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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第18話 嫉妬の残り香と、深夜の刻印

カイルが去った後の広間には、不自然なほど冷たい静寂が降りていた。

 壁に掛けられた魔導時計の刻む音が、やけに大きく耳に響く。


「……エルゼ」


 名前を呼ばれると同時に、私の視界が反転した。

 気がつけば、私は寝宮の柔らかな長椅子ソファに押し倒され、その上をヴィルフリート陛下の大きな体躯が覆っていた。


「ヴィ、ヴィルフリート様……?」


 見上げる彼の瞳は、暗がりのなかで獣のように紅く、鋭く燃えている。

 彼は私の手首を、痛くない程度の、けれど決して逃げられない強さで組み伏せた。


「……あのアステリアの鼠も、教会の老害も、そしてあの生意気なガキも……」


 低く、地を這うような掠れた声。

 陛下は私の首筋に顔を埋め、そこにある脈動を確かめるように、熱い唇を押し当てた。


「どいつもこいつも、君を何かの『道具』だと思っている。……君の価値を、自分たちの汚い天秤で測ろうとしている。……許せん。今すぐにでも、君の瞳に映る私以外のすべてを焼き払ってやりたい」


 剥き出しの独占欲。

 アステリアで「無価値」と捨てられた私を、彼は「世界そのもの」よりも重いと断じる。

 その歪で、あまりにも一途な愛が、私の心に深く、甘く突き刺さる。


「……ヴィルフリート様。私は、ここにいます。貴方の腕の中にしか、私の居場所はありませんわ」


 私が自由な方の手で彼の頬を撫でると、陛下は喉の奥で、ひび割れたような溜息をついた。


「分かっている。分かっているが……足りないのだ。どれほど君を抱きしめても、君の魔力を私の『死』で包み込んでも、君がどこかへ消えてしまいそうで……」


 陛下は私の服の襟元を少しだけ寛げると、鎖骨のすぐ下――心臓に近い場所に、わざと痕を残すような、激しい口づけを落とした。

 痛みを伴うほどの熱。

 それは、言葉よりも雄弁な「所有」の証明だった。


「……っ。陛下……」


「ここだ。ここに、私の刻印しるしを。……これを見れば、誰も君を自分たちの都合で呼び出そうとは思わないだろう。君は、帝国の皇帝に魂まで奪われた女なのだと、世界に知らしめてやる」


 カイルが言っていた「夜の女神の鍵」という不穏な言葉さえ、今の陛下の熱情の前では、遠い国の御伽話のように現実味を失っていく。

 彼が私を必要としてくれるなら、例えそれが世界の破滅に繋がる鍵だとしても、私は喜んで彼に差し出そう。


 陛下の手が、私の胸元にある母のペンダントに触れた。

 その瞬間。


 ――ドクン。


 心臓の鼓動とは違う、重く、深い響き。

 ペンダントが微かに蒼く光り、陛下の指先を拒むように震えた。


「……チッ。やはり、これは私を拒んでいるな」


 陛下が忌々しげに指を離すと、光はすぐに収まった。

 けれど、私の胸の奥には、奇妙な「繋がり」の感覚が残っていた。

 まるで、この石が陛下の『死の魔力』に反応し、何かを呼び覚まそうとしているかのような……。


「……エルゼ。明日、あのガキ(カイル)に命じて、この石の封印を解かせる。……君を苦しめる要素が少しでもあるなら、私がこの手で粉砕してやる」


「ヴィルフリート様……貴方は、怖くないのですか? 私の力が、貴方の呪いを……」


 消してしまうかもしれない。

 そう言いかけた私の唇を、陛下は深い口づけで塞いだ。


「呪いなど、君が隣にいてくれるなら、一生付き合ってやろう。……私が恐れるのは、呪いが消えることではない。君の微笑みが、私の届かない場所へ行ってしまうことだけだ」


 陛下は私を抱き上げ、寝台へと運んだ。

 漆黒のカーテンが引かれ、部屋は完全な二人だけの世界になる。


「今夜は寝かせない。……君の心も体も、アステリアの記憶が一片も残らぬほど、私の愛で塗り潰してやる」


 囁きと共に、夜が深く、濃密に更けていく。


 ――その時だった。


 真夜中を告げる鐘の音が、帝都の静寂を破った。

 けれど、その音はいつもと違っていた。

 どこか物悲しく、そして、警告を発するような……重く湿った鐘の音。


 窓の外、帝都の大聖堂の尖塔が、月光を浴びて不気味に白く光っていた。

 

 異端審問官ザカライアスが、漆黒の馬車を降り、帝宮の門を叩こうとしている。

 手には、皇帝さえも拒めない、聖教皇直筆の『召喚状』を携えて。

ヴィルフリート陛下の独占欲が、ついに深夜の甘い「刻印」という形で爆発しました。

カイルへの嫉妬を隠そうともせず、エルゼ様を自分の愛で塗り潰そうとする陛下の重すぎる愛……。

アステリアでの冷遇を知っている読者の皆様にとって、この「必要とされすぎる」感覚は、最高の癒やしとなっているはずです。


しかし、甘い時間の終わりに響く、不吉な鐘の音。

ついに異端審問官ザカライアスが、帝宮の懐深くへと足を踏み入れました。

彼が持っているのは、法的・宗教的に皇帝を縛る「最悪の切り札」。


次回、第19話『届いた白い招待状:聖教会の呼び出し』。

エルゼ様を守ろうとする陛下と、教会の絶対権威を盾にするザカライアスの、手に汗握る舌戦。

そしてエルゼ様自身が、自らの過去と対峙するための「ある決意」を固めます。


「陛下、もっとマーキングして!」「ザカライアス、来ないで!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価、応援の感想をいただけると嬉しいです!

皆様の応援が、陛下の独占欲をさらなる高みへと導きますわ。

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