エピソード78 一か八か
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
掃除が終わるころ、麗が出勤してきた。
いつも通りみたいな顔で店に入ってきて、
でも俺の姿を見ると、
少しだけ口元をゆるめた。
「奏楽さん、二十三位おめでとうございます」
そう言われて、うまく笑えなかった。
「いや、そんな祝われるような順位じゃないよ」
本音だった。二十三位。
悪くないと言われても、
自分の中ではどうしても足りなかった。
締め日に見た景色が、
まだ身体の中に残っていたからだと思う。
でも麗は、そこで軽く流したりしなかった。
「二か月でこれはすごいことです。
俺、一年くらいは売上三十から五十くらいでしたから。
やっぱり才能ありますよ」
その言葉に、少しだけ黙った。
知らなかった。
麗にも、そういう時期があったんだ。
俺の中で麗は、最初から売れている側の人だった。
最初から卓を持っていて、
最初から姫を引っ張れて、
最初から締め日の熱の中心に立てる人なんだと思っていた。
でも違った。
三十とか五十とか、そういう数字の月を、
一年くらい続けていた時期がある。
その事実が、思っていたより大きかった。
そう考えると、二か月で九十二という数字は、
少し早いのかもしれない。
もちろん、それで満足できるわけじゃない。
悔しいものは悔しいし、
もっと上に行きたい気持ちは変わらない。
でも、今いる場所を「全然だめだ」と切り捨てるだけでも違う気がした。
今日は、まおが来る。
締め日も声はかけた。
でも、あの時は断固拒否された。
それで結局、今日になった。
理由は、聞かなくてもなんとなくわかる気がしていた。
まおはたぶん、そういう日だからこそ行かないんだと思う。
みんなが数字に必死になって、
店全体が少し浮き足立つ日。
そういう空気の中に、
自分も混ざるのが嫌なんだろう。
もしくは、締め日だから来たと思われるのが嫌なのかもしれない。
どっちにしても、
まおの中にはたぶん、
ちゃんと線がある。
どうしたら締め日に来るようになるのか、
少し考えたこともある。
嫉妬させるとか、
来ないと知らないよみたいな言い方をするとか、
そういう、一か八かの刺激を入れてみることも頭をよぎった。
でも、それで一が出る保証なんてない。
むしろ、外した時のほうがよく見える。
まおは、そういう雑な揺さぶりをいちばん嫌う気がした。
うまく刺されば距離が縮まるのかもしれない。
でも、外したらそのままいなくなる可能性もある。
それは嫌だった。
売上の話だけじゃなく、
単純に、まおが来なくなるのは嫌だと思った。
そう思っている時点で、
たぶん俺は少しだけ、
まおを雑に扱えなくなっている。
だから今日は、
変に踏み込まないで様子を見ることにした。
無理に締め日の話へ持っていかなくていい。
来なかった理由を問い詰めなくてもいい。
来る時に来て、来ない時に来ない。
そのままのまおを見ながら、
今どこまでなら触れていいのかを探るほうがたぶん正しい。
店の中で会うまおは、
いつも少しだけわかりやすくて、
少しだけわかりにくい。
今日もたぶん、そうなんだろうと思った。
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