表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/45

第7話 帝都凱旋、熱狂の黒

馬車の窓から差し込む光が、これまでの人生で見てきたどの光よりも鮮やかで、眩しかった。


 帝都エイゼン。

 漆黒の石材を基調としながらも、随所に金銀の細工が施された街並みは、威厳と繁栄を同時に物語っている。

 驚いたのは、その活気だった。


「……すごい。人が、こんなに……」


 沿道は、溢れんばかりの群衆で埋め尽くされていた。

 アステリア王国では、私が外を歩けば人々は不吉を避けるように窓を閉め、石を投げられないだけ幸運という扱いだった。

 だから、私は無意識に身をすくめてしまう。陛下の腕にしがみつき、視線を落とした。


「エルゼ。下を向くな。前を見ろ」


 耳元で、ヴィルフリート陛下の低く心地よい声が響く。

 彼は私の震える肩を抱き寄せ、優しく、けれど拒絶を許さない力強さで私の顔を上げさせた。


「君を歓迎しているのだ。……この国で、私に真っ当な凱旋を望む者はいない。だが、君を連れ帰った今日だけは、連中も理性を失っているらしい」


 陛下が窓を開けると、津波のような歓声が車内に流れ込んできた。

 

「陛下! ヴィルフリート陛下万歳!」

「聖女様だ! 本当に、黒い涙を流す女神様を連れてこられたぞ!」

「見てくれ、陛下が笑っておられる……! 死神の呪いが解けたんだ!」


 罵声ではない。

 それは、心からの祝福と熱狂だった。

 

 陛下は窓の外へ手を振ることさえせず、ただ傲慢な態度で座っているだけ。けれど、その腕に私を抱いているという事実だけで、民衆は狂喜乱舞している。

 

 やがて馬車が宮殿の正門前で止まった。

 陛下にエスコートされ、一歩外へ踏み出す。

 

 その瞬間、一人の少女が、警備の騎士の隙間を縫うようにして駆け寄ってきた。

 シモーヌ様が即座に反応したが、陛下が「待て」と片手で制止する。


「お、お姉様……!」


 少女は、泥に汚れたような茶色の服を着ていた。手に持っているのは、野原で摘んできたばかりの、小さな、けれど瑞々しい青い花。

 私は、思わず後退りした。

 

(だめ。私に近づいたら、その花が枯れてしまう……)


 黒い涙の跡が残る私の顔。

 汚れの象徴であるはずの私の姿を見て、少女は怯えるどころか、キラキラと瞳を輝かせた。


「お姉様、とっても綺麗……! お顔の模様、お星様が溶けたみたいで、すごく素敵だよ!」


「え……?」


 少女は私の手を取り、その小さな手のひらに青い花を乗せた。

 私が触れた瞬間。

 アステリアでの常識なら、花は黒ずみ、腐り落ちるはずだった。

 

 ――けれど、違った。

 

 花は、私の指先から伝わる微かな魔力を吸い取り、みるみるうちに輝きを増していった。

 花弁の端から銀色の光が走り、普通の野花が、まるで宝石を削り出したかのような幻想的な光を放ち始めたのだ。


「わあ……! 魔法だ! 魔法のお花だ!」


 少女が声を弾ませて飛び跳ねる。

 周囲の民衆からも、地鳴りのような歓声が上がった。

 

「聞いたか! 触れたものを宝石に変える聖女様だ!」

「不吉どころか、富と命をもたらす御方じゃないか!」


 私は、自分の手の中の輝く花を、信じられない思いで見つめていた。

 汚れではない。呪いでもない。

 私の持っていたものは、こんなにも誰かを笑顔にする「贈り物」だった。


 熱いものが込み上げ、視界が黒く滲む。

 一筋の漆黒の涙が、私の頬を伝った。

 

 それを、陛下の手袋をしていない指先が、直接拭い去った。


「言っただろう。君のそれは、世界で最も純粋な光なのだと」


 陛下は少女の頭を一度だけ無造作に撫でると、私を再び抱き上げ、宮殿の階段を登り始めた。

 背中で、民衆の歓喜がいつまでも鳴り止まない。


 豪華な宮殿の内装。

 ひれ伏す何百人もの侍従やメイドたち。

 彼らもまた、陛下に抱かれた私を、畏怖と期待の入り混じった眼差しで見つめている。


「……陛下、降ろしてください。皆様が見ています……」


「見せびらかしているのだ。私の選んだ妃が、いかにこの国に相応しいかをな」


 陛下は止まらない。

 そのまま、私を誰も立ち入れないはずの「皇帝の居室」へと運び込み、大きなソファに乱暴に、けれど慈しむように横たえた。


 彼は上着を脱ぎ捨て、私の首元に深く顔を埋める。


「エルゼ。君は今日、この国の希望になった」


 囁きと共に、彼の熱い唇が私の鎖骨に触れる。


「だが、勘違いするな。民に希望を与えるのは君の力だが、君のその涙も、声も、体温も……それを受ける権利があるのは、世界中で私だけだ」


 熱を帯びた独占欲が、言葉となって私の肌を灼く。

 外の熱狂とは対照的な、静かで、重すぎる愛。


「……はい、陛下。私のすべては、貴方だけのものです」


 そう答えると、陛下の赤い瞳に、さらに深い欲望の影が差した。


「ああ、そうだ……。さて、エルゼ。明日の夜会に向けて、君をさらに完璧に磨き上げねばならない。……シモーヌたちが、君のために『宝石を食べる』ような贅沢な美容プランを立てている。覚悟しておけ」


「ほ、宝石を食べる……!?」


 帝国の常識外れな溺愛生活は、まだ始まったばかりだった。

帝都の民衆からの熱烈な歓迎!

「お星様が溶けたみたい」という少女の言葉に、エルゼ様と一緒に涙腺が緩んでしまいましたね。

自分の「欠点」だと思っていたものが、場所を変えるだけで「最大の魅力」に変わる。

これこそが、この物語で描きたかったカタルシスの一つです。


しかし、陛下。

喜びのあまり、民衆の前でエルゼ様を抱き上げて自慢するのは、少々やりすぎではありませんか?

(もっとやってください)


次話、後宮の侍女たちによる「聖女磨き」がスタートします。

「宝石を食べる」なんて、一体どんな贅沢なのでしょうか。

そして、あまりに美しくなっていくエルゼ様を見て、陛下の嫉妬の炎がとんでもない方向に燃え上がります。


「エルゼ様が幸せそうで嬉しい!」「陛下の独占欲、もっと見せて!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価での応援をお願いいたします!

皆様の応援が、陛下のデレ度をさらに加速させます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