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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン
ホスト前期

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78/111

エピソード77 月初

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 月も変わり、

また全員がゼロから始まる。


先月どれだけ売ったかも、

どこまで名前を上げたかも、

締め日が終わればいったん過去になる。


この店はそういう場所だ。


積み上げた数字は残るのに、

勝負はまた最初からやり直しになる。


だから怖いし、だから救いでもあった。


二十三位も、八十七万も、

そのまま次の月の自分を守ってくれるわけじゃない。


でも逆に言えば、

足りなかったこともまたやり直せる。


締め日に見た景色へ近づけなかった自分も、

今月はもう一度そこを目指せる。


全員がゼロになる。


その当たり前の残酷さに、

この店はたぶん支えられている。


でも今の俺には、

そのゼロが少しだけありがたかった。


まだ足りなかった先月を、

もう一度やり直せる気がしたからだ。


先月も少し感じていたことが、

今回で確信に変わった。


月初は、従業員みんな少し気が緩んでいる。


締め日が終わって、

数字がリセットされて、

またゼロから始まる。


そのはずなのに、

月が変わったばかりの店内には、

締め日にあったあの張りつめ方がまだ戻っていなかった。


みんなどこか少しだけ気が抜けていて、

声の張りも、足取りも、ほんの少しだけ軽い。


俺は掃除組じゃなくなったのに、

癖みたいに掃除の時間に出勤してしまった。


店の前に着いてから、あ、もうこの時間じゃなくてよかったんだと気づく。


でも、そのまま帰るのもなんか違う気がして、

結局そのまま中に入った。


今日までは掃除しようと思った。


まだ売れているわけでもないし、

掃除組を抜けたからって急に何かが変わるわけでもない。


むしろ自分の中ではまだ、

少しでも早く来て動いていたほうが落ち着く。


店の中では、

掃除組に戻った先輩もいた。


先月までは自分より少し上に見えていた人が、

今月はまた同じ時間に雑巾を持っている。


その光景が、この店の残酷さを静かに教えてくる。


「おい、掃除組じゃないのに、あてつけかよ」


先輩の声には、

先月まであった余裕が少しなくなっていた。


上がるやつもいれば、

下がるやつもいる。


昨日までの順位も、売上も、

月が変わればいったん意味を失う。


名前が上にあった人も、

翌月にはまた掃除組に戻ることがある。


そういう世界なんだと、

言葉じゃなく景色でわかる。


雑巾をしぼりながら、少しだけ思った。


この店では、上がることより、

居続けることのほうが難しいのかもしれない。


締め日に見た高い景色は眩しかった。


でも、その景色に一度触れたあとも、

次の月にはまたこうして床を拭くところから始まる。


結局みんな、

毎月それを繰り返してる。


そう思うと、少し怖くて、少しだけ燃えた。


今月は、先月より上に行きたい。


でもそれだけじゃなくて、

上がったあとに落ちない側にもなりたい。


月初の少し緩んだ空気の中で、

ひとりだけそんなことを考えている自分が、

少しおかしかった。


でもたぶん、こういう日に何を考えるかで、

次の締め日の景色は変わるんだと思う。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。

いただいた方にはお返ししに行きます。

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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