エピソード69 内側
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
お店がオープンの時間になった。
さすがに今日は、オープン前から十人ほど並んでいた。
普段より少し早い時間から、
店の前には女の子たちが集まっている。
開店前のざわつきと、
店内の慌ただしさが、
入口を挟んで混ざり合っていた。
俺たちは急いでおしぼりを渡して、
グラスを用意して、テーブルを整えていく。
まだ営業は始まったばかりなのに、
もう店の中は軽く戦場みたいだった。
いつも通りに見える動きのひとつひとつが、
今日は少しだけ速い。
誰も焦っている顔は見せない。
見せないのに、
全員がちゃんと締め日を意識しているのがわかった。
声のトーンも、
歩く速さも、
卓を見る目も、
ほんの少しずついつもと違う。
その列の中に、
リコピンもいた。
さすがだと思った。
抜群の安定感だった。
締め日にはちゃんとオープンから来る。
その気遣いができる姫は、言葉にしなくても強い。
たぶん本人はそこまで大げさに考えていないのかもしれない。
でも、こういう日に最初からいてくれるだけで、
こっちはだいぶ救われる。
グラスを運んでいると、
リコピンがこっちに気づいて、
にこっとしながら手を振ってきた。
俺はグラスを片手に、小さく振り返す。
それだけのやり取りなのに、
少しだけ気持ちが落ち着いた。
締め日みたいな日は、
店全体の空気に飲まれそうになる。
みんなが数字を見ていて、
みんなが少しずつ必死で、
その中にいると、
自分までふわふわ落ち着かなくなる。
でも、こうやってオープンから来てくれる子がいると、
それだけで「今日もちゃんと自分の席がある」と思える。
たったそれだけのことが、思っていたより大きかった。
リコピンは相変わらず、
そういうところがうまい。
何か特別なことを言うわけでもないのに、
ちゃんと支えてくれる感じがある。
こっちが勝手に救われているだけかもしれないけど、
少なくとも締め日のオープン直後には、
それがやけにありがたく見えた。
リコピンの席に着く。
「締め日なのに大きいことできなくてごめんね」
「大丈夫だよ。来てくれるだけで、本当にありがたいし」
「いつもよりは持ってるから、いっぱい飲もうね。テキーラ」
「テキーラかよ」
そんな会話をしながらも、
店全体の張りつめた空気はずっと肌に触れていた。
誰が、どのタイミングで大きいボトルを入れるのか。
誰が、今月の空気をひっくり返すのか。
みんな平気な顔をしているのに、
店の奥ではずっと見えない駆け引きが続いている。
まだオープンしたばかりなのに、
今夜はもう、何かが起きる前の匂いがしていた。
めろとららも、
オープンしてから一時間しないうちに店に来てくれた。
その事実に、
少しだけ実感が遅れて追いついてきた。
先月の自分には、
まだ見えていなかった景色だった。
締め日に三卓、ちゃんと自分の席がある。
リコピンがいて、めろが来て、ららも来る。
ただ店に立っているだけじゃなく、
自分を目当てに来てくれる子がいる。
その当たり前じゃなさを、
今夜はいつもより強く感じた。
もちろん、店全体で見れば大した数字じゃないのかもしれない。
ナンバーの上のほうにいる先輩たちからしたら、
こんなのはまだ入口にもならないんだと思う。
それでも、俺にとってはちゃんと意味があった。
先月は、締め日というだけで空気に飲まれていた。
誰がどれだけ呼んで、
どれだけ売るのかも、
どこか遠い話みたいに見ていた。
でも今は違う。
その張りつめた空気の中に、
自分の卓が三つある。
そのことが、
少しだけ自分を店の内側に入れてくれた気がした。
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