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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第3話 鉄の騎士は、聖女に跪く

「……やはり、正気とは思えません、陛下」


 帝国の誇る黒檀宮、その奥に位置する皇帝の寝宮。

 天蓋付きの巨大なベッドに、場違いなほど小さな私を降ろした陛下を、女騎士シモーヌ様が鋭い眼差しで射抜いた。

 彼女の背後に控える騎士たちからも、隠しきれない困惑と、そして私への――「不浄なもの」を見るような警戒心が伝わってくる。


「アステリアの『泥の聖女』を妃に迎えるなど、神殿が黙ってはおりません。その娘の瞳を見てください。今もなお、禍々しい黒を湛えているではありませんか」


 シモーヌ様の言葉は、刃のように私の胸を刺した。

 ああ、やはりそうなのだ。

 たとえ陛下が救いだと言ってくださっても、この国の、世界の常識では、私は「不吉」そのもの。

 私は震える指先で、胸元のひび割れたペンダントを握りしめた。なぜか今、その石が私の不安に呼応するように、微かな熱を帯びている気がした。


「……陛下、やはり私は、地下牢へ……」

「黙れ、シモーヌ。そしてエルゼ、君もだ」


 ヴィルフリート陛下が、氷のような冷徹な声で遮った。

 彼は私の隣に腰を下ろすと、躊躇いもなくその逞しい腕を私の腰に回し、深く引き寄せた。


「シモーヌ、お前は私の『死の呪い』が、今日に限ってどれほど静かか気づかないのか?」

「……え?」


 シモーヌ様が息を呑む。

 陛下の周囲には、常に触れるものを枯死させる「死の魔力」が霧のように漂っている。

 だが今、彼の肌に直接触れている私の周囲だけは、その霧が吸い込まれるように消え失せ、清浄な空気さえ漂っていた。


「私の呪いは、常に私の精神を削り、世界を壊せと囁き続ける。だが、この娘が傍にいるだけで、その声が止む」


 陛下は私の頬に、熱い指先を這わせた。

 そして、私の目元に残っていた黒い涙の跡を、愛おしげに親指でなぞる。


「これが『泥』に見えるか? 私には、枯れた大地に降る恵みの雨にしか見えん。……シモーヌ、お前も触れてみろ」

「なっ、滅相もございません! 陛下以外の者が触れれば、呪いに巻き込まれ……」

「いいから触れろ。これは皇帝命令だ」


 シモーヌ様が、覚悟を決めたように歩み寄ってくる。

 彼女は私の汚れた――いえ、黒い魔力を宿した手に、恐る恐る触れた。


「…………っ!?」


 触れた瞬間、彼女の瞳が驚愕に見開かれた。

 彼女の指先に、私の黒い魔力が伝播する。

 だが、それは彼女を害するどころか、長年の鍛錬で酷使されていた彼女の手に、柔らかな癒やしを与えていた。


「なん……ですか、これは。温かくて……まるで、母の腕の中にいるような……」

「泥ではない。これは、濃縮された純粋すぎる『生命』そのものだ。強すぎて色が反転しているだけなのだよ」


 陛下が勝ち誇ったように笑う。

 シモーヌ様は、私の手を握ったまま、呆然と私を見つめた。

 彼女の瞳に宿っていた警戒心は霧散し、代わりに、言葉にならないほどの感動と……そして、深い「悔恨」が浮かんでいた。


「……申し訳ございませんでした。私は、この至宝を、あろうことか『不浄』と呼び捨ててしまった……!」


 ドサリ、と重い音が響いた。

 帝国最強の騎士団長が、ベッドの傍らで床に膝をつき、深々と頭を下げたのだ。


「エルゼ様。無知ゆえの無礼、万死に値します。貴女様こそ、我が主を救う真の光。どうか、このシモーヌに、貴女様の盾となる栄誉をお許しください!」

「え……ええっ!?」


 あまりの豹変ぶりに、私の頭は追いつかない。

 シモーヌ様だけではない。後ろで控えていた騎士たちまでもが、次々とその場に跪き始めた。


「……ふん、現金なものだな。だが許さん。エルゼを一番近くで守るのは私だ」


 陛下が不機嫌そうに、私の肩に頭を埋めてきた。

 大きな身体が、甘えるように私に体重を預けてくる。その熱さが、気恥ずかしくて、けれどたまらなく心地よくて。


「陛下、重いです……」

「嫌か?」

「……いえ。少しだけ、温かいです」


 私が小さく答えると、陛下の腕にぐっと力がこもった。

 捨てられ、泥の中に沈んでいた私が、今は世界で最も恐ろしい男に、そして帝国で最も誇り高い騎士たちに守られている。


 けれど、この時、私はまだ知らなかった。

 私を捨てたアステリア王国で、すでに「異変」が始まっていることを。

 そして、私の「黒い涙」を一滴求めて、彼らがやがて泥を這うことになることも――。


「さあ、エルゼ。今夜はゆっくり休め。明日は、君を侮った世界への、最初の挨拶(報復)の準備を始めよう」


 陛下の深紅の瞳が、暗闇の中で妖しく輝いた。

「不浄」だと言われた黒い涙が、実は「強すぎる生命の輝き」だった。

シモーヌ様という心強い味方(というか限界信者)を得て、エルゼの帝国生活が本格的に幕を開けます。


それにしても、陛下。

いくらなんでもエルゼ様に抱きつきすぎではありませんか?

騎士団の前でも構わず独占欲を全開にする陛下に、シモーヌ様の「エルゼ様尊い」という心の叫びが聞こえてきそうです。


次話、ついにアステリア王国側の視点へ。

エルゼを捨てたジュリアン王子が直面する、絶望的な「枯渇」の真実とは。

そして陛下が用意した、エルゼのための最高に華やかな「逆転劇」の舞台が整います。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!

続きが気になる、陛下もっとデレて!と思っていただけましたら、ブックマークや星の評価で応援いただけると、執筆の魔力が溢れ出します。

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