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歌舞伎町が僕を食べる。  作者: 夜坂ネオン
ホスト前期

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107/110

エピソード106 後ろ髪を引かれながら

歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。


そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと


そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。


三人でしばらく飲んだ。


花音さんが入ってくれたことで、

るなの緊張はかなりほどけていた。


最初は店内をきょろきょろ見ていた目も、

少しずつ卓の中に戻ってきて、

笑うタイミングも自然になっている。


「るなちゃん、思ってたより飲めるね」


花音さんがそう言うと、

るなは少し得意そうにグラスを持った。


「そんなに強くはないですけど、楽しいと飲めます」


「いいね。ホストクラブ向いてるかも」


「それ、褒めてます?」


「たぶん褒めてる」


「たぶんなんですね」


そう言って、るなは笑った。


その笑い方を見て、

今日はちゃんと成功している気がした。


売上がどうとか、次の予定がどうとか、

そういうことを抜きにしても、

初めてのホストクラブで楽しそうにしている。


それだけで、少し報われる。


少しして、花音さんが別の卓に呼ばれた。


「ごめんね、ちょっと呼ばれた」


「ありがとうございました」


るなが丁寧に頭を下げる。


「こちらこそ。またあとで来れたら来るね」


花音さんが抜けると、卓はまた二人になった。


さっきまで広がっていた空気が、少しだけ静かになる。


でも最初の二人きりとは違った。

るなの表情はもう固くない。


むしろ、少し落ち着いたみたいにグラスを両手で持っている。


「花音さん、優しいですね」


「でしょ。俺より優しいかも」


「それは困ります」


「困るんだ」


「担当なので」


その言葉に、少しだけ胸が鳴った。


担当。


るなが自分でそう言うと、

花音さんに言われた時より、

さらに現実味があった。


「今、ちゃんと担当って言ったね」


「言いました」


「慣れてきた?」


「まだ変な感じです。でも、ちょっと嬉しいです」


そう言って、るなは照れたように笑った。


その顔を見ていると、

もっとこの席にいたくなる。


今日は、るなの初めての日だ。


できれば最後まで、

なるべく長くついていたかった。


初めての不安も、

緊張も、楽しいと思い始めた瞬間も、

全部ちゃんと自分の席で受け止めたい。


でも、店は俺たち二人だけのために回っているわけじゃない。


少しして、ボーイがこちらに来た。


目が合った瞬間、呼ばれるのがわかった。


「奏楽、ちょっとヘルプお願いします」


「はい」


返事をしてから、るなのほうを見る。


「ごめん、呼ばれたから少し行ってくるね。誰かその間、来てくれるはずだから」


るなは一瞬だけ不安そうな顔をした。


ほんの一瞬だったけど、ちゃんと見えた。


初めての店で、担当が席を外す。


それはたぶん、思っているより心細い。


「すぐ戻るから」


そう言うと、るなは小さく頷いた。


「わかりました。いってらっしゃい」


その言い方が、少しだけ無理しているようにも見えた。


俺は席を立ちながら、ボーイに軽く目配せする。


変なやつをつけないでほしい。


そんなことを言える立場ではないけど、

今日はるなの初めての日だ。


できるだけ、楽しかった記憶だけを残したかった。


席を離れる直前、

るなが少しだけ笑って言った。


「ちゃんと戻ってきてくださいね」


「もちろん」


そう返して、俺はフロアへ向かった。


店の中では、いくつもの卓が同時に動いている。


誰かの初めての時間も、

誰かのいつもの時間も、

誰かの勝負の時間も、

全部が同じフロアに並んでいる。


その中で、俺はまた別の席へ向かう。


るなをひとり残していく背中に、

少しだけ後ろ髪を引かれながら。


初めてのホストクラブで、

最初に覚える寂しさが、

担当が席を立つ瞬間じゃなければいいと思った。

よんでいただきありがとうございます。

感想、評価、レビュー思ったままにお願いします。

いただいた方にはお返ししに行きます。

ブックマークしていただけるよう謹んでまいります。

今後とも長いおつきあいをよろしくお願いします。

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