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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第12話 世界の心臓、愛の誓い

天を貫く黄金の光。

 それは、アステリア王国が「聖女の力」と称して誇ってきた、偽りの輝きだった。


 彼らは知らなかったのだ。

 世界樹の根元に溜まる「穢れ」を私が吸い取ることで、あの光は保たれていたのだということを。

 フィルターを失ったまま出力を上げた装置がどうなるか……。


「……愚かな。自ら破滅の引き金を引いたか」


 ヴィルフリート陛下が、私の肩を抱いたまま、はるか遠方の空を見据えた。

 黄金の光は今やどす黒い赤色に変じ、アステリアの地を焼き尽くそうとしている。

 

 私の胸元で、母のペンダントが激しく脈打つ。

 ひび割れた石の隙間から、これまでとは違う、清らかな蒼い光が溢れ出していた。


「ヴィルフリート様。……私に、あの方たちの罪を終わらせる許可を」


「……ああ。君の好きにするがいい。私が、君の背後にある絶望をすべて喰らってやろう」


 陛下が私の背に手を添える。

 その体温を糧に、私は両手を広げた。


(……聴こえる。お母様。……世界の悲鳴が)


 私は、強く念じた。

 誰かを呪うためではなく、自分を愛してくれたこの帝国と、私を拾ってくれた陛下のために。


 次の瞬間、私の瞳から溢れ出したのは、かつてないほど濃密な、漆黒の涙だった。

 けれど、それはもう泥ではなかった。

 夜空の色を凝縮したような、神々しいまでの「純粋な闇」。


 漆黒の波が、私の足元から爆発的に広がっていく。

 帝国の空中庭園を、帝都を、そして国境を越え――それはアステリアから溢れ出した「赤黒い呪い」を、音もなく飲み込んでいった。


「な……なんだ、あの黒い波は!? 光を……光を喰らっているのか!?」


 はるか遠く、魔法の通信鏡を通して、ジュリアン王子の絶望的な叫びが聞こえた気がした。

 

 彼らが縋り付いた「光」は、世界の悲鳴だった。

 私の「闇」は、その痛みを包み込む「安らぎ」だった。


 私の黒い魔力がアステリアの王宮に到達した瞬間、彼らが守ろうとした偽りの聖女――セラフィナの髪が、一瞬にして真っ白に枯れ果てた。

 奪い取った魔力はすべて、本来の持ち主である私の元へと還ってくる。


「お、お姉様……! 返して……私の光を、返してぇぇっ!」


 その悲鳴を、私は冷淡に聞き流した。

 

「……返せ、ですか。セラフィナ、それは元々、貴女のものではないわ」


 私が最後の一滴の黒涙を零した時。

 世界を覆っていた不吉な赤光は消え去り、代わりに夜空には、これまで見たこともないほど美しい銀河が広がっていた。


 アステリア王国は滅びはしなかった。

 けれど、その地からはすべての「奇跡」が失われた。

 草木は育たず、大地はただの乾いた土となり、かつての栄華は砂上の楼閣のように崩れ去った。

 彼らはこれから、自分たちが捨てた「泥」を求めて、一生、不毛な大地を這いずり回るのだ。


「……終わりましたわ、陛下」


 魔力を使い果たし、崩れ落ちそうになった私の身体を、陛下が逃さず抱き止めた。

 彼は私の顔を覗き込み、愛おしくてたまらないというように、濡れた目元に口づける。


「見事だった、エルゼ。……君は今、世界の心臓として目覚めた」


「世界の、心臓……?」


「ああ。君が流す涙は、この世界の毒を浄化し、新たな命へと変える唯一の回路だ。……そしてその回路は、今、この私の腕の中にある」


 陛下は私の指を一本ずつ絡めるように握りしめ、そのまま跪いた。

 背後では、シモーヌ様を筆頭に、騎士たちが、侍女たちが、そして宮殿のすべての人々が、深い畏敬の念を持って最敬礼を捧げている。


「エルゼ・アイゼン。……いや、エルゼ。私の、たった一人の神よ」


 陛下が私の手を、自身の額に押し当てた。

 皇帝が、一人の女性に魂を明け渡すための、究極の誓約。


「君を捨てた世界を、私が奪った。君を汚物と呼んだ歴史を、私が書き換えた。……これからは、この帝国すべてが君の庭だ。そして私は、君という奇跡を永遠に閉じ込める、幸福な牢獄となろう」


 熱い。

 彼の瞳から注がれる感情は、愛などという言葉では足りないほど、重く、深く、狂おしい。


「……はい、陛下。……私を、一生、離さないでくださいね」


 私が微笑むと、陛下は獣が獲物を飲み込むような激しさで、私の唇を奪った。

 

 空には満天の星。

 足元には、私の涙が変えた黒い薔薇の絨毯。

 

 泥の中に捨てられた少女は、この夜、世界で最も尊き「心臓」として、最愛の王の隣に君臨した。


 ――けれど、物語はこれで終わりではない。

 

 遠く、北の地の聖教会の最深部。

 枢機卿を失い、怒りに燃える「教皇」が、不気味な瞳をこちらに向けていた。


『黒い涙の神子か……。あれこそが、我が神を復活させるための最後の器……』


 新たな影が動き出す。

 けれど、今の私には、何も怖くはなかった。

 

 私の隣には、世界を敵に回してでも私を愛し抜く、最強の皇帝がいるのだから。

第1章『黒涙の聖女、漆黒の王に拾われる』――完結です。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


どん底から始まったエルゼ様の物語ですが、陛下のあまりにも重すぎる愛によって、ついには世界の運命をも握る「心臓」へと登り詰めました。

アステリア王国のジュリアン王子たちへの「最後の審判」、スカッとしていただけましたでしょうか?

彼らはもう、エルゼ様の視界に入る資格すらありません。


しかし、物語はまだ序章に過ぎません。

母の形見のペンダントに隠された「世界樹」の真実、そしてエルゼ様を執拗に狙う聖教会の真の目的……。

第2章では、舞台をさらに広げ、陛下の独占欲も「限界突破」してエルゼ様を翻弄していきます。


「第1章最高だった!」「第2章も楽しみ!」と思ってくださった皆様、ぜひブックマークや評価、応援のコメントをいただけますと、蒼城レイの筆にさらなる魔力が宿ります。

エルゼ様と陛下の「永遠の溺愛」を、これからも見守っていただければ幸いです。

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