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第18話 ジェット婆や

幻術を解いた優衣と葵を無事に家まで届け、自宅の前に辿りついた咲良の横を突風が吹きぬけた。


「……ジェット婆や?」


そう呟いた咲良が振り返ると、そこには一人の着物を着たお婆さんが街灯の下たたずんでいた。


「……咲良さま。よくぞご無事で」


「ジェット婆や。さすがのスピードね。今までよく無事に」


着物の裾を風になびかせながら静かに佇むジェット婆や。

その姿は一見するとどこにでもいそうな老女だが、ひとたび彼女が動けば、時速三百キロを超える疾風怒濤の移動で知られる都市伝説の妖怪。そして咲良お付きの老女でもあった。


咲良は、ついさっきまで地下室で繰り広げられていた北欧の香りによる大浄化劇の疲れも忘れ、思わず遠い目をした。

ジェット婆やをひとまず部屋に招き、お茶を飲みながら色々と情報を交換した。


「婆や。私の両親は? 里の仲間は?」


「……」


ジェット婆やは何も言わず、首を振るばかりだった。


「そう…。分かったわ」


咲良は小さく息を吐き出すと、これ以上追及するのはやめにした。

両親や里の仲間たちが今どうしているのか――それを知るのが怖くないと言えば嘘になる。

咲良は強く拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む。


故郷が荒らされ、家族や仲間たちが取り込まれ、また追われる身になったのだと思うと、胸の奥から激しい憤りと悔しさがこみ上げてきた。


ジェット婆やはそっと咲良につぶやいた。


「里を脱出する際に咲良さまの御父上から託されたお言葉がございます」


「なんて?」


「『異界へ逃げよ。そなたを守る準備は整えている』……と。その場所を記した文もこちらに」


「……嫌よ」


咲良は手を固く握りしめ、ジェット婆やを見つめた。


「逃げてその先に一体何があるというの? 毎日びくびくしながら過ごすの? 私は里の仲間や両親まで追いつめた萬天会を……絶対に許さない」


「咲良さま……しかし敵は邪悪、強大でございます。妖の能力を取り込んだ萬天会に勝つ術など…」


ジェット婆やは涙を袖でぬぐいながら、咲良に訴えた。


「それが良い手があるのよ」


咲良は竜族のリオやヴァイスの話。そして微香空間(北欧の香り)で妖を取り除けた話をした。


「な、なんですと!!! 消臭スプレーにそんな能力が!!」


「まぁリオが竜族の秘薬?とやらで精製したそうなんだけど、あれで浄化して戦えると思う」


「まさか消臭スプレーがそのような神威を秘めておろうとは……さすがは咲良さまがお選びになったお仲間でございますな」


「でしょ!」


「しかし…それでは取り込まれた妖は…」


「浄化されちゃうわね」


「父君や母君も浄化されてよろしいと!?」


「どっちが幸せだと思う? 意識もなく、ただその力を利用されるが為に生きながらえる存在。それが生きていると言える?」


ジェット婆やは感極まった様子で深く頷き、涙の浮いた目をキッと見開いた。


「そこまでのご覚悟があるなら、このジェット婆や、どこまでもお供いたしますぞ! この時速三百キロの疾風、萬天会の奴らに思い知らせてやります」


「頼りにしてるわ、婆や!」


咲良が力強く立ち上がると、ジェット婆やもすっと着物の裾を翻して姿勢を正し深くお辞儀をした。


◇◇◇


次の朝。東京駅。


「来たな。咲良」


リオが黄金の瞳を怪しく光らせ、不敵な笑みを浮かべる。


「甲子園にて、萬天会めらを根こそぎ消滅するのみだ」


「リオ……ありがとう。それにヴァイスも」


「咲良さん、礼には及びません。リオ様の『甲子園観光』……いや、日本の平穏を守るという大義のため、全力を尽くす所存です」


「ちょっとヴァイス、いま思いっきり『甲子園観光』って言いかけたわよね!?」


咲良がすかさずジト目で突っ込むと、ヴァイスは微動だにせず、恭しく胸に手を当てて深く礼をした。


「滅相もございません、咲良さん。我が主人の高潔なる目的に『新幹線で富士山を見ながら食べる駅弁』や『甲子園名物のカレー』などの不純な動機が混ざっているなど、

天地神明に誓って口が裂けても申し上げられません」


