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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン
ホスト前期

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エピソード70 魔法の言葉

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


 めろの席に、まずついた。


オープンしてまだそこまで時間は経っていないのに、

店の中はもう少しずつ熱を持ち始めていた。


そんな中で、

めろはいつも通りみたいな顔で座っていた。


少し前、バーで知らないホストと一緒にいた時のことが、

頭のどこかにまだ残っている。


でも今日は締め日で、

しかもこうして早い時間から来てくれている。


その事実のほうを、

ちゃんと先に見ないといけない気がした。


「早いじゃん」


「締め日なんでしょ」


「気にしてくれるんだね」


「えらいでしょ」


そう言って、めろは少しだけ得意そうに笑った。


あの時、電話越しに軽く詰めたことなんて、

もうなかったみたいな顔だった。


たぶん、こういう子はそういう空気を引きずらない。


引きずらないというより、

引きずっているのを見せないのかもしれない。


「ホテル行かなくても怒んない?」


「は? もうその話やめて。あの時は酔ってて変なこと言ったの」


「本心じゃないの?」


「違わなくはないけど」


その言い方が妙にめろらしくて、

少しだけ力が抜けた。


締め日の空気はずっと張っているのに、

卓につくと、

こういう普段のやり取りで一瞬だけ呼吸ができる。


「でも今日は、締め日っぽい顔してるね」


「どんな顔だよ」


「なんか、ちょっとだけちゃんとしてる」


「それ褒めてんの?」


「一応」


リコピンがいて、めろがいて、ららも来ている。


先月の自分にはまだ見えていなかった景色。


締め日に三卓ある。


そのことが嬉しいはずなのに、

嬉しいだけで済まないのがこの日の嫌なところだった。


来てくれているからこそ、

何か残さないといけない気がする。


「で、今日は、いくら使ってくれるの」


「やだ、締め日ホストってすぐそういうこと聞く」


「だって締め日なんで」


「素直すぎて逆にやだ」


「でも来てくれてる時点で、ちょっと期待するだろ」


「期待されるの、嫌いじゃないけど」


めろはグラスの縁を指でなぞりながら、こっちを見た。


その目は軽そうで、

でも全部が軽いわけじゃない時の目だった。


俺は水割りを作りながら、

店内をちらっと見た。


まだ何かが大きく動いたわけじゃない。


でも、全員がその瞬間を待っている。


静かなのに落ち着かない。締め日特有の空気だった。


「ねえ」


「ん?」


「今日、ちゃんと売れてほしいとは思ってるよ」


めろはそんなことを、わりとあっさり言った。


手が少しだけ止まりそうになる。


「なに急に」


「別に。締め日なんでしょ」


「そうだけど」


「じゃあ、そういう日くらいはね」


軽く言ってるみたいなのに、

その一言だけが妙に胸に残った。


締め日だから来る。


締め日だから少し気にする。


そういうのを営業だと片づけることもできる。


でも、そういう日にわざわざ足を運んでくれること自体、

こっちにとっては十分すぎるくらい意味がある。


「ありがと」


「素直じゃん」


「締め日なんで」


「魔法の言葉じゃないぞ?」


そう言って、めろは笑った。


その笑い方を見ながら、

俺は少しだけ落ち着きを取り戻していた。


結局、目の前の子との時間を積み重ねる以外に、

この日の正解なんてないのかもしれなかった。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。

いただいた方にはお返ししに行きます。

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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