンク色の光を宿している。

 

 それからは、怒涛の時間だった。

 温かい薔薇の香油を注いだ風呂に入れられ、五人がかりで髪を梳かされ、帝国最高の「美の魔術師」と呼ばれる調香師や服飾師たちが、入れ替わり立ち替わり私の身体を計っていく。


「素晴らしい……! この肌の吸い付くような白さ。黒い涙の跡さえも、今や神秘的な飾りだ!」

「これほどドレスの『影』を美しく着こなす女性は、歴史上お目にかかったことがない!」


 褒め言葉のシャワーを浴びせられ、私は頬を赤らめるしかなかった。

 汚いと言われ、石を投げられていた私が、ここでは「至宝」として扱われている。


 だが、その熱狂に水を差す――いえ、火を焚べる者が現れた。


「……何をしている」


 低く、地を這うような声。

 部屋の入り口に、不機嫌を絵に描いたような顔のヴィルフリート陛下が立っていた。

 その視線は、私の首元に香水を吹き付けようとしていた、若き調香師の青年に突き刺さっている。


「ひ……陛下っ! これは失礼いたしました、最後の仕上げを……」


「下がれ」


 陛下の「死の魔力」が、ピリピリと空気を震わせる。

 調香師だけでなく、侍女たちやシモーヌ様までもが、瞬時に「これは不味い」と察して後退りした。


「え、陛下……? まだ髪の結い上げが……」


「私がやる。全員、出て行け」


 有無を言わさない皇帝の命令に、一瞬で部屋は静まり返った。

 扉が閉まると、陛下は無言で私の背後に立ち、鏡越しに私を見つめた。

 

 彼は大きな手で、私のまだ少し湿った髪を一房掬い上げ、そこに深く鼻先を埋める。


「……甘いな。君の匂いが、毒のような香油に書き換えられている」


「陛下、それは帝国最高級の香水だと……」


「気に入らん。君は、私だけの匂いで満たされていればいい」


 彼は私の肩に頭を預け、鏡の中に映る私に、蕩けるような――けれど独占欲に濁った視線を送った。

 

 磨かれ、発光するような美しさを得た私を、彼は誰にも渡したくないと言わんばかりに抱きしめる。

 その手の力が強すぎて、少しだけ苦しい。


「エルゼ。明日の夜会、中止にするか」


「えっ……? どうしてですか?」


「……他の男に見せたくない。君のこの輝きを、有象無象の貴族どもに晒すかと思うと、今すぐにでもあの宴会場を焼き払いたくなる」


 本気だった。

 彼の瞳は、冗談ではなく本気で「独占」と「破壊」を天秤にかけていた。

 私は慌てて、彼の頬に自分の手を重ねた。


「陛下……。私は、陛下の隣を歩くために、こんなに綺麗にしてもらったのです。……見てくださるのが陛下だけでいいなら、私は、ずっとお部屋にいてもいいのですが」


 少しだけいたずらっぽく微笑んで見せると、陛下は一瞬絶句し、それから私の手のひらに、噛みつくように激しい口づけを落とした。


「……ズルい女だ。そんな顔をされたら、断れんではないか」


 彼は私の身体を反転させ、そのままソファに押し倒す。

 

「いいか、エルゼ。明日の夜会、私の腕の中から一歩も離れるな。誰の視線も受けるな。……君が誰のものであるか、この国中に、骨の髄まで刻み込んでやる」


 耳元で囁かれる熱い誓い。

 磨き上げられた「聖女」としてではなく、ただ一人の「女」として愛される快感に、私は抗う術を持たなかった。


 その頃。

 宮殿の影で、一通の密書が動いていた。

 

『泥を流す女が、皇帝をたぶらかしている。帝国に闇を招く前に、排除せねばならない』


 帝国の聖教会上層部。

 光を尊ぶ彼らにとって、エルゼの存在は、看過できない「汚れ」だった。

 

 明日の夜会。

 それは、祝福の場であると同時に、エルゼを貶めようとする者たちの罠が口を開ける場所でもあった。

陛下、嫉妬のあまり夜会を中止しようとするなんて……!

エルゼ様を磨き上げれば上げるほど、陛下の独占欲が限界突破していく様子に、シモーヌ様も(壁になりたい……)と震えていたことでしょう。


「宝石を食べる」美容法で、エルゼ様の美しさはもはや人間離れしたものへと進化しました。

しかし、その輝きが強ければ強いほど、深い影も生まれます。

帝国の聖教会上層部――光を盲信する彼らが、エルゼ様を放っておくはずがありません。


次話、ついに「お披露目夜会」本番。

最高に美しいドレスを纏ったエルゼ様が、並み居る貴族たちを圧倒します。

しかし、その宴の最中、エルゼ様の「黒い涙」を公衆の面前で弾劾しようとする、最悪の仕掛けが……!


「陛下、もっと守って!」「聖教会の鼻を明かしてやって!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価をお願いいたします。

皆様の応援が、エルゼ様の流す涙を「勝利の宝石」へと変える力になります!

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