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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第39話 お前を連れ去る神などいない

「……私が、ヴィルフリート様を……殺す?」


 潮風に混じる銀の魔力が、私の肌を刺す。

 使者が放ったその言葉は、アステリアで投げられたどんな石よりも、教皇庁で受けたどんな呪いよりも、残酷に私の心臓を射抜いた。

 私の指に嵌まる漆黒の指輪。陛下の愛の証であるはずのそれが、今は彼を蝕む猛毒の入り口に見えてしまう。


「そうだ、エルゼ様。貴女が抱かれているその男は、死を糧とする空虚な器。星の輝きを宿した貴女が隣にいれば、その純粋な光は男の腐った魔力を内側から焼き尽くす。……彼を愛しているなら、今すぐその手を離すべきだ」


 銀髪の使者が、慈悲深い聖者のような顔で手を差し伸べる。

 私は、思わず繋がれた陛下の左手を見つめた。

 私が、彼を……。


 ――バキィィィィィンッ!


 静寂を切り裂いたのは、大気が砕けるような音だった。

 ヴィルフリート様が、私の肩を抱いたまま、使者が差し出していた「交渉の親書」を素手で握り潰したのだ。

 黒い炎が走り、銀の紙片が瞬時に灰となって海へ散る。


「……面白い。私が死ぬだと?」


 陛下が低く笑った。

 それは、運命という名の神を嘲笑う、傲慢極まる魔王の笑み。


「エルゼ。……お前が私の『死』を焼き尽くすというなら、焼かせておけ。お前の魔力が私を殺そうとするなら、私は喜んでその熱に焼かれて死んでやる。……だが、たとえ死骸になろうとも、私はお前を離さん。地獄の底まで、お前を抱いたまま引きずり込んでやる」


「ヴィルフリート様……!」


「いいか、エルゼ。……私を殺せるのはお前だけだ。……そして、お前に私を殺す権利があるように、私にはお前を誰にも渡さない権利がある。……他人の分を弁えない予言に、いちいち耳を貸すな」


 陛下が私の額に、痛いほどの口づけを落とした。

 迷いが、熱に溶けて消えていく。

 そうだ。この人は、私のために世界を更地にした男。私が彼のために消えることなど、この人が許すはずがない。


「……聞こえたかしら、使者様」


 私は、陛下の腕の中から一歩前へ出た。

 右手の結晶化した指先が、月光を浴びて妖しく輝く。

 

「私は、陛下のものです。……たとえ私の力が陛下を傷つけるというなら、私はその力を、陛下を守るための盾に書き換えてみせます。……貴方たちの席は、この帝国のどこにもありませんわ」


「……御意に。ならば、強引にでも思い出していただきましょう。『トリニティ』の血が、どれほど抗いがたいものかを!」


 使者が手を振り上げると、背後の巨船から「捕獲の光」が放たれた。

 それは網のように広がり、私だけを包み込もうと迫る。


(……来ないで!!)


 私は強く念じ、結晶化した右手を振り払った。

 指輪から伝わる陛下の「死」の魔力が、私の「銀」と混ざり合い、真っ黒な衝撃波となって放たれる。

 

 光の網は、私の闇に触れた瞬間に反転した。

 黒い波は港を駆け抜け、使者の船の純白の帆を、一瞬にして夜の色――漆黒の薔薇の紋様へと塗り替えていく。


「な……ッ!? 神聖なる光を、こうも容易く『夜』に染めるのか……!?」


「帰りなさい。……お父様……クロムウェル公王に伝えなさい。……次に私の前に現れるなら、その三つ目の獅子の首を、私がこの手で撥ねて差し上げると」


 使者は恐怖に顔を歪め、後退った。

 陛下の殺気が、すでに彼の喉元を物理的に締め上げている。


「……く。……覚えておくがいい。公王閣下自らがお迎えに来る時、この帝国がどのような『静止』に包まれるかを……!」


 使者たちは逃げるように船へと戻り、黒く染まった帆を翻して、海の深淵へと消えていった。


 静寂が戻った港。

 私は安堵して陛下の胸に寄り添おうとしたが――。


「……っ」


 陛下の体が、一瞬だけ激しく揺れた。

 彼の手首から、服の袖を突き抜けて「ピキリ」と乾いた音が響く。


「ヴィルフリート様!? お顔が……」


 月の下、陛下の頬に、見たこともないほど細く、銀色に輝く「ひび割れ」が走っていた。

 使者の予言が、現実のものになろうとしているかのように。


「……案ずるな。……ただの、惚れすぎた副作用だ……」


 陛下は強引に笑い、私の目を塞ぐように抱きしめた。

 けれど、彼を抱きしめる私の腕には、消えない冷たさが伝わってきていた。

第39話をお読みいただき、ありがとうございます!

「俺を殺せるのはお前だけだ」という、陛下にしか許されない究極の口説き文句。

運命よりも、愛する人の執着を選ぶ二人の姿に、胸を熱くしていただければ幸いです。


しかし、使者の残した不吉な言葉が、陛下の頬に「銀のひび割れ」として現れ始めました。

エルゼ様の力が、本当に陛下を壊し始めているのか。

そして、ついに実の父・クロムウェル公王が動き出します。


次回、第40話「リュミエールの告白と血の宿命」。

母リュミエールが、ついに重い口を開きます。

なぜ彼女は父から逃げたのか、そして「星の心臓」を宿す娘に何を託したのか。

二人の愛を試す、最後の「家族の秘密」が明かされます。


「陛下、どこまで格好良いの……!」「ひび割れ、治って!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや星の評価、応援の感想をいただけると、執筆の魔力が滾りますわ。

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