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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第35話 氷の玉座での結婚誓約

「……嘘。嘘ですわ、ヴィルフリート様。目を開けて……私を、見てください!」


 私の腕の中で、陛下の体が驚くほど軽くなっていた。

 触れるものすべてを枯らし、傲岸不遜に世界を蹂躙してきたその熱が、嘘のように引いていく。

 漆黒の指輪は光を失い、彼の右手に刻まれていた「死」の魔紋が、灰のように崩れて消えようとしていた。


 神の理を壊し、私を人間に繋ぎ止めるために、彼は自分の根源をすべて燃やし尽くしてしまった。


「嫌……嫌です! 貴方がいない世界なんて、何の意味もない! 私を独りにしないで!」


 私の瞳から溢れた銀の涙が、彼の青白い頬に落ちる。

 その雫が触れた瞬間、陛下の肌が銀色に結晶化しようとした。

 彼の「死」の魔力という防壁が消えた今、私の「銀」は彼を救うどころか、そのまま静止へと追いやってしまう。


(……待って。私の力は、止めるためだけにあるんじゃない)


 私は、自身の胸元のペンダントと、彼の指に嵌まった漆黒の指輪を同時に握りしめた。

 母リュミエールが語った真実。私の「泥」は毒を濾過し、命を繋ぐためのものだった。

 なら、今の私の「銀」も、彼の空虚を埋める「命」に書き換えられるはずだ。


「ヴィルフリート様……私の、すべてを差し上げます。だから、帰ってきて……!」


 私は彼の唇を、自身の唇で塞いだ。

 祈りではなく、強欲。神への願いではなく、男への執着。

 私の体温、私の魔力、そして「星の心臓」としての永劫の命――そのすべてを、口づけを通じて彼の中に流し込む。


 ――ドクン。


 静寂の中で、重い、重い地響きのような音がした。

 私の銀色の魔力が、彼の空っぽになった心臓に流れ込み、そこに新たな「夜」の火を灯す。

 漆黒の指輪が、私の熱を受けて再び猛烈な輝きを取り戻した。


「……っ、げほっ……! ……はぁ、はぁ……」


 陛下の睫毛が震え、その紅い瞳が、ゆっくりと私を捉えた。

 

「……騒々しい、女だ……。私は、少し……眠ろうと、しただけ……」


「……バカ! 大バカ者ですわ! 眠るなら、私の腕の中以外は許しません!」


 私は泣きながら、彼の胸を叩いた。

 陛下は力なく笑い、震える手で私の涙を拭った。その指先には、再び「死」の熱が宿っている。


「……フ。……お前に、命まで分け与えられるとはな。……これでは、本当に逃げられん」


「逃がしません。地獄の果てまで、私が貴方を追いかけます。……陛下、ここで、私に誓ってください」


 崩れ落ちた氷の玉座の残骸。

 頭上には、偽りの白銀が消えた後の、本物の星空が広がっている。

 カイルと、意識を取り戻した母リュミエールが、遠くから私たちを見守っていた。


 私は陛下の左手を取り、そこに自分の結晶化した右手を重ねた。


「私は、貴方の妃となります。……貴方が世界を滅ぼすなら私はその火種となり、貴方が絶望するなら私はその夜になります。……だから、貴方も私を、永遠に離さないと……呪いでもいいから、私を縛り付けると誓って」


 陛下は、私の傲慢なプロポーズに、一瞬だけ驚いたように目を見開いた。

 そして次の瞬間、彼は狂おしいほどの情愛を込めて、私の薬指の指輪を強く噛んだ。


「誓うまでもない。……お前の魂は、既に私の死に浸食されている。……エルゼ。お前が私の『生』を繋ぎ止めたというなら、その責任は一生かけてとってもらう。……私の腕の中で、溶けることも枯れることも許さず、永遠に私の所有物として、愛し抜いてやる」


 形式も、司祭も、花嫁衣装もない。

 けれど、血と魔力と執着にまみれた、この世で最も重い「結婚誓約」。


 陛下は私の後頭部を引き寄せ、今度は彼の方から、深淵へと引きずり込むような深い口づけを落とした。

 結晶化した私の指先に、彼の熱が伝わる。

 それは、神の理を超えた、二人だけの新しい世界の始まりだった。


「……さて。……誓いも済んだことだ。……カイル、教皇の残党を捕らえろ。リュミエールを馬車へ。……私たちは、帝国へ帰る」


 陛下が立ち上がり、私を横抱きにした。

 その足取りは、先ほどまでの衰弱が嘘のように力強い。


「ヴィルフリート様、まだお体が……」


「お前の『命』を食らったのだ。これくらいで倒れては、夫の名が廃る。……エルゼ、これからは覚悟しろ。……お前を甘やかすのは、帝都に戻ってからだと思っていたが……もう、一秒も我慢できん」


 陛下の赤い瞳に、かつてないほど濃厚な独占欲が灯る。

 

 氷の城の崩壊。

 それは、泥の聖女が「死神の皇后」へと生まれ変わる、最高の祝福の鐘の音だった。

第35話、ついに二人の「魂の結合」が完了いたしました!

絶体絶命の陛下を、エルゼ様がその執着で引き戻すシーン……これまでの「溺愛されるだけ」の関係が、互いの命を背負い合う「共犯関係」へと進化した瞬間です。

崩壊する瓦礫の中での不敵な誓約、まさに二人らしい、美しくも重苦しい愛の形ですね。


カイルとリュミエール様が遠くで見守っている(気を遣っている)姿も、この殺伐とした戦場における一時の清涼剤となっていれば幸いです。


次回、第36話「新世界の幕開け、黒き薔薇の夜明け」。

第3章、完結回となります。

帝都へ凱旋した二人が、全土に向けて放つ「衝撃の宣言」。

そして、エルゼ様が手にした「真の幸福」の影で、新たな災厄の種が芽吹き始めます。


「陛下、復活してよかった!」「エルゼ様のプロポーズ、最高に格好良い!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると嬉しいです!

皆様の応援が、帝国の夜を照らす星明かりとなりますわ。

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