エピソード71 重さ
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
ららの席に着いた。
「来てくれてありがとう」
「締め日だもん。今日は二十しか持ってこれなかった」
その言い方が、らららしかった。
二十“しか”。
外で聞いたら感覚のほうがおかしい言葉だと思う。
でも、この店の中では、
そのひとことにいろんな意味が乗る。
申し訳なさも、気遣いも、
ちゃんと来たよという意思も、
少しだけ見栄みたいなものまで、
全部まとめて軽く言ってしまう感じだった。
「十分すぎるでしょ」
「締め日なのに?」
「締め日だからこそだよ。来てくれるだけでありがたいし」
「ほんとに?」
「ほんとに」
ららはグラスの縁を指先でなぞりながら、
少しだけこっちを見た。
電話の時みたいなやわらかさもあるのに、
店で向かい合うとまた少し違う。
営業でもあるし、それだけでもない。
その境目を、
ららはいつも曖昧なままにしてくる。
「でも、もっと売れてる人たちの姫って、こういう日すごいんでしょ」
「まあね」
「じゃあ、二十じゃ弱いじゃん」
「比べたらそうかもしれないけど、俺にとっては弱くないよ」
そう言うと、ららは少し黙った。
いつもなら、冗談っぽく返してくる気がした。
でも今日は、そのまま言葉を受け取ったみたいな顔をしていた。
締め日は、どうしても数字の大きさに目がいく。
誰がどれだけ使ったか、
誰がどこまで上がったか。
そんな話ばかりが、
店の空気の下をずっと流れている。
でも実際に卓についていると、数字は急に顔を持つ。
二十万は、ただの二十万じゃない。
目の前の子が、
締め日だからって持ってきてくれた二十万になる。
それはたぶん、
外から見たら同じ金でも、
こっちにとっては少し違う。
「ららはさ、そういうの気にするんだ」
「気にするよ。だって締め日って特別なんでしょ」
「特別だね」
「じゃあ、ちょっとでも役に立ちたいじゃん」
さらっと言ったくせに、その一言だけ妙に胸に残った。
役に立ちたい、
なんて言葉を、
この店ではそのまま受け取っていいのかわからない。
営業中に交わされる優しさは、
ときどき本音と計算が同じ顔をしている。
でも、締め日の張りつめた空気の中で聞くと、
その言葉は変にまっすぐに聞こえた。
「二十って恥かいてない?」
「どうしたの。本当に二十は大きいよ」
「奏楽の今日の客で何番目?」
「一番だよ」
「ならいいか。奏楽のお客さん、二十も用意できないの?」
「まあまあ、そう言ってあげるなよ」
「それで私より奏楽が時間使ってたらむかつくよ?」
「してない。電話もららだけだよ」
「もっとがんばれよ」
「どっちだよ」
そう言って、ららは笑った。
その笑い方を見て、少しだけ肩の力が抜けた。
店の中では、どこかで誰かが大きい勝負をしているのかもしれない。
何本ボトルが出るのか。
誰が今月をひっくり返すのか。
そんな空気はずっと流れている。
でも、卓につけば結局やることは同じだった。
目の前の子と話して、
飲んで、その時間をちゃんと成立させること。
それしかない。
ららが持ってきた「二十しか」は、
締め日の店の中では小さく見えるのかもしれない。
でも少なくとも、その二十の重さを、
今の俺は前よりちゃんとわかる気がした。
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