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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第29話 極北の旅、白銀の洗礼

「下がっていろ、エルゼ。……不純な雪が、お前を汚す前に」


 ヴィルフリート陛下が馬車から一歩踏み出した瞬間、大気が激しく軋んだ。

 漆黒の外套が猛吹雪に煽られ、その背中の大剣が引き抜かれる。

 対峙するのは、教皇庁の聖騎士。白銀の鎧を纏い、感情の欠落した瞳を持つ「神の刃」だ。


「……リュミエールの落とし子よ。その男は、貴女の魂を『死』で繋ぎ止め、昇華を妨げる癌に過ぎない。こちらへ来なさい。我らが、貴女を完全な神へと導こう」


 聖騎士が掲げた長剣から、目も眩むような銀の閃光が放たれた。

 それはかつてアステリアで見た光とは違う。

 温もりを一切拒絶し、触れるものすべての「時間」を奪い、静止させるための魔力。

 

「癌、だと?」


 ヴィルフリート様が喉を鳴らして笑った。

 それは、地獄の底から響くような、愉悦に満ちた破滅の笑み。


「エルゼを構成する細胞の一つまで、私の『死』で満たしてある。……神の部品に戻そうというなら、まずはその神をこの地上に引きずり下ろし、私にひれ伏させることだな」


 ――ズガァァァンッ!


 激突。

 漆黒の斬撃と、白銀の刺突が衝突し、周囲の雪原を円状に吹き飛ばした。

 ヴィルフリート様の振るう大剣は、物理的な破壊を超え、聖騎士が纏う「光」そのものを腐食させ、塵へと変えていく。

 

 けれど、聖騎士は恐ろしいほどに無機質だった。

 腕を斬られ、鎧が砕けても、その傷口からは血の代わりに銀の霧が溢れ出し、即座に肉体を修復していく。


「……無駄だ。我らは世界樹の意思を継ぐ者。主君の涙がある限り、この体は滅びない」


 聖騎士が、私の結晶化した指先を射抜くような視線で見つめた。

 その瞬間、右手の指輪が、叫びを上げるように熱くなった。


「ああ、ッ……!」


 痛い。

 けれど、その痛みのおかげで、私は自分がまだ「エルゼ」であることを思い出せる。

 

 聖騎士の手から、無数の銀の糸が伸び、私を絡め取ろうと迫る。

 ヴィルフリート様が即座に私を庇おうとしたが、聖騎士が放った銀の障壁が、彼の動きをコンマ数秒だけ遅らせた。


(……奪わせない。……私のこの命も、陛下がくれたこの痛みも!)


 私は、結晶化した右手を強く握りしめた。

 

 ――ドクン。

 

 心臓が、かつてないほど重く脈動した。

 漆黒の指輪に込められた「死」と、私の中に満ちる「銀の静寂」。

 相反する二つの力が、指先で渦を巻き、一つの奔流となる。

 

「――消えなさい」


 私が叫ぶと同時に、私の指先から、黒い火花を散らす「銀の薔薇の棘」が爆発的に伸びた。

 迫り来る聖騎士の銀糸をすべて食い破り、そのまま彼の白銀の鎧を貫く。


「な……ッ!? 聖なる力を、おのれの『夜』で染め変えたというのか……!」


 聖騎士の動きが止まった。

 彼の中にある「銀」が、私の意志によって、強制的に「黒い結晶」へと書き換えられ、その活動を停止させていく。


「……いい目だ、エルゼ。その傲慢な輝きこそ、私の妃に相応しい」


 ヴィルフリート様が、その隙を見逃すはずもなかった。

 

「――失せろ、ゴミが」


 大剣が聖騎士を真っ二つに断ち切り、その存在を世界の記憶ごと消し去るような、漆黒の炎が立ち上った。

 

 静寂が戻る。

 吹雪の中に、微かな歌声が再び響く。

 

『……心臓は二つ。……一人は光を、一人は影を……』


 倒れた聖騎士の鎧から、銀の霧が私の足元へと這い寄ってきた。

 それは鏡のようになり、そこに一瞬、誰かの記憶が映し出された。

 

 祭壇の上で、鎖に繋がれた母、リュミエール。

 彼女の目の前で、私とそっくりな銀の瞳を持つ少年が、残酷に微笑んでいる。

 

『……お姉様、待っているよ。お母様が最後に何を遺したか、僕が教えてあげる』


「……お母、様……」


 私がよろめくと、ヴィルフリート様が即座に私を抱き止めた。

 彼の腕の熱が、私の銀の指先を再び「痛み」で現実へと繋ぎ止める。


「……エルゼ。見えたか、あの場所が」


「はい。……北の、氷の城。あそこに、私の……私たちの、すべてを終わらせる答えがあります」


 陛下の赤い瞳に、一切の迷いのない殺意が宿る。


「いいだろう。……カイル、馬車を出せ。最短距離で氷の城へ向かう。……邪魔する神が他にいるなら、全員、首を揃えて待っていろ」


 馬車は、雪原を切り裂き、さらに北へと加速していく。

 その行く手には、雲を突き抜けんばかりの、巨大な氷の尖塔がその姿を現していた。

第29話をお読みいただき、ありがとうございます。

エルゼ様の「銀の力」が、陛下の「死」と混ざり合い、独自の武器として覚醒した瞬間。

「聖なる力を自分の夜で染め変える」という、ある種、最も神への冒涜に近い、けれど最高に格好良い進化を遂げてくれました。


陛下も、エルゼ様の成長を嬉しそうに見つめつつ、その独占欲はさらに研ぎ澄まされています。

「私の前で別の男を(以下略)」というスタンスは相変わらずですが。


次回、第30話「氷の中に眠る『鏡』の少年」。

ついに教皇庁の門をぶち破り、エルゼ様と「もう一人の心臓」を持つ少年が、数年越しの再会を果たします。

少年の真の正体と、彼がエルゼ様に抱く、純粋で残酷な「執着」とは。


「エルゼ様の反撃、スカッとした!」「陛下のマントに隠れたい!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると嬉しいです!

皆様の熱量が、極寒の地を溶かす「愛の炎」となりますわ。

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