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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン
ホスト前期

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108/116

エピソード107 本音

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


ヘルプを終えて、るなの席に戻ると、

るなは少し不機嫌そうな顔をしていた。


さっきまで楽しそうに笑っていた顔とは、少し違う。


怒っているというより、

何かを飲み込めないまま座っているように見えた。


俺がいない間に、何かあったのか。


「どうしたの。何かあった?」


そう聞くと、るなは少し困ったようにグラスを見た。


「いえ、私が悪いんだと思うんですけど……」


その言い方で、逆にちゃんと聞かなきゃいけない気がした。


「悪いとかじゃないから。思ったこと言っていいよ」


るなは少しだけ迷ってから、ぽつりと話し始めた。


「奏楽さんは全然いいんです」


「うん」


「でも、奏楽さんがいない間に来てくれたヘルプさんの飲み物のお金も、

 私が払うんだって思ったら、少し違和感があって……」


その言葉に、一瞬、返事が遅れた。


あまりにも当たり前になりすぎていたことだった。


ヘルプが席に入る。

飲み物をもらう。

その分の金額が卓につく。


店では普通のことだ。


ホスト側も、姫側も、

何度か来ている子ならたいていわかっている。


むしろそれ込みで場を回している。


担当が席を外した時にヘルプがついて、

空気を切らさないようにして、

その対価として飲み物をもらう。


そういう仕組み。


でも、初めて来たるなからしたら、

たしかに変なのかもしれない。


自分は奏楽に会いに来た。


奏楽がいない間に、

知らないホストが来る。


その人の飲み物代まで、自分が払う。


言葉にすると、たしかに不思議だった。


「そっか」


俺はそれしか言えなかった。


るなは慌てたように首を振った。


「いや、嫌だったとかじゃないんです。

 来てくれた人も普通に優しかったし、楽しかったんですけど」


「うん」


「でも、なんか……あれ?ってなって」


その「あれ?」が、妙に胸に残った。


俺たちが当たり前にしていることは、

外から見ると全部「あれ?」なのかもしれない。


席に着くこと。

飲み物をねだること。

担当がいない時間を、別のホストで埋めること。

そして、その全部にお金が発生すること。


ホストクラブの中では自然に回っている仕組みが、

初めて来た子にはまだ自然じゃない。


それを忘れていた。


「ごめん」


気づけば、先に謝っていた。


るなは驚いたように顔を上げる。


「え、なんで奏楽さんが謝るんですか」


「いや、俺がちゃんと説明してなかったから」


「でも、そういうお店なんですよね?」


「そういうお店ではある。でも、初めてなら違和感持って当然だと思う」


そう言うと、るなは少しだけ安心したように息を吐いた。


「変なこと言ったかなって思いました」


「全然。むしろ言ってくれてよかった」


本当にそう思った。


この店にいると、感覚はすぐにずれていく。


十万が小さく見えたり、

二十万を“しか”と言ったり、

ヘルプの飲み物代を当然みたいに受け取ったりする。


でもそれは、最初から普通だったわけじゃない。


普通じゃないものを、

普通だと思える場所にずっといるだけだ。


るなは、まだその外側の感覚を持っている。


それが少し眩しく見えた。


「今日は、無理に飲ませたりしないから」


「それは……ありがとうございます」


「あと、ヘルプの飲み物も、気になるならちゃんと言っていいよ。断っていいし」


「断っていいんですか?」


「いいよ。少なくとも、俺の席では」


そう言うと、るなは少しだけ目を丸くした。


たぶん、断っていいという発想自体がなかったんだと思う。


「なんか、難しいですね」


「難しいよ」


「楽しいけど、ちょっと怖いです」


その言葉は、初めてホストクラブに来た子の本音だった。


楽しい。


でも怖い。


その両方がある場所なのだ。


俺は水割りを作り直しながら、少しだけ笑った。


「じゃあ今日は、怖いより楽しいが勝つようにする」


るなは少し考えてから、小さく頷いた。


「お願いします」


その言い方が、初めて喫煙所で「姫にしてください」と言った時より、ずっと現実的に聞こえた。


姫になるということは、楽しいだけじゃない。


金額を見ること。

仕組みを知ること。

違和感を飲み込むか、言葉にするかを選ぶこと。


その全部を含めて、少しずつこの店を覚えていくことなのかもしれない。


俺はるなの顔を見ながら、改めて思った。


この子の初めてを、雑にしたくない。


ホストクラブの楽しさも、怖さも、

ちゃんと説明した上で、

それでもまた来たいと思ってもらえるようにしたい。


それが今日の俺の役目なんだと思った。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。

いただいた方にはお返ししに行きます。

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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