第5話:光の聖域
ヴィオレッタ視点:
あの亡者たちは、もはや召喚されただけじゃなかった。
……増殖していた!
影の中からずるりと這い出し、砕けた石の下から、枯れ木の幹から、崩れかけた建物を這い上がってくる。裂けた口と涎だらけの牙をむき出しにしながら。
肺もないくせに叫び、声もないのに笑っていた。空気は腐臭と絶望にまみれていた。
そして、その中心に……エレインがいた――!
あの頃の、臆病で頼りなかった小さな少女はもういない。
彼女の足は地面から数センチ浮かび、髪は霧のように白く淡く、風もないのにふわりと漂っていた。
瞳は虚無の黒、深くて、何も映さず、誰も見ていなかった。
...唇がわずかに動くたび、無数の声が重なりあい、割れて、反響して……まるで人間の声じゃなくなったったように。
私は血の味を感じながら、ふらつく足で立ち上がった。
闇の衝撃波で、少しだけ恐怖と戦いながら、内臓が震えていることを何とか落ち着けようとする。
「エ、エレイン……あなた、いったい……何に……?」
あの亡者たちはエレインを襲わなかった。
……いや、むしろ、彼女を“崇めている”のだ。
腹這いになって近づき、地面に額をつけ、彼女を神のように、母のように、女王のように……祈りを捧げるように震えている。
「逃げろ!逃げるんだ!」
誰かが叫んだ。
「だめっ!彼女を置いてなんていけないわ!」
私は叫び返した。
でも――わかっていたんだ。
もう、エレインはただの普通の少女じゃなかった――!
その時、光が、空を切り裂いた。
「ルクス・インウィクター!」
天から光の柱が降り注ぐ――――!!
まばゆい聖光の中心に――シスター・ヴェレーナが舞い降りてきた!
戦場に降り立つ聖者のように。銀のメイスが神の聖白の炎を宿し、黒いタイツとヒールが輝きを放ちつつ、大地にその身を叩きつけた。
「こっちへ来て!」
ヴェレーナが腕を掲げ、祈るように叫ぶ!
「聖壁展開――《光輝の聖域》—!」
パチー―――――――――――――!!!
黄金の光が爆ぜ、私たちを包み込むように広がる。
ピカ――――――――――――――――!!
巨大な光のドームが形成され、百メートル以上の範囲を覆った!
その光に触れた瞬間――亡者たちは悲鳴を上げた。皮膚が焼け、ただれ、消滅していく。
「うげえぇッ~~!」
「ぐけけエエー!」
「フかけケケぇッ~!」
灰になりながら、地獄のような叫びを残して消えた!
................................
結界の内側は、温かかった。……もう安全のようだ。
「はぁ~ふぅ...はぁ~ふぅ...」
私は肩で息をしながら、ヴェレーナにもたれかかる。
「た、助けてくれたのね……」
「今だけよ」
ヴェレーナの顔は蒼白だった。
「でも……あの子、力が強すぎる。子どもが持つには……あまりに禁忌すぎる力よ」
私たちは、揺らめく聖壁の向こうを見つめた。
「ソ、ナ、タラ...」
浮かぶエレインが金属音のような声を発してきたー!
まるで磔にされた天使のように、両腕を広げて―――!
空っぽの瞳。人ならざる呟き。
「……ズゥ……祝宴は……すぐに……始まる……ヒィィ……」
元リーダのマークでさえ、肋骨の痛みにうずくまりながら、膝をついて震えている。
「……神々よ……あの子は、いったい何なんだ……」
私は唇を噛み、拳を握った。
「……エレインよ。あの子は、エレインなの!」
「でももう、俺たちのことなんて覚えてないじゃないか!」
誰かが言った。
「覚えてなくてもいい。思い出させればいいのよ!」
私はそう返した。
「絶対に、連れ戻す。あの子は、あの子のままなんだから」
言いかけたそのとき――!
……空気が震えた。
黄金の結界を通して、どこかから温かい波が届いた。説明のつかない感覚だった。
でも――わかっているんだ。
胸の奥で、はっきりと感じ取れた。
世界の向こうから、引き寄せられるような糸...
「……オルフェミ……?」
たとえこの距離でも。たとえ世界が隔てていても。
......彼は――感じ取ってくれた!
そして今――彼は、何かして、直ぐに来ているんだと思う。
そう、......信じたい私だった。
...................................




