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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第22話 黒薔薇の奇跡、再び。

階段を下りるたび、肺の奥を刺す空気は冷たく、そして……酷く淀んでいった。

 地上に溢れていたあの神々しいばかりの「白」はどこへ消えたのか。

 湿った壁から染み出すのは、祈りの声ではなく、押し殺された絶望の嗚咽のような、低い魔力の鳴動だった。


「……何だ、この腐った匂いは。これが聖域の正体か?」


 ヴィルフリート様が、私の肩を抱く腕に力を込める。

 彼の纏う漆黒の鎧が、周囲の淀んだ魔力と反発し、不吉な火花を散らしている。

 

「おや、気づかれましたか。……光が強ければ、その分、影は深く、濃く、行き場を失うものです」


 先導するザカライアスの声が、暗闇の中で艶めかしく響く。

 やがて辿り着いた最下層。

 巨大な円形の空洞の中央には、かつては世界の命を支えていたであろう、巨大な「世界樹の根」が横たわっていた。

 

 だが、その姿は無惨だった。

 白く輝くはずの根はどす黒く変色し、まるで血管が壊死したかのように醜く脈打っている。その周囲には、膨大な「光の魔石」が配置され、無理やり根を輝かせようとしていたが、それは単なる延命――いや、拷問にしか見えなかった。


「……ひどい。お母様は、これを守ろうとしていたのですか?」


「いえ、エルゼ殿。彼女はこの根を『解放』しようとしたのです。……聖域は、大陸中の穢れをここに集め、閉じ込めることで地上の美しさを保っている。ですが、もう限界です。根は毒に耐えきれず、枯れ始めている」


 ザカライアスが、枯れ果てた根の表面を指差した。

 そこから漏れ出しているのは、アステリアで私が見続けてきた「あの泥」と同じ色の毒素だった。


「光の魔法では、この闇は消せません。光を当てれば当てるほど、影は色濃く、毒を増す。……ですが、貴女ならどうでしょう?」


「……エルゼに何をさせるつもりだ。言ったはずだぞ、道具にするなと」


 ヴィルフリート様の殺気が、ザカライアスの喉元を灼く。

 けれど、ザカライアスは動じなかった。


「道具ではありません。……これは、彼女の『権利』だ」


 胸元のペンダントが、狂ったように熱を放つ。

 私は、吸い寄せられるように、その枯れ果てた根の前に立った。

 

 懐かしい。

 この苦しさ、この息苦しさ。

 私が今までずっと背負わされてきた「泥」の記憶が、この根と共鳴している。

 

 ――私は、もう逃げない。

 

 私は、震える手を伸ばし、死にゆく根にそっと触れた。

 冷たい。石のように硬く、絶望に満ちた感触。


「……もう、大丈夫ですわ。私が、その痛みを知っていますから」


 自然と、涙が溢れた。

 それは、聖域の白を、世界の毒を、すべてを吸い込み、浄化するために生まれた――究極の、漆黒の雫。


 ポタリ、と。

 涙が根の表面に落ちた瞬間、地響きのような音が地下を震わせた。


 ――パキィィィンッ!


 どす黒く濁っていた毒が、私の涙に触れた箇所から、見る間に透明な「安らぎ」へと書き換えられていく。

 それだけではない。

 枯死していた根から、漆黒の茨が勢いよく吹き出し、瞬く間に地下空洞全体を覆い尽くした。

 

 闇の中で咲き誇るのは、月光を反射する黒い薔薇。

 帝都で見せたあの奇跡を凌駕する、圧倒的な「夜の楽園」が、死の淵にあった世界樹の根を包み込み、癒やしていく。


「……あ、あ、ああ……っ!」


 背後で見ていた司祭たちが、腰を抜かしてその場に崩れ落ちた。

「光」が敗北し、「闇」が救いをもたらした光景。

 彼らが千年間否定し続けてきた真実が、私の涙一粒で証明されたのだ。


「美しい……。やはり、貴女こそが真の『夜の女神』だ」


 ザカライアスが、恍惚とした表情で膝をつく。

 

 私は、自分を支えるヴィルフリート様の腕の温もりを感じながら、荒くなった息を整えた。

 

「……ヴィルフリート様。私……」


「分かっている。……見事だ、エルゼ。……だが、これでもう十分だろう。さあ、今すぐここを出るぞ」


 陛下の予感は、いつも正しい。

 彼が私を抱き上げようとした、その時だった。


「――残念ですが、皇帝陛下。貴方の同行は、ここまでです」


 ザカライアスの声に、先ほどまで跪いていた騎士たちが一斉に立ち上がった。

 彼らの手には、帝国の「死の魔力」を一時的に封じるための、禁忌の対・皇帝結界石が握られていた。


「なっ……!?」


「エルゼ殿の力は、聖域の最深部……教皇猊下との対面で完成されます。……陛下、貴方の力は強すぎる。……しばらくの間、客室で『静養』していただくことになります」


「……誰に向かって、命令している」


 ヴィルフリート様が剣を引き抜こうとしたが、足元から立ち上がった黄金の鎖が、彼の漆黒の鎧を縛り上げる。

 聖域が千年間、皇帝を抑え込むために用意してきた秘術。


「離せッ! エルゼに触れるな!!」


「ヴィルフリート様!」


 私が彼に手を伸ばそうとした瞬間、私の足元の床が音もなく消えた。

 

 奈落へと落ちていく感覚。

 最後に見たのは、狂ったように鎖を引きちぎろうとする陛下の、燃えるような紅い瞳と、絶叫だった。


「エルゼェェェッ!!」


 光の届かない場所。

 私を待っていたのは、冷徹な微笑を浮かべたザカライアスの一言だった。


「……さあ、始めましょうか、エルゼ殿。……君を捨てた世界を、君自身の手で断罪する……そのための儀式を」

聖域の偽善を、エルゼ様の「黒い薔薇」が飲み込むカタルシス!

光の魔法では救えなかった世界樹を、彼女の「闇」が救う姿は、まさに真の聖女の覚醒でしたね。

しかし、その直後に待ち受けていたのは、卑劣な引き裂き……。

陛下を隔離し、エルゼ様を一人にする聖域の策に、私の心も怒りで震えております。


ヴィルフリート陛下のあの絶叫。

彼が檻をぶち破り、聖域そのものを焦土に変えるまでの秒読みが始まったような気がしてなりません。


次回、第23話『母の形見が示す、未知なる航路』。

孤立したエルゼ様にザカライアスが突きつける、あまりにも残酷な「母の真実」。

そして、ブチ切れた皇帝陛下による、聖域全域を対象とした「本気の蹂躙」が始まります!


「陛下、早くエルゼ様を助けて!」「ザカライアスを黒薔薇の棘で串刺しにして!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると嬉しいです!

皆様の熱量が、エルゼ様を守る漆黒の茨をさらに鋭くしますわ。

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