「全部口に出て言っちゃってるからね!?」幻術を解いた優衣と葵を無事に家まで届け、自宅の前に辿りついた咲良の横を突風が吹きぬけた。


「……ジェット婆や?」


そう呟いた咲良が振り返ると、そこには一人の着物を着たお婆さんが街灯の下たたずんでいた。


「……咲良さま。よくぞご無事で」


「ジェット婆や。さすがのスピードね。今までよく無事に」


着物の裾を風になびかせながら静かに佇むジェット婆や。

その姿は一見するとどこにでもいそうな老女だが、ひとたび彼女が動けば、時速三百キロを超える疾風怒濤の移動で知られる都市伝説の妖怪。そして咲良お付きの老女でもあった。


咲良は、ついさっきまで地下室で繰り広げられていた北欧の香りによる大浄化劇の疲れも忘れ、思わず遠い目をした。

ジェット婆やをひとまず部屋に招き、お茶を飲みながら色々と情報を交換した。


「婆や。私の両親は? 里の仲間は?」


「……」


ジェット婆やは何も言わず、首を振るばかりだった。


「そう…。分かったわ」


咲良は小さく息を吐き出すと、これ以上追及するのはやめにした。

両親や里の仲間たちが今どうしているのか――それを知るのが怖くないと言えば嘘になる。

咲良は強く拳を握りしめた。爪が手のひらに食い込む。


故郷が荒らされ、家族や仲間たちが取り込まれ、また追われる身になったのだと思うと、胸の奥から激しい憤りと悔しさがこみ上げてきた。


ジェット婆やはそっと咲良につぶやいた。


「里を脱出する際に咲良さまの御父上から託されたお言葉がございます」


「なんて?」


「『異界へ逃げよ。そなたを守る準備は整えている』……と。その場所を記した文もこちらに」


「……嫌よ」


咲良は手を固く握りしめ、ジェット婆やを見つめた。


「逃げてその先に一体何があるというの? 毎日びくびくしながら過ごすの? 私は里の仲間や両親まで追いつめた萬天会を……絶対に許さない」


「咲良さま……しかし敵は邪悪、強大でございます。妖の能力を取り込んだ萬天会に勝つ術など…」


ジェット婆やは涙を袖でぬぐいながら、咲良に訴えた。


「それが良い手があるのよ」


咲良は竜族のリオやヴァイスの話。そして微香空間(北欧の香り)で妖を取り除けた話をした。


「な、なんですと!!! 消臭スプレーにそんな能力が!!」


「まぁリオが竜族の秘薬?とやらで精製したそうなんだけど、あれで浄化して戦えると思う」


「まさか消臭スプレーがそのような神威を秘めておろうとは……さすがは咲良さまがお選びになったお仲間でございますな」


「でしょ!」


「しかし…それでは取り込まれた妖は…」


「浄化されちゃうわね」


「父君や母君も浄化されてよろしいと!?」


「どっちが幸せだと思う? 意識もなく、ただその力を利用されるが為に生きながらえる存在。それが生きていると言える?」


ジェット婆やは感極まった様子で深く頷き、涙の浮いた目をキッと見開いた。


「そこまでのご覚悟があるなら、このジェット婆や、どこまでもお供いたしますぞ! この時速三百キロの疾風、萬天会の奴らに思い知らせてやります」


「頼りにしてるわ、婆や!」


咲良が力強く立ち上がると、ジェット婆やもすっと着物の裾を翻して姿勢を正し深くお辞儀をした。


◇◇◇


次の朝。東京駅。


「来たな。咲良」


リオが黄金の瞳を怪しく光らせ、不敵な笑みを浮かべる。


「甲子園にて、萬天会めらを根こそぎ消滅するのみだ」


「リオ……ありがとう。それにヴァイスも」


「咲良さん、礼には及びません。リオ様の『甲子園観光』……いや、日本の平穏を守るという大義のため、全力を尽くす所存です」


「ちょっとヴァイス、いま思いっきり『甲子園観光』って言いかけたわよね!?」


咲良がすかさずジト目で突っ込むと、ヴァイスは微動だにせず、恭しく胸に手を当てて深く礼をした。


「滅相もございません、咲良さん。我が主人の高潔なる目的に『新幹線で富士山を見ながら食べる駅弁』や『甲子園名物のカレー』などの不純な動機が混ざっているなど、

天地神明に誓って口が裂けても申し上げられません」


「全部口に出て言っちゃってるからね!?」

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