第8話:縛られし顎の囁き
オルフェミの視点:
朝の陽光が王宮の温室のステンドグラスを通して差し込み、ラベンダーとブルーブルームの花々に朝露がきらめいていた。
空気にはレモンケーキと淹れたての紅茶の優しい香りが漂っている。
俺は静かにレイザリア王女の隣に座り、彼女が優雅に紅茶を啜るのを見守っている。
近くには別のテーブルに腰かけているチャールズ王子がタルトを勢いよく切り分けている。
一瞬、すべてが穏やかに感じられた。
(~!?)
しかし次の瞬間、背筋に冷たい戦慄が走った――!?
カチャ―ッ!
手にしたカップが震え、俺はテーブルの縁をしっかりと掴んだ。
レイザリア王女が鋭い目で俺を見つめてくる。
「どうしたの?」
「また感じたんだ…」
俺は震える手を見下ろしながら答えた。
「闇の波が押し寄せてきて…そして引いていったような感覚......」
チャールズ王子が眉を上げる。
「また君の世界からのメッセージかい?」
「...ああ...」
俺はゆっくりと頷き、焦点の合わない目で遠くを見つめた。
「今回はメッセージじゃない…ただの感覚。でも、...以前のような恐怖ではなかった。誰かがそれに立ち向かっているような…」
目を閉じて、囁く俺。
「エレイン…彼女が何かをした。まだ生きている。でも、変わったんだ」
レイザリア姫が手を伸ばし、俺の腕に優しく触れる。
「前にあなたを怖がらせたあの少女?」
「彼女は悪気があったわけじゃない...」と静かに答えた俺。
「ただ、古代の邪悪なものに巻き込まれた子供だけだと思った。でも今は…彼女はそれに立ち向かっている気がした。手懐けようとしているんだと思う......」
チャールズ王子が前のめりになる。
「その…縛られた力。それは君の世界にとって何を意味するんだ?君が去った戦争にとっては?」
俺はためらい、紅茶の表面に映る自分の顔を見つめる。
「それは、まだ潮目が変わる可能性があるということ。でも同時に、危険も増している。もしエレインがあの恐ろしい力を完全に制御できるなら、他の者たちがそれを奪おうとするかもしれない。堕落させて、自分たちの目的のために利用しようとするかもしれない。」
レイザリアが真剣な表情で言う。
「あなたの友人たち—、そのヴィオレッタやヴェレナ—といった女たちは彼女を守れると思う?」
その言葉に対し、かすかに微笑んだ俺。
「もし誰かが彼女を守れるとしたら、それは彼女たちだけだ。ヴィオレッタなら、たとえ死神が彼女を冥界へ連れ去ろうとしても、きっと顔面を槌鉾で撲撃し、激しく殴りつけてみせるだろう......」
チャールズが低く口笛を吹く。
「君の世界は思った以上に興味深いな。...強き女たちが多そうだ...」
「本~当に興味深いわね」
レイザリアが繰り返し、俺の目を見つめ続ける。
「でも危険が多くあることは確かね。それでも、何があっても戻りたいとあなたが願うのよね、あの世界は…?」
俺はこの温室を囲んでる窓の外を見つめたまま、
「そうだ。彼女ら、ソンブライアーまでもが俺を必要としている。そして俺も…そこにいる必要がある。たとえここで平穏を見つけたとしても…彼らを見捨てることはできない...」
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静寂が訪れた—、それは柔らかくも重みのある沈黙。
王女の指が俺の袖にしばらく触れてから、そっと離れた。
「ならば、方法を見つけよう」
王女は力強く言った。
「一緒に。あなたを偶発的にここへ連れてきた魔法があるなら、戻す魔法もあるはずよ」
チャールズも頷く。
「君には今、国王に次ぐ一国の2番偉い人物たち、その王子と王女が味方についている。必ずに大きな力になるはずだ」
王様かぁー。確かに先日、彼らによれば、王女達のお父さんがあまり元気じゃないから、ベッドで寝たきりあまり起き上がる気力がないから、政務の殆どは王太子でもあるチャールズが任されてるんだっけー?その......『グラム宰相』って人物、...恐らく国の3番目偉い人物と共に......
「ふぅー」
まあ、何はともあれ、今の俺はようやく息を吐き、微笑んだ。
感謝と希望、そしてまだ抱える重荷とともに。
「ありがとう。二人とも......」
外では鳥たちがさえずっていた。
しかし、時空を超えて、俺の魂の奥深くで、まだ微かにグールたちの囁きを聞けている気がする。そして、自らの闇を鎖で縛った少女の、規則正しい心臓の鼓動までもー!
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