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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第24話 帝国の夜明け、あるいは愛の深化

「……離さない。二度と、私の視界から消えるな」


 血の匂いと、暴走する「死」の魔力が渦巻く聖堂の中で、ヴィルフリート様の腕は折れそうなほど私を強く締め付けていた。

 彼の頬には、聖域の騎士たちの返り血と、怒りで裂けた自身の魔力の痕が刻まれている。

 皇帝としての矜持も、騎士としての理性も、すべてを焼き尽くしてここまで来た男の、震えるような執着。


「……ヴィルフリート様、もう、大丈夫です。私を見て」


 私は彼の手を取り、自身の頬に重ねた。

 冷え切った彼の指先に、私の「夜」の暖かさが溶け込んでいく。

 

 その時、聖堂の最奥、教皇の座を模した祭壇から、耐え難いほどの「光」が噴き出した。


「おのれ……魔女め! そして帝国の死神よ! この聖なる地を穢した罪、神の光で灰になれ!」


 生き残っていた司祭たちが、自らの命を捧げる禁忌の詠唱を始める。

 世界樹の根から吸い上げられた「搾取された光」が、巨大な槍となって私たちに降り注ごうとした。

 

 ヴィルフリート様が私を庇い、大剣を構える。

 だが、その身体は既に限界を超えていた。


「……私の後ろへ、エルゼ。これくらい、私の『死』で相殺して……」


「いいえ。……今度は、私が貴方を包む番です」


 私は彼の手を握りしめ、胸元のペンダントを天に掲げた。

 

(お母様。見ていて。……貴女が守ろうとしたこの力を、私は私の愛する人のために使います)


 ――漆黒の涙が、両目から溢れ出した。

 

 それは泥ではない。

 光を吸い込み、優しく、深く、すべてを眠りへと誘う「至高の夜」。

 私の体から放たれた黒い波動が、迫りくる黄金の槍を正面から受け止めた。


 激突の衝撃はない。

 ただ、眩しすぎた光が、私の「黒」に触れた瞬間、穏やかな月光のような輝きへと変質していく。

 

「な……に!? 光が……消えるのではなく、穏やかになっていく……!?」


 ザカライアスが、驚愕に瞳を見開く。

 私の魔力は、聖堂の壁を、床を、そして苦しんでいた世界樹の根の深淵までを塗り替えていった。

 刺すような白は消え、聖域の地下は、無数の黒薔薇が咲き乱れ、銀色の星屑が舞う「永遠の夜の楽園」へと変貌した。


 司祭たちの絶叫は、静かな寝息へと変わる。

 暴走していた魔力が鎮まり、聖域全体が、深い、深い安らぎに包まれた。


「……終わりましたわ、ヴィルフリート様」


 私が微笑んで振り返ると、ヴィルフリート様は憑き物が落ちたような顔で私を見つめていた。

 彼は剣を落とし、崩れ落ちるように私を抱きしめた。


「……エルゼ。君は、本当に……」


「……はい。貴方の、エルゼです」


 私は彼の傷ついた手に、幾度も口づけを落とした。

 私の黒い涙が彼の肌に触れるたび、傷口が塞がり、彼を苦しめていた「死の呪い」の余剰分が、心地よい静寂へと吸い込まれていく。

 

 これまでは、私の力が彼の呪いを「抑えて」いた。

 けれど今は違う。

 私たちの魔力は、夜と闇が溶け合うように、一つの完璧な調和を成していた。


「……ふ。完敗だな。……国を滅ぼしに来たはずが、君に救われてしまった」


 ヴィルフリート様が、私の髪を慈しむように撫でる。

 その赤い瞳には、もう狂気はない。

 ただ、底なしの愛と、一生をかけても返しきれないほどの情愛だけが宿っていた。


     ◇


 数日後。

 聖域は、帝国の保護下に入ることが宣言された。

 

 「光の搾取」という欺瞞を暴き、世界樹に真の休息を与えたエルゼ様の名は、大陸中に「夜の女神の再来」として広まった。

 かつて彼女を「泥の女」と笑ったアステリア王国は、今や見る影もなく没落し、彼女の慈悲の一滴を求めて嘆願書を送る日々だが、帝国はそれを一切無視している。


 帝都へ戻る豪華な馬車の中。

 私は、窓の外に広がる、どこまでも高く、美しい夜空を見上げていた。


「……何を考えている」


 ヴィルフリート様が、私の膝の上に頭を乗せたまま、私の手を自身の唇に運んだ。

 

「お母様のことです。……リュミエールという名を持ちながら、彼女が愛したのはこの『夜』だったのだと、ようやく分かりました」


「……そうか。ならば、その意志は君が継げばいい。……そして、君の隣には常に、君以外のすべてを拒絶する私という影がいる」


 陛下は私の腰を引き寄せ、耳元で熱く囁いた。

 

「帝国へ戻ったら、すぐにでも立后の儀を行う。……もう、誰にも『認定』などさせない。君が私の神であり、私が君の唯一の信徒だ」


 重すぎる。あまりにも、重すぎる愛。

 けれど、それが心地よくて、私は彼の胸に深く顔を埋めた。


 馬車は、私たちの愛が支配する、漆黒の宮殿へと向かって進んでいく。

 

 ――だが、私の胸元のペンダントは、まだ微かに震えていた。

 

 聖域の最深部で見た、母の記憶の断片。

 『北の果て、凍てつく教皇庁に、もう一つの心臓が眠っている』。

 

 私たちの夜明けは、まだ、始まったばかり。


「……愛しています、ヴィルフリート様」


「……ああ。私の魂も、血も、すべてはお前のものだ、エルゼ」


 重なる影は、星の降る夜の中に溶けていった。

第2章『聖域の解法と夜の女神』、これにて完結です!

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。


光を吸い込んで「安らぎ」に変えるエルゼ様の奇跡、そして愛する人のために神の国を更地にする陛下の暴挙……。

二人の絆が、もはや「共依存」を超えた「世界の理」へと昇華された瞬間を描き切りました。

アステリアの王子や聖域の司祭たちへの「ざまぁ」も、最高に美しく決まったのではないでしょうか。


しかし、完結の余韻に浸る間もなく、母が遺した「もう一つの心臓」という不吉なワード。

第3章では、大陸の最北端、すべての魔力の源流とされる「氷の教皇庁」へと舞台を移します。

そこには、エルゼ様の出生に関わるさらなる衝撃の真実と、陛下の嫉妬が銀世界を蒸発させるほどの熱い新展開が待っています。


「陛下、もっとデレて!」「エルゼ様の無双をもっと見たい!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価、そして熱い感想をお寄せください。

皆様の声が、私の執筆の魔力源となります。


次章、第3章開幕まで、しばしの安らぎを――。

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