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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第34話 二人の心臓、響き合う鼓動

「――無価値な世界など、私が終わらせてやると言ったはずだ」


 ヴィルフリート様の咆哮が、白銀の絶滅光を真っ向から切り裂いた。

 私の右手を握りしめる彼の左手から、熱い血が滴り、漆黒の指輪に吸い込まれていく。指輪は歓喜に震えるように脈動し、私の腕を駆け上がる銀の結晶を、どろりとした漆黒の魔力で塗り替えていった。


『……狂ってる。お義兄様も、お姉様も……。個人の執着が、どうして世界の秩序システムに勝てるの……!?』


 瓦礫の上で浮遊するレオンが、絶望的な叫びを上げる。

 彼の背後から放たれる銀の光波は、もはや「攻撃」ではなく「拒絶」そのものだった。自分を理解しない異物を、この世の理から消去しようとする、世界の自衛本能。


「秩序など、知ったことか」


 陛下が私の腰を抱き寄せ、その耳元で、甘く、けれど残酷な死の宣戦布告を囁く。


「エルゼ。……私がお前のいかりだ。お前の『夜』をすべて解き放て。溢れた闇は、私の『死』がすべて喰らい、お前という個を繋ぎ止めてやる」


「……はい、ヴィルフリート様。……貴方が見ていてくれるなら、私は何にでもなれますわ」


 私は、自分の中に眠る「銀の静寂」を、あえて制御することをやめた。

 母リュミエールが命を懸けて濾過し、私の中に蓄積されてきた、世界の純粋な魔力の欠片。

 それが、陛下の漆黒の魔力と混ざり合い、化学反応を起こす。


 ――ドクン。


 心臓が一度、大きく跳ねた。

 私の瞳から溢れ出したのは、もはや泥でも、ただの涙でもない。

 星屑を散りばめたような、深淵の闇を湛えた「真実の夜」の奔流。


「――世界よ、静まりなさい」


 私の叫びと共に、教皇庁全体を覆っていた白銀の光が、音もなく漆黒の帳に飲み込まれていった。

 レオンが放った絶滅の光波は、私の闇に触れた瞬間に「安らぎ」へと書き換えられ、黒い薔薇の花弁となって雪原に降り注ぐ。


『……ああ、あ、ああああ……ッ! 僕の光が、凍てついていく……!?』


「……貴様が『均一な銀』を望むなら、私が『永遠の静寂』を与えてやろう」


 陛下が大剣を天に掲げた。

 私の闇を纏った漆黒の刃が、夜空を割り、巨大な一閃となってレオンを、そしてこの歪な教皇庁のシステムそのものを叩き斬った。


 ――ズガァァァァァンッ!!


 衝撃波が氷の尖塔を粉砕し、数千年の欺瞞が物理的に崩壊していく。

 レオンの体は霧散し、彼の核となっていた銀の結晶が、砕け散って私の足元に転がった。


 静寂。

 吹き荒れていた吹雪は止み、空には見たこともないほど巨大な満月と、輝く星々が現れた。

 北の凍土は、陛下の魔力が残した「死」の黒と、私の力が生んだ「薔薇」の香りに満たされた、静謐な楽園へと塗り替えられたのだ。


「……終わりましたのね」


 私は、崩れ落ちる瓦礫の中で、母リュミエールの体を支えながら、ゆっくりとヴィルフリート様を振り返った。

 勝利。神の理を愛で捻じ伏せた、完全な凱旋。


 けれど、陛下は答えなかった。


「……ヴィルフリート様?」


 彼は大剣を杖に、片膝をついていた。

 あれほど傲岸不遜だった彼の肩が、激しく上下している。

 

「……フ。……やはり、世界を相手にするのは、少々……骨が折れるな……」


 強がりのような微笑。

 だが、私の手を握る彼の指先からは、先ほどまでの熱が急速に失われていた。

 私の結晶化を止めるために、そして世界を斬るために、彼は自身の生命力そのものである「死の魔力」を、一滴残らず使い果たしてしまったのだ。


「……陛下……!? いや、嫌ですわ! ヴィルフリート様!!」


 私は母をカイルに託し、彼に駆け寄った。

 崩れ落ちる彼の体を、今度は私が抱きしめる。


「エルゼ。……泣くな。……お前の泥は、もう、いらないと言っただろう……」


 陛下の赤い瞳が、微かに混濁していく。

 私を繋ぎ止めるための漆黒の指輪が、主の弱体化に反応するように、冷たく鎮まっていく。


「嫌です、死なせない……! 私が、私のすべてを捧げてでも、貴方を繋ぎ止めてみせますわ!」


 私の体から舞い上がる銀の粉が、今度は彼を救うための「光」となって輝き始めた。

 

 神の国を滅ぼした後の、静かなる戦場。

 泥を流していた少女が、今、最愛の王を死の淵から引き戻すために、真の「奇跡」を願う。

第34話をお読みいただき、ありがとうございます!

ついにレオン(世界のシステム)を力技でねじ伏せた陛下とエルゼ様。

「お前が錨だ」という陛下の言葉通り、二人の共依存が世界を書き換えるカタルシスを最高潮に高めました。


しかし、無敵だった陛下がエルゼ様を守り抜いた代償として、初めて見せた「弱さ」。

立場が逆転し、今度はエルゼ様が陛下をこの世に繋ぎ止める番です。

この「一方的な救済」から「双方向の執着」への深化こそが、第3章の真のゴールとなります。


次話、第35話「氷の玉座での結婚誓約」。

崩壊した教皇庁の瓦礫の上で、二人が交わす「生」と「死」の真実の誓い。

そして、母リュミエールが見守る中、二人は本当の夫婦つがいへと至ります。


「陛下、本当にお疲れ様……!」「エルゼ様、今度は陛下を抱きしめてあげて!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや星の評価で、二人への愛を届けてください。

皆様の声が、陛下の体温を呼び戻す奇跡となりますわ。

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