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泥を流す聖女として捨てられた私、死神皇帝に拾われて世界の心臓として溺愛される 〜不浄だと追放した王国が枯れ果て、私の涙一滴を乞うてももう遅い〜  作者: 蒼城レイ


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第11話 奪還の密使、あるいは断絶の証明

「……やはり、来たか。虫唾が走るな」


 月明かりの下、空中庭園の静寂を切り裂いたのは、ヴィルフリート陛下の低く冷徹な声だった。

 私の肩を抱く彼の腕に、瑞々しい殺意が宿る。


 庭園の端、影の塊が不自然に揺らぎ、そこから一人の男が姿を現した。

 アステリア王国の隠密部隊「影の爪」。かつて、私が公爵家で「出来損ない」と虐げられていた頃、私を地下牢へ引きずり込む役割を担っていた男だ。


「……久しぶりだな、エルゼ・フォン・ヴァイス。いや、今は死神の愛玩動物か?」


 男の声には、以前と変わらぬ、私を人間として扱わない蔑みが混じっていた。

 私は反射的に身体を震わせた。けれど、背中に触れる陛下の体温が、その恐怖を瞬時に蒸発させる。


「ヴィルフリート皇帝陛下。我が主、ジュリアン王子からの伝言を預かってきた。……『エルゼ、遊びは終わりだ。国の枯渇を止めるため、今すぐ戻れ。お前の罪は、これまでの倍の奉仕で償わせてやる』……とな」


「……罪、ですか?」


 私は、陛下の腕の中から一歩踏み出した。

 ドレスの裾が夜風に揺れ、黒真珠が星のように瞬く。


「私が流した涙で、皆様はこれまで汚れを知らずに過ごしてこられた。……それを捨てたのは、貴方たちではありませんか。今さらどの口が、私に『奉仕』などという言葉を向けるのです」


「黙れ! 泥女の分際で口を叩くな! お前がいなければ、セラフィナ様の肌が腐り始めているのだ。一刻も早く戻り、その力を妹君へ譲渡しろ。それがゴミとして生まれたお前の唯一の存在価値だ!」


 男が懐から、歪な形をした水晶を掲げた。

 その瞬間、胸元のペンダントが、焼けるような熱を帯びる。


「……ッ!」


「エルゼ!」


 陛下が私を背後に庇い、同時に凄まじい「死の魔力」を爆発させた。

 空気が凍りつき、庭園の植物が黒い霜を纏う。


「……貴様。私の目の前で、この娘を『ゴミ』と呼んだな。……万死では足りん。魂の一片まで砕き、永遠の闇に沈めてやろう」


「くっ……死神め! だが、この『血の契約』は抗えんぞ!」


 男が水晶を砕く。

 赤い霧が溢れ出し、私の足元に魔法陣を描こうとした。

 アステリア王家が代々、聖女を束縛するために使ってきた禁忌の呪術――「帰還の呼び声」。


 だが、その魔法陣が完成するよりも早く。

 私は、自らの意思で「黒い涙」を一滴、その足元の魔法陣に落とした。


「――無駄ですわ」


 漆黒の雫が触れた瞬間、血のように赤かった魔法陣は、一瞬で黒く塗りつぶされ、霧散した。

 

「な……に!? 聖女の拘束術を、自力で無効化したというのか!?」


「アステリアでの私は、皆様の悪意に支配されていました。けれど、今の私を支えているのは、陛下から頂いた愛です。……貴方たちの卑しい呪いなど、この『安らぎ』の深さには届きません」


 私は、男を真っ直ぐに見据えた。

 

「戻ってください。そして伝えて。……エルゼ・アイゼンは、もう死んだと。ここにいるのは、陛下に命を捧げ、陛下にすべてを捧げられた、帝国の女です」


 私の宣言に、陛下が背後から喉を鳴らして笑った。

 歓喜に震える、狂おしいまでの笑み。


「聞いたか、鼠。……彼女は私のものだ。そして、彼女がそう望むなら――私は喜んで、その過去をすべて地獄へと送り届けてやろう」


 陛下が指先を弾く。

 瞬間、見えない圧力が男の四肢を叩き潰した。

 悲鳴を上げる間もなく、男は血を吐きながら地面に這いつくばる。


「あ、あああ……っ! お、おのれ……! ならば、せめて道連れだ……! ジュリアン様が用意した『真の聖女』が、今、目覚める……!」


 男が最後の力を振り絞り、自身の心臓に手を突き立てた。

 命を代償にした大規模転移術。


 遥か遠く、アステリア王国の方向から、天を貫くような「不吉な光」が立ち上るのが見えた。

 

「……エルゼ。あれは……」


「……分かります。お母様のペンダントが、悲しんでいます。……あの方たちは、世界樹の根を枯らしてでも、偽りの奇跡を起こそうとしているのです」


 私の頬を、熱い涙が伝う。

 それはもう、ただの泥ではない。

 世界の均衡を守るために、私が流さなければならない「決戦の涙」。


「ヴィルフリート様。……私に、力を貸してくださいますか? あの方たちを止めるために。そして、私自身の過去に、本当の決着をつけるために」


 陛下は私の涙を指先で掬い、それを自身の舌に乗せた。


「……ああ。君の望みは、すべて私の命令だ。……さあ、行こうか、エルゼ。……アステリアという名の汚物を、この世界から浄化しに」


 夜空に、漆黒の雷鳴が轟いた。

 第1章、最終決戦の幕が開く。

アステリアからの密使を退け、ついにエルゼ様が自分の意志で「断絶」を選びました。

「私は、帝国の女です」……。

陛下にとって、これ以上の甘美な言葉はなかったでしょう。

直後の陛下の歓喜の笑み、読者の皆様にもゾクッとするような快感として届いていれば幸いです。


しかし、捨てられた側もただでは転びません。

命を賭した禁忌の術によって、アステリアは世界そのものを危機に晒す「偽りの覚醒」を目論みます。


次回、第1章最終話!

「世界の心臓」として覚醒するエルゼ様と、すべてを破壊してでも彼女を守り抜く陛下の、圧倒的な力。

アステリア王国のジュリアン王子とセラフィナに下される、この世で最も残酷で「美しい」結末とは。


物語は、最高潮のカタルシスへ。

「エルゼ様、頑張って!」「陛下、アステリアを完膚なきまでに!」と思ってくださった方は、ぜひブックマークや星の評価で、二人の決戦を応援していただけると嬉しいです!

皆様の熱量が、エルゼ様の涙を「最強の奇跡」へと変えます。

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