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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第27話 北からの凍てつく招待状

意識が浮上した瞬間、まず感じたのは「重さ」だった。

 私の指先、首筋、そして心臓の奥までを、ヴィルフリート様の魔力が鉛のように重く、熱く、塗り潰している。

 それは、私を連れ去ろうとする銀の浸食に対する、必死の防壁だった。


「……気がついたか」


 掠れた声。見上げると、ヴィルフリート様が私を抱きしめたまま、一睡もしていないのであろう充血した瞳で私を見つめていた。

 彼の頬には、私の体から舞った銀の粉が触れたのか、細い切り傷のような跡が残っている。


「……ヴィルフリート様、お怪我が……」


「気にするな。……それより、さっきの声は、誰だ」


 私の喉を借りて喋った、あの少年の声。

 思い出すだけで、背筋に氷の楔を打ち込まれたような戦慄が走る。

 彼は私を「お姉様」と呼び、母の遺体が北にあると言った。


「……分かりません。けれど、あの子は私を『こちら側』へ来いと言いました。聖域で感じたあの安らぎとは違う……すべてを凍てつかせて止めてしまうような、冷たい誘惑でした」


 私が震える手で陛下の胸元に縋り付くと、彼は私の頭を自身の胸に強く押し付けた。

 ドク、ドク、と。

 彼の心臓は、怒りと焦燥で、今にも張り裂けそうなほど激しく波打っている。


「……私の前で、別の男の声を出すな。……たとえそれが神だろうと、お前の弟を名乗るガキだろうと、私からお前を奪うものはすべて塵にしてやる」


「陛下! 失礼いたします!」


 隠れ家の扉を叩いたのは、カイルでもシモーヌでもなかった。

 現れたのは、凍てつく風を纏った、純白の法衣を纏う教皇庁の使者。

 彼は部屋に入るなり、ヴィルフリート様の殺気にさらされながらも、傲慢に顎を上げた。


「帝国皇帝陛下。そして……我らが『失われた半身』、エルゼ・リュミエール殿。……北の教皇庁より、正式な招待状をお持ちしました」


「……誰に、その名を名乗る許可を与えた」


 ヴィルフリート様が立ち上がることさえせず、ただ指先を動かした。

 瞬間、部屋の床が漆黒の霜に覆われ、使者の足元から「死」の蔦が這い上がる。

 使者は悲鳴を上げる暇もなく、その場に膝を突かされた。


「ひ……っ! 言葉を慎んでください、皇帝! 我々は教皇猊下の御名において、彼女の『正当な継承権』を……」


「この娘の権利は、私の腕の中にある。……返事は、こうだ」


 陛下が吐き捨てると同時に、使者が掲げていた銀の封筒が、どろりとした黒い炎に包まれて消滅した。

 だが、炎が消えた跡には、灰ではなく「氷の結晶」が文字を形作って浮かんでいた。


『リュミエールの魂を、凍土へ。……来なければ、帝国の北限はすべて氷河の下に沈むだろう』


 それは、一国の王に対する通告ではなく、神が被造物に下す「命令」だった。


「……卑怯な真似を」


 ヴィルフリート様の手が、怒りで白く震えている。

 彼がこのまま教皇庁へ軍を向け、世界を戦火に包むのは明白だった。

 けれど、それでは彼の愛する帝国が、私のために壊れてしまう。


「……陛下」


 私はベッドから這い出し、裸足のまま彼の背中に抱きついた。

 冷たくなり始めた私の肌が、彼の熱い背中に触れる。


「行きましょう。……逃げるのではなく、奪い返すために。……私の『半分』を勝手に名乗るあの子に、私はヴィルフリート様の女なのだと、教えに行かなければなりませんわ」


 私の言葉に、ヴィルフリート様がゆっくりと振り返る。

 その瞳には、私への狂おしいほどの情愛と、同時に、二度と戻れない場所へ踏み出すことへの深い覚悟が混ざり合っていた。


「……エルゼ。お前がそう言うなら、私はお前のために地獄へでも付き合おう。……だが、忘れるな。お前が銀色に染まりきる前に、私はその心臓を、私の愛だけで無理やり動かし続けてみせる」


 陛下は私の腰を引き寄せ、食い入るような深い口づけを落とした。

 唇から伝わるのは、鉄と、そして執着の味。


 三日後。

 私たちは帝都を捨て、極北の地へと向かう魔導馬車の中にいた。

 

 窓の外、景色が白く霞み始める。

 ふと見下ろした私の右手の指先は、もはや感覚を失い、月光を浴びて鏡のように輝く「完全な結晶」へと姿を変えていた。

第27話をお読みいただき、ありがとうございます。

ついに「極北の教皇庁」からの招待状が届き、二人の物語は新たなステージへ。

陛下が「お前の弟を名乗るガキ」と言い放つシーン、彼の独占欲が全人類だけでなく、エルゼ様の血縁にまで及んでいるのが最高に彼らしいですね。


一方、エルゼ様の体は確実に変質を続けています。

この「タイムリミット」があるからこそ、二人の間に流れる時間はより濃密に、そして切なくなっていきます。


次話、第28話「立后の儀、その前に。」。

北へ向かう過酷な旅路の中、陛下がエルゼ様に「ある特別な魔法」を施します。

それは愛の誓いか、それとも逃げられないための呪縛か……。


「陛下の独占欲、もっと見たい!」「銀の結晶化、どうなっちゃうの!?」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると、執筆の魔力が湧き上がりますわ。

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