第7話 リオVS那須部長
「審判は咲良さん。してくれるか?」
那須が咲良に告げた。咲良は致し方ないという雰囲気でうなずいた。
部員たちは体育館の壁際に身を寄せ、息をのんでコートを見つめている。
那須は前かがみのフォームのまま、卓球台の向こう側で構えた。
股間を庇うポーズのせいで完全に腰が引き引けているが、握り締めたラケットを見る目は真剣そのものだ。
(ふっ……形はどうあれ、俺は県大会ベスト32のカットマン! 初心者相手に負けるはずがない。卓球のコートの上なら俺の領域だ……!)
那須は心の中で自分に言い聞かせる。
(俺の『ナスSPショット』を叩き込んでやる! 咲良さん、俺の勇姿を見ていてくれ……!)
一方、対面のコートに立つリオは、漆黒のラケットをゆったりと構えていた。
「よし……咲良に『力を込めるな』と言われたからな。我が竜気の腕力は封印し、純粋なる『回転』の技術のみで勝負してやろう」
リオは満足げにうなずき、ピンポン球を手のひらに乗せた。
「……おいハゲ、サーブ権はお前からでいいぞ」
那須が低姿勢のまま言い放つ。
「ふっ、ならば遠慮なくいかせてもらうぞ、和也(※那須)!」
リオがトスを上げた。白い球が高々と舞い上がる。
(フッ……力を込めぬサーブ。すなわち――音速を超えないレベルの極限回転だ!!)
リオが手首をスナップさせ、ラケットの面を球の底へ滑り込ませた。
――シュゴォォォォォォッッ!!!!
「――なっ!?」
衝撃音ではない。
まるで巨大な竜巻が体育館の中に発生したかのような、凄まじい風切り音だった。
リオのラケットに接触した瞬間、ピンポン球は信じられない速度で超高回転を開始。
球の周りの大気が激しく摩擦を起こし、白煙を吹き上げながら那須のコートへと跳ね上がった。
「な、なんだあの回転はぁぁぁぁぁっ!?」
那須の目が飛び出しかける。
卓球台の上でバウンドした球は、超猛烈な回転をしながら那須の方へ向かう。
(あの球を打ち返す? 無理無理無理!!! 打った瞬間に腕がもげるわ!!)
部員たちから悲鳴が上がる。
「那須部長! よけてください!!」
咲良がとっさに那須に声をかけた。
咲良は不安そうな顔で那須を見ていた。その表情、その声が逆に那須の勘違いなプライドを奮い立たせてしまった。
(咲良さん……心配しないでください。僕はこの球を見事カットして、あいつのコートへ打ち返してみせます!!)
「いくぞー!!!!」
ドガァァァンッ!!
煙が吹き荒れるコートの中心で、那須はボロ雑巾のように倒れ込み、仰向けになり白目を剥いていた。
那須のユニフォームは衝撃波で粉々に破れ、股間もあらわな完全なる全裸と化していた。
秘部を晒した無残な姿のまま沈黙する那須。
そしてボールはというと、体育館の天井に穴を開けてはるか彼方に飛んで行ってしまっていた
「我の勝ちだな!」
リオはラケットをサッと一振りし、満足げにドヤ顔を決めた。
「さすがリオ様。圧勝でございますね」
ヴァイスが隣でパチパチと拍手をしている。
(……どこが手加減なのよぉぉぉぉぉーーーーーっ!!! 試合ですらなくなってるでしょうがーーーーッ!!!)
咲良の心の叫びが、天井に穴のあいた体育館に空しくこだました。
※余談だがこの一件以来、全裸を全部員に見られた那須部長は、陰で『黒ナスビ部長』と呼ばれるようになったという。




