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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第4話 黒檀のドレスと、枯れゆく箱庭

「……信じられない。これが、私……?」


 三面鏡の前に立つ私は、自分の姿に言葉を失っていた。

 つい数日前まで、泥にまみれ、ボロ布のような服で追放された娘がそこにいるとは、誰が思うだろうか。


 纏っているのは、帝国の最高級シルクを用いた、真夜中の色のドレス。

 普通なら「黒」は喪に服す色だが、このドレスは違う。

 私の流す「黒涙」と同じ輝きを持つ黒真珠が惜しげもなく刺繍され、動くたびに深淵のような煌めきを放っている。

 

「ああ、なんと……なんと美しい……! これぞ帝国が誇るべき、真の聖女様の御姿ですわ!」


 背後で悶絶するように叫んでいるのは、騎士団長シモーヌ様だ。

 彼女は今、剣を捨て、私の髪に「黒檀の髪飾り」を挿すことに心血を注いでいる。その手付きは、まるで国宝を扱う鑑定士のように慎重だ。


「エルゼ様、見てください。貴女様の黒い瞳、そしてこの黒い涙の跡……。それらは決して汚れなどではない。光をすべて飲み込み、慈しむ、夜の女神の証なのです」


 鏡の中の私は、確かに変わっていた。

 相変わらず目元にはうっすらと黒い影が差しているけれど、それは「クマ」や「汚れ」ではなく、高貴な化粧アイシャドウのように彼女の瞳を際立たせている。


(……汚くない。私は、ここにいてもいいの……?)


 その時、部屋の扉が音もなく開いた。

 現れたのは、漆黒の正装に身を包んだヴィルフリート陛下だった。

 彼は部屋に入った瞬間、足を止める。その赤い瞳が私を捉えたまま、微動だにしない。


「……陛下。その、あまりに贅沢すぎて、私には……」


 おずおずと首を傾げた私に、陛下は音もなく歩み寄った。

 シモーヌ様たちがサッと道を開ける中、彼は私の前に立ち、その大きな手で私の頬を包み込んだ。


「贅沢だと? 逆だ、エルゼ。これほどの布を尽くしても、君の持つ神秘の百分の一も表現できていない」


 陛下の声は熱を帯び、どこか飢えた獣のような響きがあった。

 彼は私の髪飾りに触れ、そのまま耳元で低く囁く。


「あの愚かな王子は、君を『無色の出来損ない』と呼んだそうだが……。奴は知らなかったのだ。色が混ざり合えば、最後には最も美しく、最も深い『黒』に辿り着くということを。君は、すべての色彩を内包する至高の存在だ」


「……すべての、色を……」


 その言葉が、私の乾いた心に染み渡る。

 アステリアでは、光だけが正義だった。

 けれど、この帝国――そして陛下は、影さえも愛として受け入れてくれる。


 陛下は私の腰を引き寄せ、鏡に映る二人の姿を満足げに見つめた。

 死を纏う皇帝と、泥を流す聖女。

 そこには、世界から爪弾きにされた者同士だけが共有する、残酷なまでに美しい完成された調和があった。


「さて。君を磨き上げる準備は整った。……そろそろ、アステリアの連中にも見せてやらねばなるまい」


 陛下の口元に、冷酷な微笑が浮かぶ。


「君という太陽を失ったあの国が、今、どれほど無惨な暗闇に沈んでいるかをな」


     ◇


 同じ頃。

 アステリア王国の王宮では、悲鳴にも似た怒号が飛び交っていた。


「……なぜだ! なぜ聖女セラフィナの祈りが通じないのだ!」


 第一王子ジュリアンは、目の前の凄惨な光景に顔を歪めていた。

 王宮の庭園に咲き誇っていたはずの「奇跡の百合」が、一夜にしてすべて枯れ落ち、腐敗した異臭を放っている。


「王、王子……っ。わ、私、一生懸命お祈りしているのに……涙が、涙が出ないんですの……!」


 セラフィナが震えながら、空っぽの瞳をこすっている。

 彼女の瞳からは、かつてのような「透明な雫」は一滴も流れてこない。

 それどころか、彼女の透き通るような白肌には、じわじわと不気味な「シミ」のような影が浮き出始めていた。


「馬鹿な……。聖女がいれば、この国は安泰なはずだ。あの『泥女』を追い出したことで、浄化が進んだはずではなかったのか!」


 ジュリアンは気づいていなかった。

 エルゼという「フィルター」が、国のすべての穢れをその黒い涙として吸い取っていたことを。

 彼女がいなくなった今、国中の毒が、行き場を失って溢れ出しているのだ。


 井戸水は濁り、大地はひび割れ、人々は原因不明の倦怠感に倒れ始めている。


「報告します! 国境付近に、帝国の軍旗を確認! ……ヴィルフリート皇帝自らが、親書を携えてこちらに向かっているとのことです!」


「……何だと!? あの死神が、何の用だ!」


 報告に訪れた兵士の震える声に、ジュリアンの顔が土気色に変わる。

 帝国の皇帝が動くということは、宣戦布告か、あるいは――。


 彼はまだ知らない。

 皇帝の隣に座っているのが、自分たちがゴミのように捨てた、あの「泥の女」であることを。

 そして、彼女こそが自分たちの命を繋いでいた、唯一の神子であったことを。


「……エルゼを。エルゼ・フォン・ヴァイスを探せ。奴に祈らせれば、何とかなるはずだ!」


 ジュリアンの叫びは、虚しく枯れた庭園に響くだけだった。

自分を捨てた国が枯れ果てていく一方で、エルゼ様は皇帝陛下の手によって「黒い宝石」へと生まれ変わりました。

ドレスに刺繍された黒真珠よりも、陛下に見つめられた時のエルゼ様の瞳の方がずっと輝いていますね。


そして、ついにジュリアン王子たちが「自分たちの過ち」の入り口に立ちました。

「エルゼを探せ」……?

今さら何を仰るのでしょうか。彼女はもう、貴方たちが一生かかっても指先すら触れられない、雲の上の存在だというのに。


次話、ついにアステリア王国と帝国の対面。

豪華絢爛な馬車から降り立つエルゼを見たジュリアンの反応は……?

そして陛下による、最高に冷酷で甘い「宣戦布告」が始まります。


「もっとざまぁが見たい!」「エルゼ様、もっと輝いて!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると嬉しいです!

皆様の熱量が、エルゼの逆転をさらに加速させます!

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