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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第23話 母の形見が示す、未知なる航路

落ちていく感覚は、永遠にも、一瞬にも感じられた。

 

 暗闇の底で私が目を開けたとき、そこは「沈黙の聖堂」と呼ばれる、音も光も遮断された石の牢獄だった。

 全身を冷たい魔力の鎖が縛り、黒い魔力の循環を無理やり止めようとしている。


「……ヴィルフリート、様……」


 声にならない叫びが、乾いた喉を灼く。

 最後に見た、私を呼ぶ彼の絶叫が耳の奥で鳴り止まない。

 あの方が、私のためにどれほど怒り、どれほど傷ついているか。それを思うだけで、胸が引き裂かれそうだった。


「無駄ですよ、エルゼ殿。その鎖は聖域の数千年の祈りが込められたもの。たとえ帝国の死神でも、これを内側から壊すことはできない」


 闇の中から、ザカライアスが静かに姿を現した。

 彼の背後には、異様なまでに肥大化した「光の塊」が浮かんでいる。


「……お母様は、ここで何をされたのですか」


「リュミエールか。……彼女は、この聖域で最も『光』に適した少女だった。ですが、彼女は気づいてしまった。光を維持するために、どれほど残酷な影を世界が強いているかに。……そして、彼女は聖域の最深部から『夜の女神の鍵』を盗み出した」


 ザカライアスが、私の胸元のペンダントを指差した。


「それは、世界樹の毒を吸い取るフィルターであり、同時に『夜の国』への門を開く羅針盤。彼女は、それを胎内の君に託し、アステリアへと逃げた。……君を、聖域の『光の贄』にさせないために」


(お母様……。私を、守ろうとして……?)


 アステリアでは、母は私に不吉な力を残して死んだ大罪人だと教えられてきた。

 けれど、事実は真逆だった。

 母は、私が自分自身の力で、自分自身の人生を歩めるように……あえて「闇」を私に託し、光の搾取から私を隠したのだ。


 ――ドクンッ。


 ペンダントが、これまでで最も熱く、力強く脈打った。

 それは警告ではなく、導き。

 母の記憶が、私の脳内に直接流れ込んでくる。


『エルゼ。……夜は、恐れるものではないわ。それは、傷ついた光を休ませるための、優しい帳なの』


「……ああ、そうですわ。お母様」


 私の瞳から、一筋の黒い涙がこぼれ落ちた。

 その雫が鎖に触れた瞬間、パキィィンと甲高い音が響き、私を縛っていた聖なる鎖が、まるですすのように黒く崩れ落ちた。


「な……!? 自力で『祈りの鎖』を腐食させただと……?」


「ザカライアス様。貴方の言う『光』は、あまりに独善的すぎますわ。……暗闇を知らない光は、ただの盲目です」


 私はゆっくりと立ち上がった。

 身体の奥底から、かつてないほど清らかな闇が溢れ出す。

 それは、陛下が愛してくれた、私の「黒」。


 その時。

 

 聖堂全体が、巨大な鉄槌で叩かれたような轟音と共に激しく揺れた。

 

 ズゥゥゥンッ!!

 

 天井から砂埃が舞い落ち、大理石の壁に巨大な亀裂が走る。

 地響きと共に、外から響いてきたのは――人間のものとは思えない、地獄の底から響くような獣の咆哮だった。


「……何の音だ。聖域の多重結界は、神代の魔術で守られているはず……」


 ザカライアスが狼狽した、その刹那。

 

 ドガァァァァンッ!!

 

 聖堂の正面扉が、蝶番ごと爆散した。

 爆炎と煙の中から現れたのは……もはや人としての理性をかなぐり捨てた、漆黒の魔王の姿だった。


「……ヴィル、フリート、様……?」


 そこにいたのは、騎士の鎧を血と魔力で赤黒く染め、瞳を爛々と真紅に輝かせた陛下だった。

 彼の足元では、聖域が誇る最高位の騎士たちが、塵となって消えていく。

 結界を「解除」したのではない。

 自分の血と、狂気的な「死の魔力」で、物理的に聖域を「踏み潰して」ここまで来たのだ。


「……私の。……私の、エルゼを……返せ」


 陛下の声は、触れるものすべてを枯死させる呪いそのものだった。

 彼はザカライアスを一瞥もせず、ふらりと、けれど迷いのない足取りで私へと歩み寄る。


「……エルゼ。……無事か。……どこか、汚されたか。……誰を、殺せばいい……?」


 彼の手は、血で汚れていた。

 帝国の誇りも、皇帝の威厳も捨て、ただ一人の女性を取り戻すために、彼は神の国を地獄に変えたのだ。


「陛下……!」


 私は彼に駆け寄り、その血まみれの身体を強く抱きしめた。

 彼の纏う「死」の冷たさが、私の「夜」の暖かさと混ざり合い、静かに凪いでいく。


「……もう、大丈夫です。私、お母様の願いがわかりましたわ。……貴方と一緒に、この光の傲慢を終わらせる力が、私にはあると」


 陛下は私の首筋に顔を埋め、子供のように震えながら、私の匂いを、存在を、その魂に刻み込もうとしていた。


「……離さない。……二度と、私の視界から消えるな。……この国が、世界が、お前を奪おうとするなら、私は今この瞬間、すべての息の根を止めてやる」


 愛というにはあまりに重く、祈りというにはあまりに昏い。

 けれど、それこそが私を泥の中から救い出した、唯一無二の光。


 私は陛下の胸で、ザカライアスを見据えた。

 

「ザカライアス様。……航路は決まりました。……私たちは、貴方たちの創った偽りの天国を、美しい夜へと塗り替えて差し上げますわ」


 ペンダントが、勝利の凱歌を奏でるように蒼く輝いた。

お待たせいたしました!

ブチ切れた陛下の、圧倒的かつ大人げない「聖域解体ショー」。

皇帝の威厳すら投げ捨てて、血まみれでエルゼ様を迎えに来る姿に、愛の「重さ」の極致を感じていただければ幸いです。


そして、エルゼ様もついに自分の力の「ルーツ」を肯定しました。

自分はただの「贄」ではなく、母から未来を託された「夜の守護者」であるということ。

陛下という最強の矛を得て、エルゼ様の反撃が始まります。


次回、第24話『帝国の夜明け、あるいは愛の深化』。

第2章、完結回!

聖教会の最深部に眠る「神の嘘」を、二人の合体魔法(?)が粉砕します。

そして、激闘の後の、甘すぎて心臓が止まるような「事後」のひととき……。


物語は、第1部の締めくくりへと向かいます。

「陛下、かっこよすぎて震えた!」「エルゼ様、もっといっちゃって!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると嬉しいです!

皆様の熱量が、聖域を黒い薔薇で埋め尽くす力になりますわ。

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