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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第30話 氷の中に眠る『鏡』の少年

視界のすべてが、残酷なまでの「白」に塗りつぶされていた。

 馬車を降りた瞬間に襲ってきたのは、皮膚を裂くような寒風ではない。それは、意志を持つ「沈黙」だった。


 目の前に聳え立つのは、雲をも貫く氷の尖塔。教皇庁の本拠、白銀の宮殿。

 壁の一枚一枚が透明な氷でできており、そこには歴代の聖職者や、教会の逆らった者たちが生きたままの姿で、標本のように閉じ込められていた。


「……趣味が悪いな。神の国というよりは、死体の貯蔵庫だ」


 ヴィルフリート陛下が、私の肩を抱く腕に力を込める。

 彼の漆黒の外套が、白銀の世界で唯一の「汚点」のように際立っていた。その背中に差した大剣からは、周囲の寒気を蒸発させるほどの濃密な殺気が立ち上っている。


「陛下、右手の指輪が……呼んでいます」


 私の右手の指先は、すでに完全な結晶と化していた。けれど、陛下の血が通った漆黒の指輪が、銀の侵食を「痛み」で押し留めている。指輪が城の深部と共鳴し、ドクン、ドクンと激しく脈打っていた。


「分かっている。……案ずるな、エルゼ。この氷細工の城ごと、お前を奪おうとする悪夢を叩き割ってやる」


 陛下が一歩踏み出すと、宮殿の巨大な氷の門が、闖入者を拒むように凄まじい「冷気の波動」を放った。

 触れたそばから空気が凍り、空間そのものが結晶化していく「神の吐息」。

 陛下の「死」の魔力でさえ、物理的な寒気には対抗できても、この概念的な「停止」には一瞬動きを封じられた。


「――お下がりください、ヴィルフリート様」


 私は陛下の前に出た。

 結晶化した右手を、静かにその門へと翳す。


「エルゼ!?」


「大丈夫です。……これは、私の『色』ですから」


 私の内に眠る、銀の静寂。それに、指輪から伝わる陛下の「熱」を混ぜ合わせる。

 銀に黒が混ざり、それは妖しく輝く「深淵の銀」へと変質した。

 私の指先が門に触れた瞬間、空間を凍らせていた波動が、嘘のように私の体内へと吸い込まれていく。


 ――パキィィィン……。


 氷の門が、まるであるじを迎えるように静かに左右へと開かれた。

 背後で、カイルが「……理論を超えてる。彼女自身が、城のシステムの一部になりかけているのか……」と震える声で呟くのが聞こえた。


「……ふん。門までお前を誘惑するか。気に入らんな」


 陛下は不機嫌そうに私の腰を引き寄せると、そのまま玉座の間へと続く回廊を突き進んだ。


 辿り着いた最深部。

 そこには、天井のない、星空だけが透けて見える鏡の広間があった。

 そして、氷を削り出した巨大な玉座に、一人の少年が座っていた。


 私と、全く同じ顔。

 けれど、髪は雪のように白く、瞳は冷徹なまでの銀色。

 彼は退屈そうに頬杖をつき、私たちを見て……いや、私だけを見て、幼い子供のような無垢な笑みを浮かべた。


「……遅かったね、お姉様。ヴィルフリート様という『不純物』を連れてくるのに、そんなに時間がかかったの?」


「貴様が……エルゼの口を借りて喋っていたガキか」


 ヴィルフリート陛下が、迷いなく大剣を抜き放つ。

 黒い稲妻が走り、少年の首を狙うが、少年は指先一つ動かさず、自身の前に現れた「鏡の壁」でそれを防いだ。


「乱暴だなぁ。お姉様、そんなに愛されているんだね。……でも、その愛は『不完全』だ。君の体はもう、人間の体温じゃ溶かせないところまで来ている」


 少年――レオンは、玉座から降り、浮遊するように私へと近づいてきた。


「お母様は、僕たちを二つに分けたんだ。……汚れを吸い込む『黒い心臓』の君と、純粋な光を維持する『白い心臓』の僕。……君がアステリアで泥を流していた間、僕はここで、君が浄化したはずの毒を『思い出』として喰らい続けていたんだよ」


「……私の、半身……?」


「そう。だから、君が完成するには、僕と一つになるしかない。……そうすれば、君はもう『痛み』を感じなくて済む。陛下が指輪に込めた、あんな醜い呪縛からも解放されるんだ」


 レオンの手が、私の頬に伸びる。

 その瞬間、ヴィルフリート様の剣がレオンの腕を切り裂こうとしたが、レオンは一瞬で霧のように消え、再び玉座へと戻った。


「ヴィルフリート。……君はもうすぐ、彼女に触れることさえできなくなる。彼女の肌は氷になり、君の指を切り裂く。……それでも、君は彼女を『女』として愛し続けられるかい?」


「……愚問だな。たとえエルゼが氷の彫像になろうと、私はその像に生涯跪き、私の血でその肌を赤く染め続けてやる。……貴様の入る隙間など、この世界のどこにもない」


 陛下の声は、揺るぎない確信に満ちていた。

 レオンは少しだけ不満げに口を尖らせ、それから、背後の巨大な氷壁を指差した。


「……ふふ。いいよ。じゃあ、まずは『これ』を見てから決めてよ。……お母様が、どうして君を捨てたのか。……その本当の理由を」


 レオンが指を鳴らすと、背後の氷壁が透明に透き通った。

 

 そこにいたのは。

 

 数千本の銀の針で壁に縫い付けられ、祈るようなポーズのまま完全に凍りついた――母、リュミエールの姿だった。

 そして、彼女の胸元には、エルゼのペンダントと対になる、巨大な「脈打つ銀の結晶」が埋め込まれていた。


「……お母、様……?」


 私の絶叫が、静寂の城に木霊した。

第30話、極北の旅はついに最深部へ。

エルゼ様と同じ顔を持つ少年レオン。彼が語る「白い心臓」と「黒い心臓」の真実。

そして、氷の壁に縫い付けられた母リュミエールの衝撃的な姿……。


どれほど絶望的な光景を突きつけられても、ヴィルフリート陛下の「たとえお前が氷になろうと、血で染めて愛し抜く」という言葉の重さが、エルゼ様を繋ぎ止める唯一の錨となっています。


次話、第31話「教皇の眼差し、歪んだ追慕」。

ついに現れる教皇庁の真の主、グレゴリオ。

彼はなぜ母をこのような姿にし、エルゼ様を呼び寄せたのか。

そして、ブチ切れた陛下による、氷の城を物理的に粉砕する「神殺し」の序曲が始まります!


「陛下、もっと言ってやって!」「お母様を助けて!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや星の評価で、エルゼ様の涙を応援してください。

皆様の熱量が、冷たい氷の世界を溶かす唯一の希望ですわ。

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