第7話:子供と意志の鎖
反乱軍基地と近くにあった礼拝堂の廃墟は、今や静寂に包まれていた。
「ぐけけエエ~!」
「かくかぐくィィ~ッ!」
結界の外、向こうでは、まだ彷徨うグールたちの遠雷のような唸り声が聞こえるだけだった。
エレインは、血に染まった祭壇の中央に座っていた。
濡れた蜘蛛の糸のように顔に張り付いた髪。黒く染まった瞳は虚空を見つめ、喉からは蛇のように這い上がる囁きが漏れていた。
「肉…骨…飲み込む…喰らう…」
「しっ…」
ヴェレーナが彼女の隣に跪き、聖杖を後ろで置いてきながら、エレインの震える肩に触れようと膝を抱えていた右手を伸ばしてくる。
「君は一人じゃないないわ。わたしたちがいる」
私はその後ろに立ち、腕を組み、険しい表情で尋ねた。
「これしか方法はないの?」
「...ええ」
ヴェレーナは頷いた。
「彼女がこの力を縛らなければ、1時間も経たずにグールたちは神聖な結界すら突破するでしょう。今、彼女を助けなければ、永遠に彼女を失ってしまうわ」
私はエレインを見つめた。彼女は私たちの大切な戦友であり、仲間だ。恐怖以上の感情が胸を締め付ける。
愛情?責任?罪悪感?おそらく、そのすべて。
エレインはゆっくりと瞬きをし、まるで記憶を辿るように囁いた。
「『繋がれし顎の儀式』により…神々を超えし存在たちに呼びかける…眠れる飢えが、あたしの意志によって鎖に繋がれるように…」
彼女の膝の上に、影でできた巻物が現れた。薄く、しかし確かに見える。暗いルーン文字が踊り、輝いている。
彼女は途切れ途切れに続けた。
「蒼白なる飢えが、もはや野放しの獣としてではなく…あたしの剣として…盾として…声として…」
「グけえええええぇ――――――――――――――――――!!!」
突然、外から悲鳴が響いた。
「わかくゲエエ~~!!」
「がくけコオオッ――――!!」
「ひかくゲコッ――――!!」
グールたちがシスター・ヴェレーナの張ってくれたこの神聖な結界に爪を立て、痛みにも怒りにも似た叫びを上げている―――!
彼らは感じ取っていた。彼女の反抗を!
エレインは胸を押さえ、呼吸が荒くなり、手は拳が開閉するように痙攣している!
「犠牲の鎖によって…縛られよ…新たな主に従え…」
バコオオ―――――――――――!!!
ド―――!
「ぐはあー!?」
「くッ~!?」
彼女の体から黒いエネルギーの波が放たれ、ヴェレーナを後方に押しやり、私も足元がぐらついた。
夥しい程の影の蠢く様が彼女の周囲に渦巻き、暗い思念を囁いているみたいだ!
「何かを捨てなさい。願望を。魂の一部を...」
「うぅうぅ~...ひくッ!」
エレインはすすり泣いた。
「ヴィオレッタを忘れたくない、ひくッ!…ヴェレーナがくれた美味しいパンも、ぐすッ!…そしてっ!......ぱ、パパ~!パパも帰って下さいよ―――!うわああ~!」
「~!!」
カーッ!
私は前に出て、彼女の手をしっかりと握った。
「ならば、別のものを捨てなさい。痛みを伴うもの。失ってもいいものを!」
エレインの唇が震えた。
「......なら、...普通の、...女の子になる夢を…捨てます…」
巻物が黒い炎を上げて燃え上がり、ルーン文字が稲妻のように空へと走った――!
「あたしの願いを燃やし尽くせ…他者が生きるために…顎は血ではなく…目的を喰らえ…」
ゴゴゴゴゴゴゴ―――――――!!!
基地と礼拝堂が震えた!
「ぐわああああああああ―――――――――――――――!!!」
天が裂けるような咆哮が響いた!
外のグールたちが…崩れ落ちた!
糸が切れた操り人形のように!...数十体が黒い灰となり、他の者たちは霧のように地面へと溶け込んでいった。神聖な結界が消えた。
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静寂が支配し始めるこの場所。
がくッー!
エレインは私の腕の中に崩れ落ちた。
意識を失っていたが、呼吸はしていた。
その体はまだ蒼白で、瞳は暗いままだったが…狂気は消えた。
彼女は、彼女自身に戻っている。
ヴェレーナはゆっくりと立ち上がり、杖を手にした。
「終わったわ。彼女は…自らの”内なる闇”を縛ったのよ。制御したようなの」
「...ふぅぅー」
私は無意識のうちに息を吐き出していた。
腕の中の小さな少女を見つめ、そっと囁いた。
「お前は、私が出会ったどんな兵士よりも強いのね」
遠くの空が再び暗くなった。新たな嵐が迫っているそう。
そして、時空を超えたどこかで…、オルフェミは、影の力が消えゆく波動を感じ取ってくれてるはずだと思うの!きっと!




