第3話:世界を越える伝言!
オルフェミの視点:
空は静かな宵闇の色へと変わっていた。
薄紫、まるで一日の最後の息が地平線の下へと消えていくようだ。
俺は宮殿の天文台の高いドームの下、一人立っていた。
頭上から差し込む月明かりが、ブーツの下の大理石の床を銀色に染めている。しかし、俺の意識をすべて奪っていたのは、手にした『それ』だった。
不気味なほどの緊迫感を帯びて、それは震えていた——、まるで怯えた心臓のように。
不規則に。神経質に。
俺はそれを胸に引き寄せた。それは、あるい俺私自身——を落ち着かせるためだろうか。すると、神秘的な光が閃き、声が響いた。
「オルフェミ……!」
ヴィオレッタ様の声が、鋭い断片となって迸るー!?
「~~~!?」
胸が締めつけられる。
「届くかわからないけど……とんでもないことが起きたのよー!エレインが……目覚めてしまったわ。彼女の力は……聖なるものじゃない。怪物みたいなのー!彼女が呼び出したものは、グール——!この世に存在すべきじゃないものたちよ……」
「~!」
俺は息を止めた。
「奴らは人間を……紙切れのように引き裂いた。私ですら……怖かったよ!...みんなそうだった。......まともに見ることすらできなかった。逃げた。吐いた。私たちはあ——!」
パチパチ―!パチ.......
通信が途切れた。
そして、一瞬だけ、オーブが彼女を映し出した。ヴィオレッタ様だ!
蒼白で震え、血と泥で汚れた服を着ている。あの誇り高き『殺戮の魔女』と『悪白女』の面影はどこにもなかったー!
「帰ってきて。お願い。できないのはわかってる......。でも……試さずにはいられなかったの。私たち……もう長く持ちこたえられないかもしれない……」
パチー!
そして、その瞬間——!光は消えた。
.......................
オーブは色を失った。
「......」
俺はただ……虚ろなまま立っていた......。
「......くそ!」
手が震える。
静寂が戻ってくる。......しかし、安らぎのそれではない。......何かが恐ろしく壊れてしまった後の、重苦しい静けさだ。
...エレイン……?
あの子が? 雷が鳴ると私にしがみついていた、あの無邪気で怖がりな子が...?
......あの天使のような声の持ち主が、...グールを呼び出した?
ドー!
気づけば、俺は膝をついていた!
胸を締めつける何か——引き剥がせない手のような感覚......
心臓は狂ったように暴れ、冷や汗が背中を伝う。背筋に、何か古くて残酷なものに触れられたような悪寒が走った。
この感覚……。忌まわしいあの感覚。
...初めて「死」を味わった日のことを思い出した——、故郷の空を血と煙が覆い、誰も俺の叫びに答えなかったあの日のように......
カチ―!
オーブが軋んだ。
カチカチカチー!カチャ――――――!!!
乾いた骨のような音を立てて、それは砕け、粉々になり、音もなく空中に消えていった。
.......................
「オル...フェミ……?」
羽が石を撫でるような、かすかな声が後ろから聞こえてきた。
ゆっくりと振り返ると、彼女がいた——!レイザリア姫だ。
ハイヒールを履いていて、真夜中の海のような色の寝間着をまとっている。
...長い髪は解かれ、月明かりの中で星屑を織り込んだように輝いていた。
オーブの光に気づき、追ってきたのだろう。
彼女は俺の顔——俺の様子を一瞥すると、ためらわずに歩み寄った!
「光が見えたのだけれど、……一体何があったの?」
と 彼女は囁くように言い、俺の傍らに膝をついた。
「―」
口を開けた——が、声が出ない。
喉が、今見たものの重みで押し潰されたように感じた。彼女の目すら見上げられなかった。
すると……
ぎゅ~~!
彼女は後ろから腕を回して、俺を抱きしめた。
ただ、そうしただけだ。
...頬を俺の背中にそっと寄せる。
俺は凍りついた。
戦いと裏切りで研ぎ澄まされた本能が、身を守れ、と叫ぶ。しかし、彼女の触れあい……その温もりは、...俺を易々と溶かしていった。
「大丈夫よ」
と 彼女は囁いてきた。
指先が、首の付け根から背骨へと、ゆっくりと優しく滑る——!暖かい肌を伝う雨のように。
俺の気づいていなかった「棘」を、そっと撫でるように......
「あなたは今のところ安全よ。ワタシと一緒に、呼吸してー?」
心臓はまだ激しく鼓動していたが……彼女の呼吸は……音楽のようだった。
...ゆっくりと。規則正しく。
......そして、不思議なことに、俺の体は彼女のリズムに合わせ始めた。
...吸って。...吐いて。
彼女は答えを求めなかった。
説明を要求しなかった。
ただ、抱きしめてくれただけだった。
「ひくっ」
そして……涙が溢れた。
気づきすらしなかった。ただ、いつの間にか頬を伝っていた——静かに、恥ずかしさに震えながら。
「よしよし......もう大丈夫よ?...ワタシがここにいて、あなたの側についているから......」
「ぐずっ~、うわああー!」
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.................
どれほどそのままだったろう——?
...二人きりで、天文台の星空の下、沈黙の中で。
......しかし、彼女の腕は決して離れなかった。声は、ずっと穏やかで、確かだった。
そして、もう一度——、かすかに囁いてきた!
「一人で背負わなくていいのよー?」
その言葉は……鋼の刃よりも深く突き刺さった!
俺はゆっくりと振り返り、ようやく彼女の目を見た。
「落ち着いたかしら?」
彼女の瞳は淡い青色だった。澄んでいて、静かで。恐れも、裁きもない。
ただ、俺の心配をしているだけだ。そ、...それだけが、穏やかに、そして辛抱強く映っていた......
そして、もしかしたら——ほんの少しだけ——何か別のものが。新しい何かが。芽生えているような、そんな気がした。
「......」
何を言えばいいのか、わからなかった。
ただ、一つだけ確信があった。
長い間ぶりに……暗闇の中で、俺は一人じゃなかったんだ!
でも、...エレインはー?
俺は、...彼女のパパだ!
あの子が、俺を必要としている最大なピンチにいるならー!
早く、...帰らないと―――!
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