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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン
ホスト前期

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エピソード76 ひとり

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 締め日は終わった。


リコピンも、めろも、ららも、

それぞれ今できることをやってくれた。


締め日だからと早い時間から来てくれて、

少しでも力になろうとしてくれて、

まだ入店して二か月ほどの俺に、

ちゃんと金を使う価値を見出してくれた。


そのことには、ちゃんと感謝していた。


していたのに。


最後に渡された現実は、

売上九十二万、順位は二十三位だった。


在籍は四十人前後。


入店して二か月で二十三位なら、

十分健闘してるほうだと麗は言ってくれた。


実際、そうなんだと思う。


数字だけ見れば、悪くないのかもしれない。


むしろ出来すぎだと言う人もいるのかもしれない。


でも、全然納得できなかった。


締め日のフロアで見た景色が、

まだ身体の中に残っていたからだ。


次々に鳴る高額のコール。


照明が落ちるたびに変わっていく店の空気。


春さんの卓で見た、

あの高級酒の並んだ景色。


麗の卓の熱。


誰かが中心に立って、

店の流れそのものを作っていくあの感覚。


ああいうものを見たあとで、

二十三位という数字を「頑張った」で受け取ることはできなかった。


悪くない、では足りなかった。


健闘した、でも足りなかった。


たぶん俺は、締め日が始まる前の自分より、

少しだけ欲が深くなっていたんだと思う。


ただ名前が載りたいだけじゃなくなっていた。


ただ売れたいだけでもなくなっていた。


もっと上の卓に行きたい。


もっと高い景色を見たい。


あの熱の中心に、

自分の名前で立ちたい。


そう思ってしまったあとでは、九十二万も、二十三位も、どこか中途半端に見えた。


もちろん、リコピンたちがしてくれたことまで軽く見るつもりはなかった。


そんなことをしたら最低だと思う。


姫たちはちゃんと支えてくれたし、

俺はそのおかげでここまで来れた。


それでも、自分の中で納得できるかどうかは別だった。


営業が終わったあと、

誰ともアフターには行かなかった。


今日はひとりでいたかった。


誰かと飲んで、笑って、

締め日の余韻をやり過ごせる気がしなかった。


悔しいなら悔しいまま、

ちゃんとひとりで持っていたかった。


今の自分がどこにいて、何が足りなくて、

何を羨ましいと思ったのか。


それを酔って薄めてしまうのは、

なんとなく違う気がした。


だから俺は、誰とも行かずに、ひとりを選んだ。


締め日の熱が全部引いたあとの歌舞伎町は、妙に静かに見えた。


さっきまであれだけ光っていたのに、

今はただ夜の残りみたいな顔をしている。


その中をひとりで歩きながら、

九十二万と二十三位という数字だけが、

何度も頭の中を往復していた。


悪くないはずなのに、悔しい。


その感情が、今の自分にはいちばん正直だった。


一人で歩きながら考える。


どうしたらもっと、

麗や春さんのいる場所へ近づけるのか。


今日見た景色は、ただ眩しかっただけじゃない。


ちゃんと現実のものとして、

目の前にあった。


届かない世界ではなく、

届くために何かを積まなければいけない世界だった。


じゃあ、来月は何ができる。


もっと連絡を返すのか。

もっと外に出るのか。

もっと姫のことを考えるのか。

もっと店の中で名前を残すのか。


たぶん、全部だ。


どれかひとつだけやればいいほど、

この世界は甘くない。


小さいことを、誰にも見えないところで積み重ねたやつだけが、

締め日の真ん中に立てる。


今日見た麗も、春さんも、

たぶんそうやって今の場所まで来たんだと思う。


来月は、今月より上に行く。


それだけは決めた。


そして再来月は、もっと上へ行く。


そうやって考えていくと、

その先にはずっと目標にしていた月がある。


誕生日月だ。


ホストにとって、誕生日はただ年を取る日じゃない。


その月にどれだけ売れるかで、

自分がこの店でどこまで来たのかが、

いちばんわかりやすく形になる月だ。


まだ先だと思っていた。

でも、締め日をひとつ越えた今、

その月はもう遠い未来じゃなくなっていた。


誕生日月に、

何もないまま立ちたくない。


ただ祝われるだけじゃなく、

ちゃんと自分の卓で、

自分の名前で、

店の空気を動かしたい。


麗や春さんが見ている景色の、せめて端にでも触れたい。


夜の歌舞伎町をひとりで歩きながら、

悔しさはまだ消えていなかった。


でもその悔しさは、

さっきまでとは少しだけ形が変わっていた。


ただ苦いだけじゃない。

次に何をするかを考えさせる悔しさだった。


見上げたネオンは相変わらず派手で、

街はいつも通り人を飲み込む顔をしている。


その中を歩きながら、俺は少しだけ思った。


たぶん今日も、

この街に食われたんじゃない。


食われながら、

次はどうやって噛み返すかを考えていた。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。

いただいた方にはお返ししに行きます。

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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