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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン
ホスト前期

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74/106

エピソード73 50万

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 春さんの席を後にして、

自分の卓へ戻ろうとした、その時だった。


ふいにフロアの照明が落ちた。


一瞬遅れて、店内に曲が流れ出す。


この曲は知っている。

五十万以上のシャンパンが入った時にだけ鳴る曲だ。


ついに始まった、と思った。


今夜ずっと店の中に張りついていた、

あの見えない緊張。


誰が最初に大きく動くのか。


誰がこの空気をひっくり返すのか。


みんなが黙って待っていたものが、

とうとう形になった。


開戦の火蓋が切って落とされた。


五十万のコールが始まる。


「シャンパンありがとう! 締め日の一発目、先陣切らせてもらいます!

今の自分の最大限でナンバーに挑みます! 支えてくれる姫、ありがとう! よいしょ!」


マイクを握っていたのは、

あまり喋ったことのない先輩だった。


普段はそこまで前に出るタイプじゃない。


店の中でも静かなほうで、

後輩の俺からすると、

少し近寄りがたいくらいの距離感の人だ。


その先輩が今、フロアの真ん中で、

ちゃんと自分の言葉を叫んでいる。


それだけで、締め日の重さがわかった。


この店では、誰がどれだけ目立つかじゃない。

どれだけ数字を持ってこれるかで、人は急に主役になる。


コールの輪の外から、その卓を見る。


姫は少し泣きそうな顔で笑っていた。


先輩の声も、コールの熱も、

まわりで煽るホストたちのテンションも、

全部がその卓のために一瞬で集まっていく。


さっきまでそれぞれ別の卓で別の会話をしていたはずなのに、

シャンパン一本で店の空気がまるごとひとつに引っ張られる。


これが締め日なんだと思った。


誰かの一本が、店全体の温度を変える。


さっきまで静かに張っていたものが、

一本目をきっかけに一気に表へ出てくる。


まだ五十万だ。


なのに、その五十万はただの五十万じゃない。


今月の戦いが始まった、

という合図そのものみたいに見えた。


その卓を見ながら、

自分の胸の奥まで少し熱くなるのがわかった。


羨ましい、と思った。


あの中心に立っている先輩が羨ましい。


あの一本を入れた姫との関係が羨ましい。


店中の視線を集めて、

今この瞬間だけは自分が流れを作っている側にいる、

その感覚ごと羨ましかった。


でも、羨ましいだけじゃ終われない。


締め日は、誰かの勝負を眺める日じゃない。


自分もその中にいる日だ。


コールが終わって、店内の照明が戻る。


さっきまでより、確実に空気が変わっていた。


まだ何本も動くかもしれない。


これをきっかけに、

他の卓も一気に走り出すかもしれない。


自分の卓へ向かいながら、

少しだけ足が速くなる。


もう、店の空気に怯えているだけじゃだめだと思った。


まだ、見ている側で終わる自分を許すのは、今夜までだ。

よんでいただきありがとうございます。

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いただいた方にはお返ししに行きます。

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今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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