第6話: 噂と鴉。そして本物の『悪役令嬢』の誕生......
一週間後:
オルフェミの剣の腕前と私の格闘技の高さの噂が広まった今の王国はここの私のアウステルリント家邸宅をもっと静かにしてくれる。
『男食いの魔女』とか『異〈国)黒人ペット持ちの悪白女』の呼び名まで囁かれることになった私たちにちょっかいを出しにくる末端の手下はもはや要塞と化したここへ侵入する勇気を失くしたわね。
それでも、復讐は冷めてから仕返すのが良いと言うわよ。
個人的には、絹の手袋をはめ、紅茶の縁にほんのり血痕を残しながら微笑む時が最適だと思うわ。
それが自分の血か相手の血か、じらしてやるのが何よりの調味料だから。
「アウステルリント様、今朝も手紙が届いております」
メイド長のエロワーズが書斎に入ってきた。今回はたじろがない。成長したものだ。
手紙を広げると、窓際で剣を研ぐオルフェミの姿が目に入る。最近やけに私の近くでやるのよね。心地よい音だ。鋼と沈黙は最高の道連れ。
手紙はドルヌ子爵からのもの。元皇太子の腰巾着だった男が、今や「閣下」などと呼びかけてくる。愉快よ。
「また一人、震え上がって寝返りを乞うてきましたわね。オルフェミ、返事を出してちょうだい」
彼が振り向く。
「どんな内容に?」
「衷心より忠誠を受け入れると伝えなさい……それから、ラベルのない砒素の小瓶を同封して。裏切る自由はあるが、代償なしでは済まないと添えて」
オルフェミの唇が微かに震えた。
「ご機嫌よう。徐々にもっと恐ろしい悪役令嬢らしい振る舞いになってきたようだね…」
「ええ...」
手袋をはめながら立ち上がる。
「公衆の面前で辱めを受けるのを止めてから、退屈で仕方なかったの。そろそろ人々に教えてあげましょう…私が追い詰められた時、どれだけ悪辣になれるかを…」
我々は首都上流街へ向かった。
貴族たちは雷雨前の鳩のように騒めいている。私に纏わる噂は香水のように付きまとう。毒殺者。反逆者。魔女。私のお気に入りは「男喰い」。
ああ、願わくば。
真っ先に皇太子を食ってやりたいわね。
【闘技場の中庭】...
中庭は剣術の稽古、無駄話、そして存在価値を偽る貴族の子弟で賑わっていた。
宣言をするには絶好の場所。
「ヴィオレッタ・フォン・アウステルリント?」
背後で鋭い声。
振り向くと、皇太子の腰巾着ハーランド・デュ・ヴィールが立っていた。
骨と見栄っ張りで出来た男。分不相応な自尊心を鎧で誤魔化している。
「お主の飼い異国人の黒犬が聖女を襲ったそうだな?...それは大逆罪だぞ!」
「あ~ははは!」
私は笑った。
「あらあら...、今は信者集めの女を聖女と呼びますの? 教会も堕ちたものですわね」
男は剣を半分抜きながら進み出た。
「......狂ったな」
狂ってる?
違うわ。
解き放たれたのよ。
オルフェミに頷く。
「この野良犬の歯を抜いてくれませんの?」
オルフェミはため息。
「...またか?」
「予防歯科と思いなさい」
続いたのは決闘ではなく解剖学実習――オルフェミ流だ。
一閃で剣を落とし、二の太刀で膝を外す。最後に喉元に刃を当てて地面に跪かせた。
「選択肢をやろう」
オルフェミが宣告する。
「俺の靴を舐めるか、令嬢に謝罪する。あるいは失禁して逃げる」
「ひ、ひ~!ささ、三~!、三番だー!」
タタタタタタ―――――――!!
ハーランドが泣き叫びながら走り去っていった。
卑怯者。抵抗してくれると期待したのに。
今の私は動脈の噴き出す血が見たかった。
【後刻・私の応接間】
エロワーズが紅茶を注ぐ中、私は次々と届く貴族たちの哀願状に返事を書いていた。
オルフェミは近くで本を読んでいる。
「あの皇太子の金髪を切り落としてから彼の口元に持っていきながら食べさせたいわ」
カモミールを啜りながら言う。
「行き過ぎかしら?」
エロワーズが紅茶を吹き出す。
オルフェミは片眉を上げた。
「首吊り縄に編み込む方が良いのでは?」
「お勉強が進んでるですわね、ふふふ......」
私は満面の笑み。
宮廷の怪物と呼ばせればいい。
扇子と仮面の陰でオルフェミと私を囁かせればいい。恐れさせればいい。
だって――我々が築こうとしているもの、私が成りゆく姿を本当に知ったら、彼らは囁きなどせず、本当に心の底から震え上がるような恐怖心を抱くことになるでしょうね、あは~!
そして、最後に私のハイヒールを舐めながら跪くことだろう、ふふふ…...
なぜなら、私は今、良く小説に登場している『悪役令嬢』そのものになったんだもの......
こちらがやられる前に、先制攻撃で残忍な対策に出て先に殺った方がいいわね、あは~!
丁度いい強い味方も側に置く事ができたばかりだし~。
.....................................