第9話:王城の地下にある門
王都の地下にある、『隠された図書室』は、予想以上に冷えていた。地上の王城内にある表向きの大図書室とは大違いだ。
松明の灯が、彫刻された黒曜石の柱と魔法で傷んだ古書にちらちらと映り、長い影を落としていた。
レイザリア王女は兄のチャールズ王太子と並んで歩きながら、古びた石壁にそっと指を這わせた。
何百年もの埃と魔力の残滓に対応する知識も胆力も備わってる気高き王族の兄妹。
チャールズ王太子は、相変わらず明るく好奇心旺盛な性格で、淡い青い光を放つ銀のランタンを手にしていた。彼が先頭を歩いていたのは、亡き王室記録官の私蔵から見つけた古地図に導かれてのことだった。
「ここだ」
チャールズが言い、部屋の中央に埋め込まれたルーン文字の輪を指差した。
「記録の通りだよ――三日月の門。三百年以上封印されたままだった......つまり、このエスカルディア王国が建国される前に、ずっとあるんだ...」
レイザリア姫は一歩前に出た。
息が詰まる。王族の血を感じ取ってか、魔法陣がほのかに輝き始めた。周囲には古代文字が浮かび上がり、抑え込まれた力が脈打つように光を放っている。
「...まだ動くのかしら?」レイザリア姫の声には、思わず希望の色がにじんだ。
チャールズは中央の魔法紋のそばに跪き、ランタンをその中心に置いた。すると一瞬、ランタンの光が強まり、ルーンが柔らかな光で反応した。
「動くさ。でもエネルギーが不安定だ。...再調整に時間がかかるんだけど、どうやらこの門は異世界とつなぐための装置のはずだからね。再起動には……そうだな、二週間くらい、...かな?」
レイザリアは小さく息を呑んだ。
「二週間……ここで過ごすには長すぎるかも......」
だがチャールズは首を振った。
「違うよ。先を読んでおいた。時間の流れはこことあっちで違う。こっちでの二週間は、向こうでは二日……いや、もっと短いかもしれない......」
その言葉に、レイザリア姫の胸に安堵が広がった。
「じゃあ、まだ望みはあるのね」
彼女は古代の門を見つめた。その眠れる輪の向こうで、ヴィオレッタは反乱を率いている。
エレインは恐ろしい力と戦っている。そしてオルフェミ――、優しく、忠誠深く、驚くほど勇敢なオルフェミは、彼女たちを見守りながら、自らの不在が残した隙を重く感じているはずだ......
レザリア姫は拳を強く握りしめた。
「この門を開く。彼のために...」
チャールズは彼女の肩に手を置いて、力強く言った。
「二週間ある。やるしかないさー」
こうして王族の兄妹は、三日月の門の再起動に向けて歩み始めた。
世界と世界をつなぎ、そしてオルフェミをあちらの仲間を迎えに行かせるために――!
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