エピソード104 入場料は高い
歌舞伎町、昨今なにかと世間を賑わせている街。
そんな場所で実際に経験したこと聞いたこと考えたこと
そんなことを織り交ぜたノンフィクション風ファンタジーです。
少し家を早く出て、ヘアメの前にカットも予約した。
別に、髪がどうしても限界だったわけじゃない。
でも今日は、るなが初めて店に来る日だ。
初めてのホストクラブ。
初めての指名。
その相手に、俺を選んでくれた。
そう考えると、
いつもと同じ準備で済ませるのが、
なんとなく違う気がした。
少しでも、楽しんでもらいたかった。
少しでも、来てよかったと思ってほしかった。
それが営業なのか、
ただの気持ちなのかは、
自分でもよくわからない。
でも、そういう境目が曖昧になっていくことには、
もうだいぶ慣れ始めていた。
美容院の鏡の前に座ると、
寝不足気味の顔が映った。
「今日はちょっと整える感じで」
そう言うと、美容師は慣れた手つきでクロスをかけた。
ハサミの音が耳元で鳴る。
落ちていく髪を見ながら、
るなの顔を思い浮かべた。
歌舞伎町の喫煙所で、
急に「姫にしてください」と言ってきた時の顔。
カフェで友達との喧嘩を話していた時の顔。
「褒めてくれても大丈夫です」とLINEしてきた時の、あの少し変な素直さ。
あの子が今日、店の扉を開ける。
その瞬間に、自分がちゃんとした顔で立っていたかった。
髪を整えて、
ヘアメをして、
ららが買ってくれたシャツを着る。
そこまでして初めて、
今日の自分になれる気がした。
鏡の中の自分は、
まだ完璧なホストには見えない。
でも、誰かの初めてを預かるには、
少しくらい背伸びしていたかった。
営業が始まって少しして、
るなが入ってきた。
入口のほうに視線を向けた瞬間、
すぐにわかった。
いつもより少しだけ背筋を伸ばして、
でもどこか落ち着かなそうに店内を見ている。
喫煙所で声をかけてきた時より、
カフェで向かい合った時より、
少しだけ緊張している顔だった。
初めてのホストクラブ。
その空気を、
るなはちゃんと全身で受け取っているように見えた。
照明。
音楽。
知らない男たちの声。
女の子たちの笑い声。
グラスの音。
普通の飲食店とは違う、
少し浮いたような空気。
その中へ、るなは今日、
自分の足で入ってきた。
俺は席に向かいながら、
いつもより少しだけ丁寧に笑った。
「いらっしゃい。初めてのホストへようこそ」
そう言うと、るなは一瞬だけ目を丸くして、
それから照れたように笑った。
「なんか、言い方がテーマパークみたいですね」
「まあ、似たようなもんだよ。入場料は高いけど」
「それはちょっと怖いです」
「大丈夫。今日は俺が案内するから」
そう言うと、るなは少しだけ安心したように頷いた。
その顔を見て、胸の奥が少しだけ落ち着いた。
今日は、売上のためだけじゃない。
るなにとっての最初の一回を、
ちゃんと楽しいものにしたい。
そう思った。
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